第105話 合同訓練①



【天陽国】


 軍と学校の半年に一度の合同訓練の日がやって来た。


 場所は毎年同じ、妖獣が生息する森と平野地区の立ち入り禁止地区で行われる。


 今回も合同練習をする軍の者達は、D級とE級ランクのまだ若い者達で形成された10人ほどの部隊だ。


 軍は100人ほどで形成された部隊に別れており、その中で強さと経験からA級、B級、C級、D級、E級とランク訳されている。年数と功績でランクが上がっていく仕組みだ。

 ちなみにサクラの兄フジと姉アヤメは、C級ランクに位置している。



 ナギ達は、最初から決められた軍の部隊とチームで組まされ、説明も個々でされる。今回一緒にする軍隊は、第3部隊の者達だ。

 そしてヤマトと天宮も見学という形で参加していた。


「やあ、今日はよろしくね」

「なんでヤマト様がいるんだ?」

「ナギ! そんな言葉使いだめでしょ! 申し訳ございませン⁉ ヤマト様」


 ヤマトとナギの関係を知らないエリカが慌てて注視しヤマトに謝る。


「五條さん、大丈夫だよ。ナギとは知り合いなんだよ。だから気にしないで」

「そうですか……」

「で、ヤマト様、何しに来たんだ?」


 ナギの態度に天宮は無言で顔だけをムッとさせ不機嫌丸出しになる。そのため他の者は皆ヒヤヒヤだ。そんなことはお構いなしにヤマトは笑顔でナギに応える。


「今年は時間があったからね。見学でもしようかなと思ってね」


 表向きはそうだが、本来の目的は監視だろうとそこにいた者全員が推測する。だがナギとソラだけは違った。


 ――サクラだな。


 ナギが倒れている時にシンメイがナギのお見舞いに来たが、あれはサクラの様子を見に来ていたようだとユウケイから聞いた。封印の強化に来たのだろうことは容易に想像がつく。


 ――刺激をすると良くないからか。


 ミカゲから聞いた話だ。


「今回の訓練は、少しでもお互いを知り、軍の者は弱き者を守ることの大変さ、重要さを学び、学生は軍の者達の仕事という者を事前に知り、そしてお互い協力し合うことが本来の目的だ。だからお互い信頼し力を合わせて仲良くするようにね」


 ヤマトの言葉は、いわゆる軍の者達への牽制だ。それを分かっているからか軍の者達は背筋をピンとして緊張する。


「軍の君達は学生達にちゃんと良いお手本を。そして学生の君達もちゃんと軍の人達の言うことを聞くように。わかったね」

「はい」


 ヤマトの話は終り、今度は天宮が前へと一歩出る。


「じゃあ今回の訓練の内容を説明する」


 軍の者は特に天宮に緊張する。そりゃそうだ。軍で言えば天宮は軍のトップクラスの者で憧れの存在なのだから。


 天宮は地図を広げる。


「今回の討伐地区はB地区にいるレベル6の猪笹いのささ、イノシシの妖獣だ」


 今回はレベル6ということもあり、作戦は事前に用意されていた。


 A班、B班、C班に分かれ、3方向から挟み撃ちをする形で徐々に追い詰め、仕留める作戦だ。

 猪笹いのささは皮膚がとても硬いため、ただ攻撃しても倒せない。まず捕獲し動けなくしたところで、催眠の術をかけ近距離で銃で仕留めるのが一般的な討伐方法になる。


「今回は3班連絡を取り合い、今居る場所と、距離、攻撃をするタイミングなどを図りながら各自の分担をきちんと守り、連携し、討伐することを目的とした訓練だ。勝手な行動は命取りになる。猪笹いのささは人間の血肉を好む。そして絶対に刺激をするな。そこだけは守れよ。私が言えるのはここまでだ。討伐の細かい指示などは軍のリーダーを中心にお前達で決めること。リーダーは考えてきているな?」


 天宮が軍のリーダーを見れば、首を縦に振り頷く。


「学生は軍の者に作戦を聞き従うように。以上! 健闘を祈る」


 そこでハヤトと天宮とはそこで用意された軍のテントへと戻って行った。


 その後、第3部隊とナギ達ウエストのチームは決められた場所へと移動する。その移動の間、第3部隊の者達のひそひそ話が聞こえて来た。


「あれが一條様の長男か。噂ではヘタレで引き籠もりでどうしようもない奴と聞いていたが」

「え? 俺はまったく妖力がない無能者だと聞いていたけど」

「そうなのか? 俺は息子ではなく本当は娘だと聞いていたぞ」


 それを聞いたナギの横を歩いていたソラが笑う。


「君、すごい言われようだね」

「……あはは」


 もう笑うしかない。


 ――ユウリ、悪評すごいぞ。


 心を読んだソラがクスクス笑う中、サクラがナギの横に来て言ってきた。


「ナギ、あんな言葉、気にしなくていいからね」

「え?」


 サクラを見れば、ムッとしている。


「ほんとムカつく。ナギは違うのに。あれはユウリなんだから。もう言ってやりたい」


 そんなサクラにナギは鼻で笑う。


「何笑ってるのよ」

「いや、なんでお前が怒ってるのかと思ってな」

「普通怒るでしょ! あんな酷いこと言われたら」

「でもあれはユウリのことだろ? あながち間違っていないしな」


 ナギははにかみながらユウリの過去を思い出す。


「そうだけど……。ナギのことじゃないし……。それに……」

「?」

「それに、ユウリだとしてもムカつくから……」


 そんなサクラにナギは微笑む。


「まあお前はそういうやつだよな」

「え?」

「お前はそのままでいいって言ったんだ」


 サクラは目を細めて口を尖らす。


「どういう意味?」

「俺の代わりに怒ってくれればいいってことだ」

「? なにそれ」


 だがそれ以上ナギは応えなかったため、サクラは意味が分からず眉を潜めるのだった。




「ここだ」


 第3部隊のリーダーが言う。


「今年はお前達が学生だけで組みたいと言っても組ませることは出来ないから諦めろ。十家門だと言っても無理だからな」


 言い方からして、去年はサクラ達が自分達だけでチームを組みたいと言ったことになっているようだ。やはり実際のことと報告は違うようだ。それにはコウメイが黙っていなかった。


「事実と大分違うようだが? そんな嘘の報告したやつは誰っすか? 去年いた人っていますか? 去年と同じ隊なんだ、何人かいるでしょ?」


 コウメイが怒りを抑え、冷静を装いながら訊ねる。だが誰も手を上げない。


「リーダーさんよ。去年あんたはいたのか?」

「お前、口の利き方に気をつけろ! 学生だからって許されないぞ」


 副リーダーの隊員らしき者がコウメイを叱咤する。


「じゃあ学生を殺害寸前まで追い込み、嘘の報告をするあんた達軍人はいいのかよ」


 コウメイも負けずに反論する。もういつ爆発してもいい感じだ。


 ――やばいな。


 そうナギが思った時だ。ソラが割って入る。


「先輩、そのへんにしときましょう。俺は気にしてないですよ。それに俺は去年の人達全員覚えてますから」

「……」


 何人かの表情が強ばる。


 ――なるほど。やはり去年関わったやつは何人かいるみたいだな。だがあの怯えよう。ソラは去年どんな風にしたんだ?


 そう思ってソラを見れば、満面の笑顔で返された。ナギは片眉をひくつかせる。


 ――俺の心読みやがったな。


「先輩も怒り抑えて。ヤマト様に怒られますよ」

「ちっ! わかったよ」


 ソラに言われコウメイは大人しくなる。ヤマトに怒られるのは、さすがに良くないと分かっているようだ。軍の者達も同じのようで、それ以上追求はしてこなかった。


「じゃあ計画通り3つの班に分かれてもらう。班は5人ずつの3班だ。そして学生の組み合わせは一條ナギと三條ソラ、五條エリカと九條サクラ、そして六條コウメイだ」

「なぜ男女で別れさせたんですか?」


 コウメイは不満を露わに訊ねる。やはり先ほどのことがまだ引きずっているようだ。


「たまたまだ。去年組んだ者同士は無理だ。そして許嫁である者同士もだ。そうなると力のバランスからこのようになる」


 納得いかないが、至極真っ当な答えが返ってきたので、それ以上コウメイは言わなかった。


「それに今回は作戦上女性の学生2人は、俺らの隊の女性隊員と行動を共にしてもらう。女性独特の訓練にもなるからな」


 確かにサクラ達のチームの軍の者は女性で固められていた。


「女性のC班は後方支援に回ってもらう。実際軍の時もそうだからな。特別に特殊能力を必要とした時のみ女性は前に出てもらう感じだ」

「はい」


 説明を聞いて、コウメイはエリカに言う。


「今年はまともそうだな」

「そうね。よかったわ」

「去年嫌がらせをした主犯格の者がいませんからね」


 ソラがメンバーを見渡しながら言う。


「じゃあ今年は安心だな」




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