第102話 天神郷⑧



『特別に我の力を授ける』

「え?」

『だから必ず子供達の力になってくれ』


 その瞬間ナギの目の前に、男性とも女性とも言いがたい髪の長い切れ長の金色の目をした人物の笑った姿が一瞬垣間見れた。


 刹那、ナギの体を黄金の光が包み込む。同時にナギの目が金色に変化した。


「!」


 その瞬間、ミカゲ達がばっとナギを見る。ナギからミカゲ達と一緒の神力の力を感じたからだ。


「あれは神力! なぜ?」

「ナギの目が金色だと?」


 ナギは両腕を前に突き出し大きく円を描くように腕を回す。するとその大きさの黄金色の魔法陣が展開された。

 だがその時だ。二百年神ふたほとせがみが口を大きく開け、ナギに巨大な力の弾丸を放ってきた。今までで一番威力と早さがある攻撃にミカゲ達は驚異の目を向ける。


「ナギ!」


 ユウケイが叫ぶ。だがナギに当たった瞬間、黄金色の結界に守られすべてが後ろに流された。


「悪いな。お前の攻撃はすべて効かん」


 そして魔法陣から黄金色の光が膨れ上がる。


「これで終わりだ」


 転瞬、数百本の針のような黄金色の光の弾丸が二百年神ふたほとせがみの体を一瞬にして貫く。


「!」


 そこでミカゲは悟り叫ぶ。


「シンメイ!」


 シンメイもその意味を理解し頷くと、目を瞑る。


天陽大神そらのひなたのおおかみよ。その力、我使うことお許し給へ」


 そして印を結ぶ。


「天を仰ぎ、地を踏みしめ、心を揺るがし、気を静めよ」


 すると黄金色の鎖が二百年神ふたほとせがみへと伸び、がんじがらめにすると、4人の上空へと移動する。


 シンメイの言葉は続く。


「その邪の神の御霊を鎮めん。序章、剥離浄魂はくりじょうこん


 二百年神ふたほとせがみが黄金色の光に包まれると、苦しむように咆哮したと同時、光が爆発するように弾ける。すると二百年神ふたほとせがみの中から禍々しい紫黒色の霊魂が現れた。それを確認したシンメイがまた唱える。


「終章、封印鎮魂ふういんちんこん


 刹那、紫黒色の霊魂がシンメイ達の真ん中に設置されている玉へと吸い寄せられ中へと消えた。

 その後、シンメイ達を包んでいたすべての黄金の光が徐々に蒸発するように空に消えていき、当たりは何事もなかったように静まりかえった。


 その沈黙を破ったのはミカゲだった。


「だあー! 終ったー!」


 ミカゲが叫び寝転ぶと同時、4人全員がその場にへたり込んだ。


「これはきつかったー!」

「ほんと、2度とやりたくない」

「今までで一番きつかったですね」

「ああ。もう動けん」


 そこへナギが戻って来た。もうナギの目は金色ではなかった。


「ナギ、ご苦労だったね」


 シンメイが声をかけると、ヤマトも続く。


「さすがだね。ナギ。よく二百年神ふたほとせがみを弱らせれたね」


 するとナギは苦笑する。


「実はお手上げだったんですよ。俺の力はまったく通用しなかった」


 それには皆どういうことだと眉を潜め、寝転んだままのミカゲが訊く。


「お前、なぜ神力が使えた? それに目が金色だったよな?」


 それには皆同じ疑問だ。


「ああ。たぶん天陽大神そらのひなたのおおかみが力を貸してくれたからだ」

「え?」


 ナギはその時のことを話す。


「じゃあナギは天陽大神そらのひなたのおおかみ様のお姿を見たのかい?」


 シンメイは食い入るように体を前のめりにし訊ねてきた。


「はい。髪は腰ぐらい長く切れ長の綺麗な金色の目をした人でしたよ」

「!」


 皆それには多いに驚く。


「まさか天陽大神そらのひなたのおおかみにお会いできる人がいるなんて」

「ほんと、ナギは羨ましいよ」


 シンメイとヤマトが微笑む。


「ぜんぜん役に立たない俺に痺れを切らして出てきた感じですね」


 ――まあ俺の自殺行為を止めに来たようだったが。


「ナギを神は気に入ったんだと思うよ。じゃないと姿まで見せてくれないよ」

「ヤマト様、気を使ってくれなくていいですよ」

「いや本当のことだよ」

「そうですか?」


 するとシンメイも笑顔でうんうんと頷く。


「ヤマトの言うとおりだよ、ナギ。誰もそのお姿を見たことがないんだから」

「じゃあそういうことにしておきます」


 そしてナギは寝転んでいるミカゲに視線を向ける。


「大丈夫か? ミカゲ」

「まあな。ちょっと疲れただけだ」

「そりゃそうだよ。陛下の妖力をも補ってたんだから」


 ヤマトが苦笑しながら言えば、


「下手すれば若様、命落とすところでしたよ」


 とユウケイも困った顔をして苦言する。


「あれぐらいでは死なねえよ」

「まあ死んでないんだからミカゲの言う通りなんだろうな」


 ナギも苦笑する。


「だがもう2度としねえ」


 真顔でミカゲが言えば、ユウケイも凄い嫌な顔をして賛同する。


「確かにあれをもう一度しろと陛下の命令でも今度は断りますね」


 するとシンメイが苦笑して言う。


「ユウケイ、大丈夫。私ももう一度やれなんて言わないから」


 そんな4人の会話を苦笑しながら聞き、ナギは改めてミカゲにお礼を言った。


「ミカゲ、さっきはありがとう。助かった」


 そんなナギにミカゲは笑う。


「別に普通のことをしたまでだ」

「だがミカゲの助けがなかったら俺は生きていなかった」

「そうか。なら今までの貸しはチャラだな。これからも俺の頼みを聞いてくれ」


 ナギは目を細める。


「それとこれとは別の話だ」

「いいや。一緒だ」

「ちっ!」


 舌打ちするナギにユウケイは笑う。


「ナギは若様と馬が合うな」

「やめてください。ただ都合良く利用されてるだけです。よくよく考えれば今日だってそうですし」


 そこまで言って、思い出したとミカゲを睨めば、


「今回は俺のせいじゃねえ。これは神託だ」


 と反論してきた。確かにそうだが、でもやはり納得はいかない。


「じゃあその他は自分のせいだと自覚はあるんだな」

「……」


 ミカゲは黙ってそっぽを向いた。図星のようだ。


「あはは。若様を黙らすとはナギ、やるなー」


 ユウケイが褒めるが、ナギは嬉しくない。


「!」


 そこで視線を感じナギがふと御神木を見る。そこには1人の人物がいた。


 ――天陽大神そらのひなたのおおかみ


『よくやってくれたナギ。ありがとう』


 と頭に直に言葉が聞こえた。


 ――いいえ。こちらこそ、ありがとうございました。


 そう心の中で応えると、天陽大神そらのひなたのおおかみはふっと笑った。


 そしてすうっと消えた。


「ナギ? 御神木がどうかしたか?」


 他の者には見えていなかったようだ。


「いや。別に」

 

 そう応え空を見上げて微笑む。なぜか最初に来た時よりも薄い臙脂えんじ色の空は澄みきった色に変化しているように見えた。


「ん?」


 ふと気付く。いつの間にか握られていた手に違和感を感じる。手を開くと、そこには木で出来た2つのピアスがあった。


 ――律儀だな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る