第99話 天神郷⑤



 そしてユウケイが動いた。


「じゃあ先に行きます」


 一瞬にしてその場から消える。次の瞬間、竜の群れの真ん中に浮いていた。そして膨大な妖力がユウケイから放出され、ユウケイの肩にバズーカー砲のような物が出現した。ユウケイはそれを周りに連打砲撃。巨大な大砲のような光りの玉がマシンガンのように竜に命中。そして竜は蒸発するように消えていった。

 初めて見るユウケイの力にナギは感嘆の声を上げる。


「凄い威力だな」


 ――見た目は大砲みたいだが、威力と仕組みは機関銃のようなものか。


 一條家の力である武器を具現化する特殊能力だ。思った物を自由自在に具現化出来る能力。この能力のおかげで一條家は十家門のトップを独走していると言っても等しい。


「相変わらず何でも有りの能力だな」


 ミカゲが肩を竦めながら言う。


 ――確かにそうだ。あれは反則だな。


 ナギもミカゲの意見には同感だと頷く。


「ユウケイだけにやらせてもなー。俺もやるか。ナギ」

「?」

「俺をユウケイの反対側のあの辺に飛ばせ」


 ミカゲがユウケイの左側を指差す。


「お前ならそれぐらい出来るだろ」

「ったく、人使い荒いんだよ」


 ナギはミカゲへ手を翳す。するとミカゲの足下に魔法陣が現れた。刹那、ミカゲがその場から消え、次の瞬間、指定した場所に移動していた。

 それを見たシンメイとヤマトは驚く。


「ナギ、そこまで出来るんだ。さすがだね」

「ナギ、すごいねー」

「……」


 この2人を前にするとどうも調子が狂う。シンメイとヤマトの言うことは嘘偽りがなく本心からの言葉だと分かるため、あまり褒められたことがないナギとしては照れてしまい、どう接していいのか困るのだ。


「……じゃあ、俺も行きます」


 逃げるように言うとナギもその場から消えた。

 それを見たシンメイは満面の笑みを浮かべる。


「一條家は安泰だねー」

「だね。陛下は何もしないでね」

「やっぱりダメかい?」

「ダメですよ。やることありますからね」


 ヤマトは笑い、そして攻撃してくる竜をルミネと結界で対応するのだった。



 ナギは魔法で見える範囲の竜の頭の上に魔法陣を展開させると、そのまま魔法陣に吸い込ませ異空間へと飛ばす。一体一体倒していたら時間がかかってしょうがないからだ。それを見たミカゲは目を見開き驚く。


「魔法ってすげえな。確かに一体一体倒しているのは面倒だな。じゃあ俺も本気出すかな」


 ミカゲの目が光る。刹那、ミカゲの妖力が倍以上に膨れ上がった。それには全員驚き見る。


「若様が力を解放した!」

「兄さん、本気になっちゃったね」

「ですね。どれだけ力隠してるんですかねー、あの人は」


 ミカゲの体から弧を描くように金色の光の妖力が周りへと広がっていく。その光に触れた竜は跡形もなく消えていった。それを見たナギもさすがに驚く。


「なんだ……あの技……」


 爆発とかとも違う。消えていっているという言葉が適しているのだ。


「ナギ! 離れろ!」

「!」


 ユウケイの叫び声が聞こえた直後、その光がナギのシールドに触れた瞬間、本能的に危険と察知し、瞬間移動でシンメイの所まで移動する。ユウケイもすぐにナギの横に来た。


「陛下、ミカゲのあの力なんですか?」

「あれは私達皇族の家系の能力だね。神力の力で浄化のようなものだよ。私も使えるけど、あれだけのことは出来ない。あれは兄さんしか出来ないね」


 するとヤマトが言う。


「だね。まず使えないからね。あれの10分の1の力を使っても僕なら3日は寝込むよ。ミカゲさんの力が異常なんだよ。やはり影に与えられる力は膨大だね」

「与えられるとは?」


 シンメイが説明する。


「ナギは知らないか。双子で影になる者には膨大な妖力と神力が与えられるんだ。皇帝になる者は守られるが、影の者はそうはいかない。生きていくために必要ということだね。それと今回の200年に1度ある二百年神ふたほとせがみを浄化する役目でもあるんだ」

「じゃあ二百年神ふたほとせがみが現れる時は必ず双子が産まれるということですか?」

「そうなるね」

「よく出来てるな」

「ふふ。私達の先祖はこの場所に降り立った神【天陽大神そらのひなたのおおかみ】だからね。この地を私達が浄化するために必要な力を貸してくれている感じかな。この場所以外で使うと相当疲弊するんだろうけど、ここではほとんどそういうことはないからね」

「力をやるから、ここを一掃しろというやつだな」


 ナギが言うと、皆笑う。


「言い方は悪いけどそんな感じだね。それにしても兄さんの神力は見てて気持ちいいね」


 シンメイは嬉しそうに言うとヤマトが微笑む。


「ほんと、陛下はミカゲさんのこと大好きだね」

「うん」


 嬉しそうに頷くシンメイにナギは訊く。


「確認ですが、あれに触った者は?」

「うん。すべてここと同じように消えるね」

「……」


 やはりあの場所から移動して正解だったとナギは改めて思う。ナギの反応からシンメイが苦笑しながら訊ねる。


「もしかしてナギ、聞いてなかったのかい?」

「ええ。おかげで俺はあれに消されるところでしたよ」


 ムッとしていうナギにヤマトが驚く。


「知らなかったんだ」

「ええ。事前にお教えて欲しかったですよ」


 それには皆同情の顔を向けるだけだった。

 そこへミカゲが戻ってきた。


「兄さんお疲れ様。さすがだね。全部倒すなんて」

「ここなら神力使いたい放題だったなってな」


 飄々と笑うミカゲにナギは睨む。


「俺はあんな力、聞いてないぞ」

「悪いな。まあお前なら察知して逃げるだろうと思ったけどな」

「もし逃げなかったらどうしてたんだ」

「その時はユウケイがなんとかしただろう。現にお前に言ってたし」


 ――確かに父さんの声のおかげですぐに反応出来たのだが。


 そう思いながらユウケイを見ると、ユウケイは困ったような、はにかんだ笑みを見せている。


「まさかと思いナギを見たら、不思議な顔をしているもんだから、ナギに言ってないのかと驚きましたよ」

「言うの忘れてたんだよ」

「忘れてたで済まされないだろう。死ぬところだったんだぞ」

「あはは。そりゃ悪かったなー」


 ナギは抗議の目を向けるが、ミカゲはどこ吹く風だという表情を返してくるため諦めまじりのため息をつき不貞腐れ気味に言う。


「ミカゲのあの力があったら、本体も倒すことができるんじゃないのか?」

「いや、あれは本体には効かない。あれは消しちまうからな。そしてまた再生される。意味がねえんだよ」


 すると、いきなり妖気が膨れ上がった。


「!」


 今までとは比べ物にならない妖気と妖力が天神郷てんしんきょう一体を支配した。


「来るよ!」


 シンメイが言った瞬間、ナギ以外全員吹き飛ばされた。だがナギが魔法で守り地面に叩き付けられることは免れた。


 ――早い。一瞬すぎて分からなかった。


 ナギもシールドで守っていなければ飛ばされていただろう。

 ナギは全員に自分と同じシールドを張る。


「これである程度は不意な攻撃を防げます」


 そして剣を出現させると、目の前を見上げる。

 そこには10メートルはあるであろう全身が黒い鱗に覆われ、背中には大きな羽根、そして目は赤く真ん中が猫のように1筋縦に線が入ったどす黒い煙を纏った竜がいた。


 ――今までと妖力がまったく違う。こいつが本体だ。

 

「ミカゲ、あれを弱らせ動きを止めればいいんだよな?」

「ああ。できそうか?」


 ミカゲから見てもギリギリかの相手だ。


「やってみないとな。でもまあ俺の魔法のうりょくならいけるだろ」

「じゃあ頼む。俺らは準備に入る」

「了解」


 ナギがその場から離れると、4人は均等に距離をとり、正方形の形に立つ。そしてシンメイがその真ん中に水晶を置き、自分も所定の位置に立った。


「じゃあ行くよ」


 シンメイが合図をすると、皆胸の前に手をあわせ、腕は真横に挙げ合唱する形をとる。そして全員で儀式の祝詞を口ずさむ。



『今より神に願ひ奉る。清き我が偉大なる神よ。この地に眠る不浄の魂を浄化したく、神の力使ふことまげて許したまはらむ。願はくは我等の願ひ聞き給へ。この地の穢れを祓い給へ。玉を移せしこと許し給へ。偉大なる神の力我等にたび給へ。我等その穢れを払ひ、清き地へと導く。偉大なる神よ、いかでか我等の願ひを聞き給へと恐み恐み白す』



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