第96話 天神郷②
屋敷の前に止まっていたミニワゴンにナギとミカゲが乗り込むと走り出す。
乗る時運転席を見れば、見たことがある人物だった。
「父親の専属運転手か?」
「ああ。ユウケイが車を出してくれた。まあお前が来ることは周りには内緒だからな」
「そういうことか。用意周到だな」
「当たり前だ。でだ、さっきも言ったが1年に1度の行事、皇帝が
「ああ」
「表向きはそうだが、実際は1年に1度、
「浄化? 神聖な場所じゃないってことか?」
「いや、あの場所が神聖な場所というのは本当だ。だがこの地上で神聖な神域を保つのは容易じゃねえ。何もしなくても徐々に不浄物が溜まっていく。それを俺ら皇族の者が浄化しているんだ」
「へえ」
「だが200年に1度、
「
ナギは眉を潜める。
「簡単に言えば邪神だ」
「!」
「
「ああ」
「すると浄化された不浄物はその神域の重圧から地へ沈み、そして地下深くに溜まる。それが200年経つと、
その原理は、
だが不浄物と言っても物じゃない。邪心や怨念などの負の感情や、悪霊、悪魔のようなのも、そのすべてのものを指し、そのあらゆる負の物が合わさったものが
「それが今回這い出てきた」
「! だが、別に何も起ってないよな?」
どこか襲われたとか、壊されたとかを聞いたことがない。
「今は
「じゃあもうそのまま
浄化するからそうなるなら、最初から浄化しなければいいように思える。
「それができればそうする。だが無理なんだよ。
また物騒なキーワードが出てきたとナギは眉を潜める。
「終るだと? どういうことだ」
「その
「だからどうにか
そこで車が止まった。見れば、そこは皇帝がすむ皇居だった。
入り口の警備の者に運転手は身分証を見せ、そしてミカゲが窓を開け顔を見せる。すると警備はミカゲに敬礼をし許可を出したため、また車は走り出した。
「本当にミカゲって皇族なんだな」
改めて思う。いつもは学校で他の教師と変わらないため、皇帝の兄ということを忘れがちだが、こういうのを見ると実感する。
「で、皇居で俺は何をするんだ?」
「まずシンメイに会ってもらう」
そこで子犬のように尻尾をフリフリして笑顔で寄ってくるシンメイを想像し、ナギは目を細める。
「あまり会いたくないな……」
「我慢してくれ」
ミカゲも分かっているようでナギに同情の目を向ける。そんなミカゲの態度に、余計に不安になるナギだった。
車は裏口に止められ、従業員がゴミ捨てに使う私用口からミカゲとナギは入る。今は時間が早いため従業員の姿は1人もなかった。それを狙ってこの入り口を使ったのだ。
そしてミカゲはシンメイの部屋へと案内する。
「連れてきたぞ」
部屋の中に入ると、案の定シンメイが満面の笑顔で出迎えた。
「やあナギ! 久しぶり。元気だったかい?」
「はい。陛下もお元気そうで何よりです」
ふとシンメイの後ろを見れば、ユウケイの姿もあった。
「父さん……」
「やあナギ。元気だったか?」
ユウケイと会うのは2ヶ月ぶりだ。久しぶりに見たユウケイの少しやつれた顔から疲労感が否めない。
「はい。父さんは相変わらず忙しそうですね」
「ああ。それなのに余計な仕事が増えておかしくなりそうだ」
言外に今回のことへの不満が含まれている。まあそうだろうとナギも同情し苦笑する。皇族の血を引いてなければ避けられたのだ。するとユウケイが改めて顔を引き締め訊ねる。
「ナギ、若様から内容は聞いたな」
「はい」
「ならやることを説明するからちゃんと聞くように」
ユウケイから今の
暴れまくっているが、御神木は結界に守られ無事ということ。そして
それにしてもあまりにも詳しい。
「父さんはどうやってその情報を?」
「ん? 俺が直に見てきたが?」
ユウケイが、さらっと応えた。
――ああ、そうだった。ここにも瞬間移動が出来る者がいたんだった。だが、
「あの場所は、神聖な場所で立ち入りが禁止されているのでは?」
ミカゲの話だと普段は入れない禁止区だったはずだ。
「ナギ、頭いいなー。父さん驚いたぞ」
と笑顔で誤魔化された。
「……」
さすが十家門のトップだとナギは片眉を上げる。「いいのか?」と周りを見れば、ミカゲとシンメイは笑顔で気にしている様子はまったくない。
――ああ、この3人、同類だったな。
3人とも言うことを聞く者達ではなかったことに気付く。だからこれ以上追求するのを諦めた。
すると、ドアをノックする音がしてヤマトが入って来た。そしてシンメイにまず挨拶する。
「遅くなって悪いね、陛下」
「いいよ」
まさかのヤマトもシンメイに対しフレンドリーな態度だ。やはりこのメンバーだとシンメイの威厳がまったくないと改めてナギは思う。
そしてヤマトはナギとユウケイを見る。
「やあユウケイさんとナギ。久しぶりだね」
「お久しぶりです。ヤマト様」
「こんにちは」
ナギとユウケイは頭を下げる。
「2人が一緒なのを初めて見た」
確かに初めてだとお互い顔を合わせる。
「そうですね。なかなかこういう機会がないので、これはこれで貴重な時間かもしれません」
ユウケイがナギに笑顔を見せながら言い、
「では時間があまりないので話を進めます」
と本題に入る。
ユウケイは、
「その
ミカゲが腕組みしながら訊ねる。
「正直に言うと、わかりません」
「ユウケイには珍しく弱きだね。それはなんで?」
シンメイがユウケイに訊ねる。いつもユウケイは出来ると言うのだ。
「本能ですかね。最初見た時に違和感があったんです。思ったよりも
「え?」
それにはそこにいた全員目を見開く。
「少ない?」
「ええ。説明が難しいんですが、強いことは強いんです。でも私が最初に体で感じた強さよりも弱い。それが何なのかが分からない。だから不気味なんです。そして普通にあの神力ならば、どうにか倒せる強さ。だがどうしても簡単に倒せるとは思えない」
ユウケイは言いながら苦渋の顔を見せる。自分でもどうしてそう思うのかが分からず混乱しているようだった。
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