第94話 ナギの過去③
「走れ! ナギ!」
「!」
国王の叫びに反射的にナギは扉へと走る。それを片目の男は横目で見て1人の部下に指示をだす。
「ふっ! 逃がすか。まずあのガキからだ。やれ」
「了解」
男が向かおうとするが、
「やらせない!」
国王が立ちはだかり剣を振るい阻止。エーリックも3人を倒しナギと国王へと走る。すごいスピードで走ってくるエーリックを見て片目の男は舌打ちする。
「ちっ! もう倒したか。あいつがくると厄介だ。しかたない」
片目の男は腰の袋から小刀を20本ほど取り出すと魔力を込め、ナギへとすべての小刀を投げた。
「ナギ!」
国王の叫びに、ナギが振り向き、エーリックがナギを見て叫ぶ。
「くそ! 間に合わねえ!」
魔力を込めた小刀がナギへと飛んで来る。シールドを張らなくてはならないことは頭でわかっていてもすぐに反応が出来ない。
――やられる!
そう思った時だ。誰かが覆い被さった。その直後、グサグサと言う音と振動がナギへと伝わる。何が起こったか分からずにいると、
「ナギ……大丈夫か……」
国王――父親の笑顔が目の前にあった。だがその口からは血が滴り落ちている。
「父……上……」
だがすぐに国王は後ろに剣を横一文字に振る。
「ぐあ!」
国王に襲いかかってきた敵の腹を切り裂いたのだ。
「陛下ー!」
エーリックの叫び声が響き渡り、エーリックの魔力が爆発した。
「許せねえ!」
エーリックは片目の男へ今までとは何倍もの早さで斬りかかる。
「くっ!」
――急に早くなった! それに強さも! こいつ、感情で魔力が上がるタイプか!
エーリックは迷いもなく大剣を振りかざす。もしこの場に仲間がいたなら、今のエーリックがいつも見るエーリックと同一人物だとは思わないだろう。それほど『鬼神』と言えるほどの鬼の形相と殺気、魔力が半端なかった。
「が!」
片目の男の右の腕を切り落とす。
「まだ足りねえー!」
そして容赦なく左腕も切り落とすと、
「終わりだー!」
片目の男の首を一瞬にしてはねた。
「父上! 父上!」
ナギは自分を抱きしめているが、意識が朦朧としている国王を呼び続ける。
「ナギ……怪我は……」
「どこもありません」
「そうか……よかった……」
「なぜ……」
――自分を助けたのか?
という言葉が続かない。今まで父親とはほとんど会話という会話をしたことがなかった。そのため自然と距離が出きてしまい、他人行儀になりうまく気持ちを伝えることが出来ない。
「今まですまなかったナギ。お前にはずっと辛い思いをさせてしまった……。だがこれだけは信じてくれ……。お前が嫌いだったわけではなかった……。反対に愛していた。お前を守りたかったのだ……」
「えっ……」
「そしてお前の母親のことも愛していた……」
初めて聞くその言葉にナギは目を見開く。
父親は、ナギと必要最低限しか言葉を交わさず、ナギに会いに来ることもなかった。
周りの側近や従者の者達も国王はナギのことを嫌っていると密かに囁いていたのを何回も耳にした。
だから今まで父親は自分のことを嫌っていると、邪魔な存在なのだと思っていた。だからナギもあえて父親とは距離を取っていたのだ。
まさか自分を守るためにあえて父親は距離を取っていたとは思いもよらなかった。
すると国王が吐血する。
「父上! しっかりしてください!」
そこへエーリックがやってきてナギの後ろで跪く。
「陛下!」
エーリックは国王を見て眉を潜める。
――もう助からねえ……。
国王はナギへ言う。
「油断した……。こんな無様な父親を見せるつもりじゃなかったのだがな……」
ナギは黙って首を横に振る。
――そんなことはない。立派な父親です。
涙が溢れ、声に出来ない。
「だが悔いはない。最後に父親らしいことが出来たのだから……」
そしてナギを強く抱きしめる。
「これは私のミスだ。お前のせいじゃない」
「!」
「だから絶対に自分を責めるな」
「うっ!」
「これは約束だ……。わかったな……ナギ」
「……はい」
「そしてナギ、強くなれ」
「……はい!」
ナギはこれ以上泣かないようにギュッと目を瞑り返事をする。
「だが自惚れるな……。私みたいになるぞ」
ナギはそんなことはないと首をブルブル横に振るだけだ。そんなナギを国王はフッと笑い、そしてエーリックを見る。
「エーリック」
「はい」
「オズワルドとマーティスにも伝えておいてくれ……。先に行くと……」
「はい……陛下」
エーリックの目にも涙がこぼれる。
「ナギを……頼む」
「御意」
エーリックは泣きながら深々と頭を下げる。ナギも涙が止まらない。
「お前達、泣くな。最後は笑顔で送ってくれ」
だがナギもエーリックも笑顔が出来ない。
国王は天井を見あげて笑う。
「悪い人生ではなかった……」
それが国王の最後だった。
ナギにもたれる父親の体がさらに重くなった。
「ち、父上? 父上?」
だが返事はない。
「父上! 返事をしてください! 父上!」
だがやはり返事はない。
「エーリック! 父上は寝てるだけだよな? そうだよな?」
後ろにいるであろうエーリックにナギはすがるように言う。
「エーリック! なんとか言ってくれ! 父上は寝てるだけだと!」
するとナギの背中にエーリックの手が添えられる。
「坊ちゃん……。もう陛下は……」
エーリックはそこで黙る。その代わりに嗚咽だけが聞こえてきた。
「嘘だろ……父上……」
ナギは肩を上下に震わせながら顔を上に向ける。だが限界だった。
「わああああー!」
ナギは初めて大声で泣いた。
それが今までで最初で最後の大泣きだった。
その後侵入した刺客はすべて始末され、侵入を加担した者達も探しだし処刑された。
国王の葬儀が終わり落ち着いてきた頃、ナギがエーリックの所へ来た。そして無言でエーリックへ剣を差し出す。
「坊ちゃん?」
「エーリック! 俺に剣を教えてくれ!」
「――」
「分かったんだ。どれだけ魔力があっても、どれだけ魔法が使えても、その時に反応出来なければ守れる者も守れないということを。そして魔法だけでも剣だけでもだめだと」
「坊ちゃん……」
「俺は強くなりたい! 強くなって皆を守りたい!」
父親の最後が目から離れない。
「そしてもう誰も失いたくない! もうあんな後悔をしたくないんだ!」
迷いがなく真っ直ぐに見るナギにエーリックは笑顔を見せ、そして跪く。
「分かりました。坊ちゃん。いや、ナギ様。このエーリックが立派な戦士にしてあげましょう」
◇
ユウリにその時のことを話しながら、ついこの前のことのように思えるとエーリックは微笑む。
ふと見れば、ユウリが号泣していた。
「殿下? な、なに泣いてるんですかい!」
驚き言えば、
「だ、だってナギ凄いかわいそうじゃん!」
と鼻水を流しながら言うユウリにエーリックは微笑み、ポケットからハンカチを取り出し渡す。
「ほら、拭いてください」
「うん」
ユウリは涙を拭き、鼻水も拭く。
「そのハンカチ、返さなくていいですからね」
「……」
そんなユウリを見てエーリックは思う。
――もしナギ殿下がユウリ殿下と一緒に話すことがあったら、いい友になったでしょうな。
見た目も性格も全く違うナギとユウリ。そんな2人が入れ替わったのは偶然だったのかもしれない。
――全く違うのに、2人は似てらっしゃる。
何がと言われると言えない。だが、似ているのだ。
それはもしかしたら、ナギへの思いとユウリへの思いが同じものだからなのかもしれない。
――まあ、どちらとも世話が焼けるのは間違いねえんだけどな。
そして、どうしても放っておけない2人なのだ。
「さあ休憩は終わりです。やりますよ」
「うん! 僕もがんばらないと!」
「ですよ。そうしないと守りたいものも守れませんからね」
そしてまた稽古が再開されたのだった。
――――――――――――――――――――――
こんにちは! 碧心☆あおしん☆ です。
こちらを見つけてくださりありがとうございます。
そしてここまで読んでいただきありがとうございます。
これで第七章は終わりです。(今回早いぞw)
今回はユウリの新たな能力開花と、ナギとユウリの共同作業。
そして、ナギの悲しい過去編でした。
ナギがどうして強くなったのかが判明した章だったかなーと思います。
実は、ナギの過去編は下書きにはありませんでした。
ここに載せるにあたって、ちょっと尺が短いということで足した感じでした。
でも載せてよかったと思ってます。ナギの人生に深みが出たかな~と。
あと、私がエーリック好きということもあり、エーリックのことも書けたので満足ですw
ということで次が第八章です。
ナギ、皇族メンバーメインになります。
やっと折り返し地点に来た感じです。
これからも読んでいただけると嬉しいです(^o^)
ではまた~!
――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます