第93話 ナギの過去②



 そして半年過ぎた頃、ジュランシア王国に敵の刺客が侵入したという情報が入った。


「どのくらいの人数だ」

「わかりません。ただ数名という人数ではないということです」


 近衛隊隊長のヨルダンはギッと歯噛みする。


「なぜ門を突破された……」


 城を守るように外周城壁と内周城壁を作り、出入り口は最低限の数にした。そしてそこには厳重に警備を付け、魔法で侵入者を感知出来るようにし、簡単に間者や刺客が侵入することができないようにしていたはずだ。

 それが突破されたのだ。


「やはり誰かが手引きしているとみていいだろうな」


 ヨルダンは、すぐに内通者を見つけるように支持し、国王と皇族達の避難と護衛を部下達に命令した。


「エーリック、すぐに陛下と殿下達を安全な場所に! すぐにこの城にも刺客はやってくるからな。急げ!」

「はい」


 エーリックと近衛隊数名はすぐに国王と長男オズワルドと次男マーティスを安全な場所へと移動を開始する。だがそこにいるはずのナギがいないことに気付く。だが直後、ヨルダンの予想通り敵の襲撃が城内で起こった。


「坊ちゃ、ナギ様はどこに?」


 エーリックが訊くが誰も居場所は知らなかった。するとマーティスが言う。


「馬小屋に行くって言ってたような」

「馬小屋ですか?」

「うん。最近生まれた子馬を見に毎日通っているみたいだった」

「わかりやした」


 エーリックはその場を他の近衛隊達に任せ、ナギを探しに行く。その間何人かの敵の刺客と鉢合わせになるが、すべて倒していった。


「くそ! 何人いやがる! 坊ちゃん無事でいてくだせえよ」


 その頃ナギは馬小屋の前で刺客達3人を前にしていた。


「誰だ。おまえら」


 すると1人の刺客の男が問う。


「その顔と背格好から第三王子のナギリア・リュウゼン・アルティールだな」

「そうだ」

「悪いが命をいただく」


 刹那、3人が斬りかかってきた。だがナギは自身の前にシールドを張り防御。3人はシールドにぶつかり後ろに弾き飛ぶ。


「あの歳で魔法が使えるのか」


 まだ子供だと思って油断していた刺客の3人は苦渋の顔を見せる。


「なら手加減なしだ。行くぞ!」


 2人がナギへと走る。そして残った1人が両手を前へと翳し火魔法を繰り出した。だがナギはシールドを前に展開し火魔法を防御。その直後、走ってきた1人が剣を振ってきたが、それもナギがシールドで防御する。するとすぐに火魔法が連続的に放たれた。


「くっ!」


 あまりにも大量の火魔法にナギは目を閉じてしまった。敵はそこを狙って来た。がらあきになった足を足払いし、ナギをその場に倒したのだ。その拍子にシールドも消える。

 そして間髪入れずに1人がナギの後ろから背中を狙って剣を繰り出してきた。


「!」


 予想外の出来事に反応出来ずに固まる。斬られると思った瞬間、その剣が弾き飛ばされた。直後ナギの前に影が落ちる。エーリックだ。


「坊ちゃん、無事ですね」

「エーリック!」


 エーリックはすぐさまナギの腰に左手を回し、脇に荷物を持つように抱きかかえる。


「少し我慢していてくださいよー」


 そして右手で大剣を構え3人をあっという間に斬りつけ倒していった。そしてまた視界に刺客らしき者がこちらに来るのを認識する。


 ――ちっ! 新たな敵か。


「まず避難しますぜ」


 エーリックはナギを担いだままその場を猛スピードで移動した。

 そして国王達と合流すると、ナギを下ろす。すると国王が声をかけてきた。


「ナギ! 無事だったか」

「はい。すみません」


 国王の意外な言葉に戸惑いながら、ナギは心配かけたことを謝る。


「そんなことは気にするのではない。無事ならそれでいい」


 国王はナギの肩を抱く。


「オズワルド様とマーティス様は?」

「もう先に行かれています」


 エーリックの質問に一人の護衛の者が応える。兄のオズワルドとマーティスは先に進んで避難したようだ。だが国王だけが危険を顧みずナギが来るのも待っていてくれたことにナギは驚く。


「さあ陛下、坊ちゃん、急いで移動を」


 エーリックに促され国王は頷くと、ナギへと声をかける。


「行くぞ、ナギ」

「はい」


 その時だ。上から敵が5名ほど降ってきた。そして国王とナギへと襲いかかる。


「!」


 それをエーリックと近衛兵達が防御する。敵と対戦しながらエーリックが仲間の近衛隊へ叫ぶ。


「お前達は陛下達を連れて先にいけ! ここは俺1人で大丈夫だ!」

「わかった!」


 国王とナギを連れて仲間の近衛兵達を奥へ逃がし、エーリックは大剣をぶんぶん振り回す。


「ここからは行かせねえ!」


 ナギ達はエーリックが足止めしている間に奥へと逃げる。


「陛下、後少しです。あの扉を抜ければ敵は入って来れません」

「オズワルドとマーティスは?」

「もう中におられます」

「わかった。ナギ、あと少しだ。がんばれ」

「はい」


 ナギも国王と並び走る。だがいきなり目の前に1人の男が降り立った。その姿を見た瞬間、ナギは全身が恐怖で毛というものすべてが総毛立つのを感じ、そして動けなくなる。

 初めて恐怖というものを感じた瞬間だった。


 近衛隊達が国王とナギの前に立ち、その目の前の男を見て目を見開く。


「お前は、片目のカラス……」


 その名は、敵国で最強と言われていた全身黒服で、片目に傷があることから名付けられたあだ名だ。その男がまさかこの城に来ていたとは誰も思わなかっただろう。


「敵国にまで名を知られているとは光栄だ」


 片目のカラスと言われた男が剣を抜く。


「では国王、お命いただく」


 次の瞬間国王の前に片目の男が現れ剣を振り下ろす。


「!」


 だが振り下ろされた剣はエーリックの剣で受け止められた。


「なに!」

「させるかよ!」


 そして力ずくで押し戻し片目の男の剣を弾き飛ばす。


「ちっ!」


 片目の男は一度間合いを取るために距離を取る。


「エーリック!」


 エーリックがここに来たということは先ほどの5人の敵全員をこの短時間で倒したということだ。ナギはそこで改めてエーリックの凄さを実感する。


「ほう。その大剣。お前があの『無限の怪物』の名をもつエーリック・ミスナか」

「へえ。俺も有名になったもんだな」


 エーリックは笑顔を見せる。だが心の中は穏やかではない。


 ――こいつ、強い。


「陛下、急いで扉の中へ。お前達も陛下と坊ちゃんを安全な場所へ」


 エーリックは片目の男に視線を合わせながら国王と近衛隊へ言う。だがそこで目を眇める。


「ちっ! また来やがった。何人いやがる」


 そこへまた敵の刺客が5人増えた。


 ――くそ! 片目の男だけならなんとかなるが、6人相手だと、ちときついぜ。隊長達はこっちに来れないのか!


 片目の男が部下達に囁く。


「お前達は国王をやれ。俺はあの大剣をやる」

「はっ!」


 3人が一気にエーリックへと攻め、残り3人が国王とナギへと走る。


「国王と坊ちゃんはやらせねえって言ってるだろ! 」


 エーリックは大剣に魔力を吹き込むと横一文字に振る。すると剣から赤い炎の魔法がくりだされた。


「くっ!」


 敵6人はシールドを張り防御。だがその隙にエーリックは2人の腹へと大剣を横一文字に振り抹殺。そして片目の男へも剣を繰り出す。だが止められた。その隙に残りの3人が国王達へと走る。


 ――ちっ! 


 すぐに剣を繰り出し攻める。片目の男も防御ばかりではない。同じく剣をエーリックへと高速で斬りつけてくる。

 徐々に2人の体には切り傷が増える。


 ――くそ。あまり時間はかけられねえ。


 戦いながら国王とナギの方へ視線を向けると、部下達が3人と戦いながら守り、ナギも魔法を繰り出しながら応戦していた。戦ったことがないナギが毅然と魔法を繰り出し戦っていることにエーリックは感心するのと、嬉しく思う。


 ――あれならどうにかいけそうだ。


 安心した時だ。片目の男が一瞬笑顔を見せた。


「?」


 刹那、その片目の男が消え、違う敵の3人が現れた。


「!」


 エーリックはバッと国王とナギの方を見る。片目の男が国王とナギの目の前にいた。


 ――入れ替わったのか!


 すぐに向かおうとするが、入れ替わった3人に阻まれる。


「ここは行かせねえ」 

「邪魔だ。どけやー!」


 エーリックは叫び、刺客3人へ斬りかかった。


 目の前に現れた片目の男にナギは動けなくなる。魔法を繰り出そうとするが体が動かない。その間に片目の男は近衛隊の者達4人をあっという間に斬り殺し、国王へと斬りつける。だが国王もシールドを張り防御。


「ほう。国王も戦えるか」

「見くびってもらっては困る」


 国王も魔法と剣が使えた。


「これでも若い頃はなかなかの使い手だと言われたものだ」


 そう言って国王は片目の男に引けを取らないほどの剣技を見せる。その間、ナギはただ後ろでじっとその戦いを見ていることしか出来なかった。


 ――魔法、魔法。父上を助けなくては!


 頭で分かっていても体が言うことを効かない。手足に力が入らず震えが止まらない。


「ナギ! お前だけ扉へ行きなさい!」


 国王が言う。だがナギは動くことが出来ない。


「走れ! ナギ!」

「!」


 国王の叫びに反射的にナギは扉へと走る。それを片目の男はふっと笑う。


「まずあのガキからだ」

「!」


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