第84話 すっきりしない



 サクラは結局次の日まで起きなかった。


 そして朝、顔を見るなり叫ぶ。


「なんで起こしてくれなかったのよー!」

「い、いや、そう言われてもなー」


 サクラにはシンメイの妖力の影響を受け気を失ったことにしてあった。


「せっかく陛下とお話する機会だったのにー!」

「いや、それはお前が気を失うから悪いんだろ。あっ!」


 凄い形相でナギを睨んでいる。地雷を踏んだようだ。


「あ、いや。へ、陛下も起こすなと言っていたからだなー。陛下に言われたら起こせないだろ」

「んー」


 皇帝の命令ならばナギは逆らうことは無理だ。サクラはしぶしぶ納得する。


「陛下の命令じゃしょうがないか」


 ――皇帝の威力凄いな。


「ねえ、陛下どんな人だった? やっぱり聡明で偉大な高貴な感じの方?」

「あ、あー……」


 ナギはきのうのヘラヘラしたシンメイを思い出す。


 ――あんな姿見たらサクラ、幻滅するだろうな。


 言わないのが仏と思って黙っておく。


「まあそんな感じだな」

「やっぱりそうかー。だってヤマト様がすごく素敵なんだから、皇帝ともなるとそれ以上素敵な人なんだろうなー」

「……まあな」


 ヤマトの方がぜんぜん皇族らしい気品が満ちているがとナギは思うが言えない。


「また会えるんじゃないのか?」

「ほんと!」

「ああ。そんな雰囲気だったしな。あ、昨日陛下が来たことは内緒な。お忍びで来たみたいだから」

「うん! 分かった! 誰にも言わない!」


 こういうところが素直だとナギは微笑む。そこへウメがやってきた。


「あ、ウメさん、きのう……」


 サクラはウメときのうのシンメイのことを嬉しそうに話し始めた。それを見て思う。


 ――今見た感じ、黒銀くろがねはまったく感じない。【罪人の刻印】とソラの力が効いているからか。


 それにしてもとナギは思う。


 ――サクラはいつ黒銀くろがねと接触したんだ? ユウリが知らないということは一緒の時じゃないということか。


 ユウリの記憶と辿っても、黒銀くろがねらしき者と接触したという記憶がない。


 ――それに目が銀色に光るのは、ユウリの記憶からして小さい頃からあった。ならば、黒銀くろがねの目が銀色に光るのは、妖力を使うと光るということか?


 万象無効ばんしょうむこうの者は、目が光った時だけ発動する。ということは、黒銀くろがねが妖力を使うと銀色に光るということになる。


 だが、どうもすっきりしない。


 ――なぜすっきりしない。


 ユウリもたまに感じていた感覚だ。だがどう考えても分からない。何度もユウリの記憶を辿ったが別におかしい点はなかった。


 ――一度ユウリに聞いて見るか。





 その夜、ナギはユウリにサクラが万象無効ばんしょうむこう稀人まれびとのことも話し、黒銀くろがねのことも話した。ユウリはやはり相当驚いていた。


『サクラちゃんが……』

「サクラの目が光った時のことを覚えているだろう? それを思い出すとお前は違和感を感じていたみたいなんだが、なぜだ?」


 ユウリは考える。確かに違和感を感じていた自分を思い出す。今考えても何かしっくりこない。


『確かにそうなんだよね。サクラちゃんの目が光ってたことは覚えているんだけど、なにか違うんだよなー』

「違う?」

『うん。表現が難しいんだけど、しっくりこないんだ』


 ――違うとはどういうことだ?


『でも何がどうなのか僕にもわからないんだ』


 ――ユウリにも理由はわからないということか。


『ごめん、力になれなくて』

「いい。ちょっと気になっただけだ。おかしなところはないから俺の考え過ぎだけなのかもしれん」


 少し沈黙があり、ユウリが静かに言う。


『ナギ、サクラちゃんは大丈夫なの?』


 その心配そうな声に、余計な心配をさせたと、言うんじゃなかったと少し後悔する。


「ああ。心配するな。大丈夫だ」


 心配させないように言えば、


『そうだよね。僕は何も出来ないから……』


 と、少し寂しそうな返事が返ってきた。そんなユウリにナギは言う。


「そうでもないぞ。けっこう俺はお前に助けられてる」

『え? ぼ、僕何もしてないよ』

「何かしているわけじゃないが、反面教師だな」

『ええええ! それ! 馬鹿にしてるだけじゃないか!』

「あはは。ユウリのそういうアホなところが俺は好きだと言ってるんだよ」

『なんか褒められている気がまったくしないんだけど』


 ユウリは口を尖らしムッとする。


「そうか? 俺は褒めてるんだが」


 本当のことだ。けっこうユウリとの会話は好きなのだ。お互いの元いた世界の情報が得られるからだけではない。こういうしょうもない会話も前の時は出来なかった。気持ちに余裕がなかったのもあるが、忖度関係なく話せる友達という者がいなかったからかもしれない。


 ――あの頃は、ツイランを立て直すことで手一杯で余裕がなかったのもかるが……。


 そこでナギはあることを思い出す。それもかなりまずいことを――。


 するとユウリも恥ずかしそうに言う。


『褒めてくれてるなら嬉しい。そんな風に言われたことないからさー。ナギってほんといいやつだよね』


 嬉しそうに言うユウリに、ナギは気まずそうに言う。


「ユウリ、今大事なことを思い出したんだが?」

『大事なこと?』

「ああ」

『なに?』

「机の引き出しの3番目に入っている書類、よろしく」





 次の日、ユウリは言われた通り、引き出しから言われた物を取り出す。見れば茶封筒だ。


「なんか嫌な予感がする……」


 恐る恐る中身を出し読んで叫ぶ。


「な! なんだってー!」


 叫び声でディークが飛んできた。


「ユウリ様? どうされました?」

「ディ、ディーク! これ見て!」


 ユウリは書類をディークに渡す。ディークは内容を見て目を見開く。


「しゃ、借用書……。100万ガイル⁈」


 ここでいう100万ガイルとは、日本円でいうと3000万円ほどの金額だ。


「借りたのが1年前……」


 ディークは初めて見るものだった。


 内容は1年前、ナギが隣国の地主レオーネ氏から城を担保に100万ガイルの金を借り、1年後に全額返済するというものだった。


「おかしいと思ったんです。ナギ様のポケットマネーがあまりにも金額が多いので」

「ナギはディークに黙って借りたってこと?」

「はい。確かに1年前は財政が頻拍していて、ナギ様のポケットマネーがなければここまでの建て直しは出来なかったのは確かですが、まさか借金をしていたとは!」


 ディークは、怒りで声を荒げる。


「ねえ、1年後に返済ってなってるんだよね? いつまでに返済なの?」


 ディークは書類を見て青ざめる。


「1週間後です……」

「ええええ!」


 それから行政官のマクナス、会計官のオネストを加え対策が話し合われた。


「またあと1週間とは、ユウリ殿下、どうして今まで忘れていたのですか?」

「えっと……」


 ナギがしたとは言えないため、ユウリが借りて忘れていたということにしたのだ。


 ――僕じゃないのにー。


 ディークを見れば、ユウリを哀れむように見るだけだ。


 ――ナギー! 絶対に文句言ってやる!




――――――――――――――――――――――



 こちらを見つけてくださりありがとうございます。

 そして、ここまで読んでくれたお優しい読者様ありがとうございます。

 ここで、第六章 終わりでございます。


 最後、ナギの借金に嘆くユウリで終るという。


 てことで、第七章は、ユウリさんが借金を返済する話になりますw


 第七章も 読んでいただけたらうれしいです~。

 また♡、コメント、☆評価をしていただけると、頑張るモチベーションにもなりますのでよろしくお願いします。



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