第83話 シンメイとユウケイ



「なぜナギはいいのかは、君がユウケイの息子さんだからだよ」

「は?」

「いやー。実はナギの父親も私が名前で呼ぶ最初の一般人なんだよー。あ、でもこれはあまり知られてないことなんだけどね。やっぱり十家門のユウケイだけ名前で呼ぶのはどうしても他の十家門の者から文句がでるだろうから」


 嬉しそうに言うシンメイを見てソラは、


 ――これが本当に皇帝なのか? イメージが……。


 と目を細めて2人のやり取りを見守っていた。


 ――だが、本心で言ってるんだろうな。


 皇族だけは心が読めない。それは皇族特有の能力なのだろう。だがソラにはシンメイも居心地がいい人の部類に入った。そこで気付く。ここにいる全員、あまり裏表がない人物のようだ。


「ほらー。ユウケイってああ見えて正義感が人一倍あって裏切らないからさー」


 嬉しそうに言うシンメイにミカゲはため息をつく。


「シンメイ、自が出過ぎだ」


 ミカゲの注意に、その通りとナギとソラは頷く。どんどんと皇帝のイメージが下がっていく。


「あ、ごめん。だって久々だからさー。うるさい側近達もいないし」

「今頃大騒ぎしてると思うぜ」


 ミカゲは苦笑いしながら言う。


「そうだね。もう時間もなさそうだ。ナギ、三條家の息子さん」

「?」

「はい」


 シンメイは今までのおちゃらけた表情ではなく、皇帝の顔になる。


「サクラさんを頼むよ」


 そう言ってシンメイはサクラの前へと跪をつくと、もう一度サクラの頭に手を置く。


「このまま封印をし続ければ黒銀くろがねはそう簡単には出てこれないだろう」

「――」

「だけど、サクラさんは黒銀くろがねのみ気をつければいいわけじゃないよね」

「ああ」


 ナギは眉を潜めながら応える。敵国ガーゼラ国と自分の国の天陽国てんようこくをも気をつけなくてはならないのだ。


「君達がいれば大丈夫だと思うけど、もしサクラさんが捕まった時には私に言いなさい」

「え?」

「知ってた? 私はこの国のトップの皇帝なんだ」


 それはシンメイならどうとでもなるということだ。


「ああ。そうさせてもらいます」

「うん。あーあ、来ちゃったな」

「え?」


 すると応接室がいきなり開いた。驚いて見れば、血相を変えた父親のユウケイだ。


「陛下ー!」

「あ、思ったより早かったね、ユウケイ」


 するとユウケイはズカズカとシンメイの前までくると、いきなり胸ぐらを掴む。


「なに勝手なことをしているんですか! 今皇室は大騒ぎですよ!」

「おかしいなー。影たてたのに」

「あんな下手な影、誰でも気付きます!」


 どんな影を付けたのか見てみたいとナギとソラは思ったことは内緒だ。


「それにしてもよくわかったね。ここだって」

「当たり前でしょ。きのうのパーティーの時にナギを名前で呼んだと聞きましたからね。ここに来ることは容易に想像がつきます!」

「あはは。そうかー」


 シンメイはまったく悪ぶることなく笑う。


「そうかーじゃないです! どうするんですか!」

「大丈夫でしょ」

「?」

「だってユウケイがうまくやってくれたんでしょ?」

「うーーーー!」


 ユウケイは今にもシンメイを殴りそうな、いや悔しそうな顔を向けている。


「またそうやって私に言霊使うー」


 ユウケイはここの世界の者だ。シンメイの言葉は言霊としてユウケイの魂に植え付けられる。


「ありゃ、わざとだな。かわいそうにユウケイ」


 ミカゲはユウケイに同情する言葉を言うが、なぜか面白いものを見るように楽しそうな表情を浮かべている。それを見てナギとソラは目を細めて思う。


 ――絶対楽しんでるな。


 それにしても今ユウケイは、天下の皇帝の襟首を掴んでいる。それを見てナギとソラは目を細める。


「ナギ、君のお父さん、陛下の胸ぐら掴んでるけど、大丈夫か?」

「いや、あれはアウトだろう。牢屋行き決定じゃないのか?」

「だよね」

「ああ。一條家終わったな」


 本気で言っている2人にミカゲは笑う。


「あはは。心配ない。2人の時はいつもあんな感じだ」

「は? まじか」


 さすがのナギも驚き父親を見る。そこで視線を感じたユウケイは、ふうとため息をつきシンメイから手を離す。


「若様もいたのですね」

「ああ。強制的に共犯者にさせられた」

「兄さん、人聞きが悪いなー」

「いや、その通りだろ。侍従にお前が倒れたという嘘を流させ俺をこさせて、ナギの家まで車を出させたんだからなー」


 それを聞いたナギとユウケイは、そんなことしたのかとシンメイに冷たい視線を送り、ソラは口をぽかんと開ける。


「ユウケイ、皇居は大丈夫なのか?」

「はい。どうにか誤魔化しましたよ」

「さすがユウケイ」

「陛下、殴りますよ」


 ユウケイは拳を握りシンメイに見せる。


「ごめんごめん。私が悪かったから許してーユウケイ」


 そんなやり取りを呆れた目で見ていたナギとソラは


「僕は夢を見ているのかなー」

「ソラ、安心しろ。これは現実だ。俺も同じものを見ている」


 と、現実逃避したい気分だ。

 ユウケイは嘆息し、寝ているサクラを見る。


「……気付かれたんですね」

「ああ」


 その一言でユウケイはすべてを理解する。シンメイにばれるのは時間の問題だと思っていたユウケイは驚かない。ただ危惧することはある。


「どうするおつもりですか?」

「ナギ達にも話したけど、何もしないよ。今はそれが一番良い策だと思うからね」


 ユウケイは安堵のため息をつく。


「そうですか。ありがとうございます」


 頭を下げる。そして、


「では用件は終わったようですので、戻ってください」

「えー。もう?」

「はあ? これ以上問題を起こさないでください! 尻拭いする私の気にもなってください!」


 ほとんど脅迫みたいだ。


 その後、シンメイとミカゲを玄関までお見送りする。


「じゃあこれで失礼するよ。またねナギ、三條の息子さん」

「お気を付けて」


 するとユウケイがナギを見る。


「ナギ、また今度話そう」

「はい」


 ユウケイはシンメイ達と一緒に出て行く。最後まで送り届けるのだろう。

 その後ソラも言う。


「じゃあ僕も帰るよ。また学校で」

「ソラ」

「ん?」

黒銀くろがねがサクラと入れ替わった時、サクラはそのことを覚えているのか?」

「いや。覚えていないと。初めて会った時に聞いたことがある。その時は覚えていなかった」

「それは確実なのか?」

「ああ。サクラの心は嘘を言ってなかった」

「そうか」

「なにか気になるのか?」

「いや、確認だ。引きとめて悪かった」

「じゃあ」

「ああ」



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