第81話 ソラと黒銀(1年前)④
ソラとサクラは目の前にいるだろう草むらに隠れた妖獣に全神経を向ける。
「ソラ、何かいるよね?」
「ああ。サクラ、俺の後ろにいて」
ソラはサクラを手で自分の後ろへ押しやる。
――レベル6、いや、レベル7か。それも大きい。それに1匹じゃない?
姿は見えないが、妖力からして簡単に倒せる相手ではないことは分かる。
――あいつら、俺らを本気で殺す気か?
そう思いたくないが、この妖力からしてそのレベルだ。
すると草むらからゆっくりとその姿を現わした。
「!」
ソラは目を見開く。
――大蛇!
大蛇は首を上げる。その高さは2メートルはある。その時だ。
「ソラ!」
サクラがソラを突き飛ばした。ソラはすぐに顔をあげサクラを見れば、サクラの脇を違う大蛇が噛みついているところだった。
「サクラ!」
――しまった! 前の大蛇に気を取られていた!
ソラはサクラの大蛇を焰の妖力で焼き尽くす。そしてサクラに駆け寄ろうとしたところで、他の大蛇の胴体がソラに巻き付き動きを止められた。
――まだいたのか!
すると軍の者達がやって来て叫ぶ。
「大蛇が何匹もだと!」
ソラは締め付けられながらも軍の者の心を読み、予想外の出来事だと悟る。
――どういうことだ? 軍の奴らの仕業じゃない? それよりもサクラだ!
見れば大蛇がサクラの所にゆっくりと這いずりながら近づいて行っていた。
――サクラを狙っている?
だがサクラは噛まれたことにより、全身に毒が回り動けず倒れたままだ。
「くそ!」
ソラの目が銀色に輝く。その直後、ソラに巻き付いていたヘビが破裂したように跡形もなく飛び去った。すぐさまソラは剣を出現させ、今にもサクラに噛みつこうとする大蛇に一気に間合いを詰め、大蛇の目を狙い斬り込んだ。ソラの剣はみごと大蛇の目を切り裂き、後ろに仰け反らさせ、どうにかサクラへの攻撃を回避させた。だが大蛇の目はほとんど傷ついておらず、致命的な傷とはいかなかった。
――くそ! 固い! ほとんど傷も付けられなかった!
すぐさまサクラへと駆けつけ抱き起こし蛇から離れ周りを見れば、軍の者達はヘビの妖獣に手こずっていた。
――自業自得だ。
「サクラ、大丈夫か!」
だが毒が回ったサクラは意識も混濁状態で反応がない。すぐに毒を消すために三條家の力の1つ、浄化能力を施す。だが浄化が効かない。
――くそ。毒が強く回りが早い!
普通の毒ならば消えるはずの毒がレベル7の大蛇では強すぎて浄化が追いつかないのだ。
すると大蛇がソラを尾で吹き飛ばした。浄化に集中してたため反応が遅れ受け身を取ることが出来ずに岩にもろに背中から激突した。
「がっ!」
背中に激痛が走り、息もうまく出来ず、すぐに起き上がることができない。
――しまった。肋骨が折れた。
すぐに自分に治癒を施す。だがその間にサクラへまた大蛇が近づき、襲いかかった。
「サクラ!」
大蛇の口がサクラに噛みつこうとした時だ。膨大な妖力がサクラから放出され、同時に大蛇が吹っ飛んだ。
「!」
ソラはあり得ない光景に驚き、目を見開く。意識が朦朧として動けなかったはずのサクラが立ち上がったのだ。
「サクラ?」
するとサクラとは違う低い男の声音がサクラから発せられる。
「この娘はやらせん」
「!」
その声にソラは目を瞠る。
――
見ればサクラの目は銀色に光り輝いていた。そしてサクラ――
――瞬殺だと!
すると
「ざまあないな。ソラとか言ったか」
「
ソラは怒気を含んだ声で名を呼ぶ。
「ん? なぜ動けるってか? そりゃあお前のほうが弱いからだ」
「……」
――なぜ封印が解けた? 俺の力は
「それにしてもお前の顔、
ソラはギッと
「怒った顔もそっくりだ」
すると
「くそ。限界か」
「?」
「今この娘に死なれたら元も子もねえからなー」
――これは浄化能力。サクラの毒を消すのか。
すると毒がすべて消し去った。
「ふう。やはりここまでの毒を消すのは一苦労だな」
そこでソラは、
――くそ!
初めての屈辱を味わう。そして同時に情けなさも――。
そんなソラの気持ちを読み取り嘲る。
皮肉にも
「有り難く思え。俺がいなければこの娘は助からなかったんだからなー」
「――」
「悔しいか? これが実力の差だ。そして本物と偽物のな」
「!」
「でもまだ俺は完璧じゃねえからなー。だからお前は生かしておいてやる。って言ってもお前を殺せないんだよなー」
「……」
「まあいいや。俺は眠る。その間、せいぜい俺の倒し方を考えておくんだなー。またなソラ」
するとサクラの目の銀色が消え、その場に崩れ落ちた。
「サクラ!」
すぐさまサクラを抱き起こす。もう
――サクラを治すのに妖力をすべて使ったということか。くそ!
ソラはすぐに封印をサクラに施す。
――いつでもあいつは封印を解くことが出来るということか?
だがそれには疑問が残る。
――やはり皇帝の力が一緒じゃないと駄目ということなのか。
納得いかないが、今はそんなことをしている場合ではない。周りを見れば、軍のいけ好かない奴らが残りの妖獣の大蛇と戦っていたからだ。だがやはり下っぱの軍隊の集まりだけあり、なかなか倒すことが出来ないでいた。
「ざまあないな」
このまま助けず放置してやりたい。だがサクラをこの状態にしておくわけにはいかない。仕方なくサクラをその場に寝かせる。
「面倒だ」
ソラの双眸が銀色に光る。
――くそ!
すべて焼き尽くした後、そこにいた軍の者の意識を操作し、サクラが噛まれたことなどの情報とソラの銀色に光る目のことは記憶から消した。
「これでこいつらも懲りるだろう」
だがまだ怒りが収まらない。それは
――サクラを死なせたくないためにした封印が、
サクラを助けることが、
ソラはすぐにサクラを抱き起こすと、大蛇に噛まれた脇腹の傷口を塞ぎ、噛まれた形跡を消す。
――傷口までに回す妖力はなかったということか。
その後に分かったことは、サクラの封印はやはり、日に日に徐々に弱くなっていっていたことだ。その後は定期的にサクラに気付かれないように封印を張り直していたのだった。
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