第79話 ソラと黒銀(1年前)②


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


まず ご挨拶まで~。

              碧心☆あおしん☆ 


――――――――――――――――――――――




「長い年月が過ぎ、半分諦めかけていた時だ。九條サクラを見つけた! 分かるか? その時の感動を! 俺は初めて神に礼を言ったね」


 黒銀くろがねは、サクラを見つけた時のことを思い出し歓喜に満ち溢れ、宝物を見つけた子供のようにソラに満面な笑顔を見せ両手を広げて見せる。

 だがソラは、そんなテンションの上がった黒銀くろがねに対し冷めた目を向ける。


 ――ほんとよくしゃべる。自分で話しながらハイになってやがる。


 そんなソラの考えに気付かずに黒銀くろがねは話し続ける。


「だが、このうつわは永遠じゃない。もしこのうつわの寿命が終れば、またすぐ違ううつわを探さなくてはならない。それに万象無効ばんしょうむこうの者がすぐに見つかることは限りなくゼロに近い。そうなれば、また昔に逆戻りだ。そんな面倒なことは金輪際お断りだ。こんな生活からおさらばするには、やはり皇帝を殺すしかないというわけだ。皇帝を殺せば、刻印はなくなるからな。だから俺はこいつの体と能力を使って皇帝を殺し、そして何もかも終らせるのさ」


 そう言いながら黒銀くろがねは、自分に酔いしれるように微笑む。


 ソラはサクラ本人の笑顔を思い出す。その笑顔は、いま黒銀くろがねが見せる笑顔とはかけ離れたものだった。


 ――サクラはあんな気持ち悪い笑い方をしない。


 ソラはフツフツと怒りが込み上げる。


 ――胸くそ悪い。


「お前の言うことはわかった。したいなら勝手にしろ。だがサクラの体を使うな。サクラから今すぐ出ろ!」


 ――刻印なんて俺には関係ない。それよりもこいつがサクラの中に入っているということ自体が許せない。


 元々ソラは人と接するのがあまり好きではない。理由は人の心が分かるからだ。

 表では笑顔で好意的な態度を取っていても、心では蔑んだり、何か企んでいたりする者が多い。そんな裏表がある人間がソラは嫌いだった。

 その中でサクラは裏表がなく、一緒にいても不快感はまったくなかった。

 だからサクラはソラの中で数少ない気に入った人間の1人だった。


 そのサクラを黒銀くろがねが意識を乗っ取ろうとするのが許せない。もしどうでもいい人間なら、これほど怒りを感じなかっただろう。


 黒銀くろがねは鼻で笑う。


「阿呆か。こいつじゃなければ成し遂げれねえって言ってるだろ。聞いていなかったのか?」

「ちゃんと聞いていたさ。だから言っている。他の万象無効ばんしょうむこうの者を探せ」

「するか。万象無効ばんしょうむこうの者は稀少なんだよ。ほとんどいねえ。こいつに出会うのに何百年かかったと思っている。やっと見つけたお宝だ。誰が手放すかよ」


 拒否られるのは百も承知だが、面と向かって言われると腹が立つ。


 ――今すぐにでも強引に引っ張り出してやりたい!


 だが黒銀くろがねをサクラから強引に引き離す方法は今のところない。現時点で出来ることは、サクラごと黒銀くろがねを倒すか、サクラの中に黒銀くろがねを封印することしかない。だが前者の選択はソラにはなかった。


「じゃあ力尽くでいくのみ!」


 ソラは戦闘体勢を作る。それを見た黒銀くろがねは余裕の笑みを見せる。


「ほう。俺とやり合うつもりか?」

「そうだ」

「お前、俺に勝てると思っているのか?」

「ああ。今のお前はまだサクラの中に入って日が浅い。だから力が完璧に使えないからな。それなら俺にも勝算はある」


 その言葉に黒銀くろがねは目を眇めて片方の口角を上げる。


「……へえ。ただの阿呆ではなさそうだな」


 そこでソラの言ったことは間違っていなかったと確信する。


 三條家にある伝書によれば、その者に乗り移ってからその者の魂と融合し定着するまでには1年ほどの期間が必要とされ、その間思うように力が使えないと書かれていた。


「そんなことしてみろ? こいつの体を傷つけることになるぞ。それでもいいのか?」

「ああ、分かっている。戦うわけじゃない」

「?」

「お前を封印するんだ」


 刹那、ソラの双眸が銀色に光る。それには黒銀くろがねは驚き目を瞠った。


「! お前! ものか!」


 『もの』とは、白銀しろがねの能力をそのまま受け継ぎし者のこと。三條家の者の中で必ず1人は受け継ぐ。ソラの前が祖父だった。その祖父が亡くなった時にその力がソラに現れたのだ。


 ――あの時は本当に迷惑だと心底爺さんを恨んだが、今は有り難く思う。


 ソラは唱える。


縛守黒錠ばくしゅこくじょう


 刹那、サクラの体が何かに縛られたように硬直する。


「きさま! その力!」


 ――サクラの顔で言うな。


 ソラは両手の手の平で四角を作り、その中に写真のフレームのようにサクラの姿を入れる。


黒魂封印こくこんふういん


 その四角を作った両手から銀色の四角い光がズバッとサクラを囲み、そのまま吸い込まれる。同時にサクラはそのまま足から崩れ落ちた。それをソラが抱き止める。


 これで当分は黒銀くろがねも眠り、出てこれないだろうと思っていた。


 半年後に行われたあの軍との共同練習の時までは。



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