第74話 ヤマトの誕生日パーティー①
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「サクラ、これはどういうことだ?」
ナギはとても不服そうにサクラに問う。
「うん。こっちもめちゃくちゃ似合うね!」
「本当に! 坊ちゃま、とてもお似合いでございますー」
ウメまでもが褒め称える。
実は今ナギは着せ替え人形状態だ。
「だからこれはどういう状態だと聞いている」
「どれがナギに似合うのかを決めてるんじゃない。だってあと3時間後なんだよー。ヤマト様の屋敷にお呼ばれしてるの。変な格好出来ないじゃない」
サクラは嬉しそうに言う。
先日ナギとサクラはヤマトの誕生日パーティーに招待されたのだ。ナギが断るのを知っていたのか、ヤマトの使いの者はサクラにそっと招待状を渡したらしく、サクラもこそっと2人出席と勝手にしたのだ。
だが、ナギがその事実を知ったのは今だ。
「俺は聞いてないぞ」
「当たり前でしょ。そんなことナギに行ったら断るって分かってるし、予定を入れて逃げることも分かってるもん」
「……」
これはナギにも責任がある。この前エリカの父親の五條家のパーティーを断り、当日もどこかに姿をくらましたのだ。その時はどうにかサクラとマサキが誤魔化し事を得たのだが、今回は皇族ということで、ナギに逃げられては困るとサクラとマサキ、ウメはナギに内緒でこのような行動に出ていたのだ。
――サクラのやつ、一緒にいる時間が長いからか、俺の行動をディーク並みに把握してきてるな。
ユウリの時もそうだが、裏の裏をかくのがうまい。自分の気持ちを隠すのがうまいだけあって、このようなことを隠すのは朝飯前のようだ。
見れば出口にマサキも逃がさないと言わんばかりに仁王立ちしている。瞬間移動が出来るから意味はないのだが、今はそこまでして逃げようとは思わない。それは目の前で嬉しそうに笑顔を見せている者がいるからだ。本人はしてやったりと思っているようだが、爪が甘いなとナギは苦笑する。ユウリならこれで通じたであろうが、今まで戦争や陰謀の真っ只中にどっぷりつかっていたナギからしたら子供じみたことにしか思えないのだ。
「ウメさん、こっちのがいいよね」
「はい。どちらでもお似合いですから、サクラさんがお気にめしたほうでよろしいかと」
「じゃあこっちにしよっと」
腰に手をあて満足そうにしているサクラを見ると、嬉しそうだからいいかと思う。
「じゃあ次は髪型ね! 隣りの部屋に美容師さん呼んであるから」
「はあ? 別にこのままでいいだろう」
「だめよ! 相手は皇族なのよ! それに陛下も顔を出すって言ってたんだから。ちゃんとしないとだめよ!」
「サクラさん、そろそろサクラさんもお支度をなさいませんと」
ウメが時計を見て言う。
「あ! ほんとだ! ウメさん、あとは任せたわ」
そう言ってサクラはバタバタと部屋を出て行った。
「ったく、騒がしいな」
「うふふ。サクラさんは、坊ちゃまとパーティーに行けるのがとても嬉しいのですよ」
「なんでだ?」
「今まですべてのパーティーに坊ちゃまが出席なさらなかったため、サクラさんはお一人で出席なさってみえたのです。それは寂しいに決まっているではありませんか」
確かにユウリの記憶を辿れば、色々な行事を断っていた記憶がある。その間サクラは嫌々出席していたのをマサキやウメから聞いていたようだ。
二人で出席する行事ならば、何かしらサクラはユウリのことで聞かれたりしたはずだ。その都度色々な言い訳をしたり、謝っていたのだとウメがユウリを叱っているのが記憶であった。
「坊ちゃま、どうかサクラさんを悲しませたらいけませんよ。だから逃げないでくださいまし!」
「……ああ」
ウメに言われなくても逃げる気は今はサラサラないが、どうもウメに言われると嫌とは言えない自分がいた。前の世界で小さい頃世話になった大好きだったばあやを思い出させるのだろう。老人だからなのかウメとかぶって見てしまうのだ。
「さあ、隣りの部屋に移りましょう」
ウメに促され素直に従うナギだった。
ヤマトの屋敷までは車で移動する。一條家もそれなりに大きい屋敷だと思ったが、ヤマトの屋敷は桁違いに大きかった。
「さすが皇位継承順位第二位だけなあるな」
最初の門をくぐってから1分は車で走っている。スピードが出ていないからといって車でこれだけ移動する屋敷はあまりないように思える。
「皇族だからねー。あ! 綺麗な噴水!」
そう言って外を見てはしゃぐサクラもいつもと感じが違い赤い膝丈までのドレスを着て化粧もしている。女性は化粧をすると化けるものだとつくづく思うナギだ。
そこで昔の王宮のことを思い出す。まだナギが幼い頃、よくパーティーが行われていた。そこにはとても煌びやかに着飾る婦人達がいたのを覚えている。そしてナギを見て、扇子で口元を隠しこそこそと話している姿。どう見ても褒めているものではないことは子供でも分かった。だからナギはパーティーは嫌いだった。
――何年ぶりだろうな……。
向こうの世界にいたら、絶対に出なかっただろう。どんなことをしても阻止した。
隣りを見る。嬉しそうにしているサクラを見るとどうもそう出来ない。
――焼きが回ったか。
鼻で笑えば、
「どうしたの?」
とすぐに気にとめ声をかけてくる。それも悪くない。
「いや。なにも」
「そう」
そう言ってまた嬉しそうに外を見ている。そんなサクラを見て自然と笑顔になる。
――まあ今日はこいつに従ってやるか。
サクラが喜ぶからと言う理由もあったが――。
――皇帝も来ると言ったな。
この国の頂点に立つ皇帝を一度見てみたいと思ったのも出席しようと思った理由の1つだ。
――すべての者を魅了してやまない存在。その姿を目にすれば抗うことが出来ない存在。そしてどんな者もひれ伏してしまう圧倒的な支配者か。
どんな人物なのか興味が沸いた。
「楽しみだな」
ふいに出た言葉にサクラは頷く。
「うん。楽しみだね」
たぶんサクラが思っている楽しみとは違うだろうとナギは思ったが否定しない。
――まあ俺もだいぶんこいつの扱いが分かってきたな。
車を降り、パーティー会場に向かう。さすが皇族というだけあって、来ている者は皆位の高い者ばかりだった。会場につくと声をかけられる。
「ナギ」
「サクラ」
父親のユウケイとサクラの父親のテツジだ。二人そろってご登場だ。
「父さんも来てたんですね」
仕事で忙しい身分だから欠席だろうと思っていた。
「さすがにヤマト様の誕生日パーティーに陛下も来るのに欠席というのもな」
確かにそうだと納得する。
「サクラ、元気そうだね」
「うん」
テツジも娘に会えてうれしそうだ。
「じゃあ私達は行くよ。ヤマト様は奥にいらっしゃる。挨拶をしてきなさい」
「はい」
「じゃあな。ナギ、さくらちゃん」
二人は去っていった。その後をずらずらと護衛が付いていく。やはり一條ユウケイは国のトップなのだとこういう所で実感する。
――それにしても……。
視線を感じナギは目を細める。
「すごい見られてるな……」
この感覚は学校に初めて行った時と同じものだ。今はもうナギに慣れて誰も見てくる者はいない。だがここは違った。まあ仕方ないことだ。公の場でナギが姿を見せたのはこれが初めてだからだ。ユウケイと話していたからだろう。ナギが一條家の一人息子だと認識したようだ。
「しょうがないよね。みんなナギを見るの久しぶりなんだから」
サクラも気付いたようだ。
「大丈夫?」
見ればサクラは心配そうに見あげていた。そんなサクラの頭に手を置く。
「ああ。別に気にならない。いつものことだ。だから心配するな」
そう言って笑顔を見せれば、サクラは嬉しそうに頷いた。
「うん。そうだね」
ナギとサクラはそのままヤマトがいる場所へと挨拶に行く。すると誰かと話していたヤマトがナギ達に気づき笑顔を見せた。
「やあ! ナギ! 来てくれたんだね。うれしいよ」
「ご招待ありがとうございます。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
目の前のヤマトを見て、サクラは感極まる。
――わー! ヤマト様だ! こんなに近くで話すの初めてー。
するとヤマトはサクラを見て微笑む。
「サクラさん、元気そうでなにより」
そこでサクラは、ハッとしてお礼を述べる。
「この前は助けていただきありがとうございました」
深々と頭を下げる。父親のテツジからヤマトが助けてくれたのだと聞いていたのだ。
「気にしないで。僕の方こそ君達を危険な目に遭わせて申し訳なかったと思っている」
「い、いえ! そんなことないです! ヤマト様はまったく悪くありません!」
「ふふ。ありがとう。ではまた後で」
ヤマトはそう言って次の者と話し始めた。忙しいようだ。
ヤマトを目で追いながらサクラはぽーっと見とれる。
「ヤマト様すてきー」
「よかったな。ちょっとトイレ」
さも興味なしと言う感じで言うと、ナギは会場を出てトイレへと行く。そして用を足し会場に戻る廊下を歩いていると、物々しいほどの人が誰かを囲むように廊下いっぱいにいた。この状況から皇帝だとすぐ分かった。そしてその横にこちら側に顔を向けて皇帝と話している者がいた。その姿に見覚えがあった。
――ミカゲ?
するとミカゲが気付いた。嫌な予感がして願う。
――話しかけるなよ。
「お! ナギ!」
やはり話しかけてきた。皆、一斉にナギを見る。
――だから話しかけるんじゃねえよ。
「はあ……」
ナギは大きなため息をついた。
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