第71話 婚約式③
「ちょっと待ってもらえるかな。僕が見つけるから」
「え?」
3人は怪訝な顔をユウリに向ける。だがユウリはおかまいなしに出窓へ行くと窓を開ける。
「ユウリ様? 何を?」
ディークの質問にユウリは笑顔を見せるだけだ。そこでディークはユウリの特殊能力『探索』を使うのだと理解する。そこでユウリは「あっ!」と言って振り向き付け加える。
「気持ち悪かったらごめん」
「どういう意味ですか?」
「えっと、みんなの体を僕の能力が通り抜けるから、嫌な気分になる人もいるんだ」
「そういうことですか。わかりました」
ディークは笑顔で応えるが、ブルーノとカミラはまだよく分からず眉を潜めていた。だが説明している暇はない。
「じゃあやるね」
ユウリは背を向け窓の外を見る。そして1度深呼吸をして目を閉じる。
するとユウリの妖力が一気に膨れ上がった。
「!」
そして弧を描くようにユウリから何かがディーク達の体を通り抜けて行った感覚に襲われる。ユウリの言うように一瞬気持ち悪さを感じる。だが一瞬のため、気のせいかと思う者もいるだろう。
ディークは目を見開く。
――これがユウリ様の力。それになんだ、この力の量は! ナギ様に匹敵するほどの質量じゃないか!
ユウリはツイラン全域をくまなくクリスティーヌの魔力を探す。すると攫われた東の場所とは反対の西側の場所でクリスティーヌの魔力を感知した。
「いた! まだツイランの西だ!」
「え? 西ですか?」
「うん」
「そんな……。何かの間違いでは? 逃げた方向は東の方だと」
ブルーノが声を上げる。一行が逃げて言ったのは東なのだ。
「そう思わせといて、西に逃げたんだ」
「まさか……本当にクリスティーヌ様なのでしょうか?」
どうしても信じることが出来ないブルーノだ。
「信じれないだろうけど、これは絶対なんだ。カミラさんはここにいて。ディーク、ブルーノさん、行こう!」
ユウリは執務室を飛び出して行く。
「あ、お待ちください!」
ディークとブルーノも慌てて追いかけ執務室を出て行った。残されたカミラは出窓へと行き、祈りの姿勢を取り祈る。
「どうかお嬢様が無事でありますように」
ユウリはブルーノの馬に、そしてディークは自分で馬を走らせ、猛スピードで走らせる。
「ユウリ殿下、こちらでよろしいのですか?」
ブルーノが訪ねる。
「うん。このまままっすぐ! この先にクリスティーヌさんはいる!」
ユウリは自信を持って言う。だがどんどんと森の中へ入っていく。こんな所に本当にクリスティーヌがいるのかと不安になってくる。
だがそれがすぐに本当だったと証明される。
少しすると、奥に一件倉庫のような建物が見えてきた。それを見てユウリが叫ぶ。
「あれだ! あそこにクリスティーヌさんがいる!」
よく見ると、見覚えのある馬車が止まっていた。クリスティーヌを拉致し乗せていった馬車だ。ユウリ達は、倉庫から遠い場所に馬を縛り歩いて倉庫の場所まで移動する。そして木の陰に跪き隠れて様子を伺う。
「ユウリ様、これからどうするのですか?」
「え?」
予想だにしないことを言われて目を見開き振り返るユウリに、ディークはこめかみに筋を浮かせ目を細める。
「まさか何も考えていなかったのですか」
「あ……いや……その……」
さすがにブルーノも文句を言いたげな顔をユウリに見せる。
「あ、ほら、僕は戦ったことがな――」
そこでディークが素早くユウリの口を防ぎ、ブルーノには聞こえないようにユウリの耳元で囁く。
「何を言い出すんですか! ナギ様は思いっきり戦闘の前線にいた方ですよ! それを戦ったことがないなんて言おうとは、どういう頭してるんですか!」
「!」
ユウリはそこでそうだったと気付く。そして分かったと頷き、口を塞いだ手を外してくれとディークの腕をポンポンと叩く。その意図が分かったディークはため息をつきながらユウリの口から手を緩めた。
「戦ったことが?」
どうしたのかと首を傾げているブルーノに、ユウリとディークは愛想笑いをし、
「すみません、ユウリ殿下は戦争も終わり平和になったため、ツイランに来てからは戦ったことがないという意味です。ユウリ殿下は最近平和ボケしてしまいまして、たまに変なことを言うんです」
と、ディークは弁明する。
「平和ボケって……」
その横でユウリが突っ込んでいたのをディークは聞かなかったことにした。
「あの中に本当にお嬢様はいるのですか?」
ブルーノが再確認するようにユウリに聞く。
「うん。いる」
ユウリは大きく頷く。これだけは確かだ。するとブルーノが立ち上がる。
「では私が乗り込みます」
「え?」
ユウリとディークはブルーノを見あげる。
「私が引きつけて起きますから、殿下とディークさんはクリスティーヌお嬢様をお助けください」
そう言うと一気に倉庫へと駆け出す。
「え? ちょっと待って!」
ユウリの声はブルーノには届かず、一気に倉庫まで行ってしまった。
「ど、どうしよう」
「ユウリ様は近くまで行って外で隠れていてください。私もブルーノに加担します」
ディーノは立ち上がると腰の剣を抜く。
「え? ディーク大丈夫なの?」
「私も一応ナギ様と戦場にいたことがあります。大丈夫です」
「で、でも!」
「ユウリ様、ここまできて何を尻込みしているのですか」
ディークはユウリを見る。上から見下ろしているからか、いつもより余計に蔑まされたような目に見えるため、一瞬ユウリは昔を思いだし体が縮こまる。それを見てディークは気づき言う。
「あなたをバカにしているわけではありません。勘違いしないでください」
「あ、う、うん……」
「ただあなたにもナギ様と同等の力をお持ちなのに、何を恐れているのですかと言う意味です」
「え?……」
「もっと自信を持ってください。あなたは弱くない」
「……」
「ですからクリスティーヌ嬢が倉庫から出てきたらよろしくお願いします」
そう言うとディークは一気に倉庫へと向かった。残されたユウリはその場で呆然とする。
「僕がナギと同じぐらいの力がある……」
そこで昔のことを思い出す。小学校の頃一度だけ自分の力を使ってサクラを傷つけたことがあった。久々に力を使ったため制御が聞かずに暴走したのだ。その時飛んできた折れた大木がサクラに当たり負傷したのだ。幸い酷い怪我にはならずに済んだが、それ以来ユウリは力を使うのはやめようと思った。そこでふと思う。
――あの時、なんで力を使ったんだっけ?
あまりにも辛い思いだったからか思い出せない。確かにあの日から数日はあまり覚えがない。相当精神的に来ていたのだろう。あの後父親のユウケイに、力の使い方に気をつけなさいと注意された。
あれ以来、自分の力を封印してしまった。
「また暴走したら……」
すると、倉庫の中から爆発音が聞こえて来た。
「! みんな!」
気付けばユウリは倉庫に駆け出していた。倉庫まで来た時だ。勢いよく扉が開く。するとクリスティーヌとディークが飛び出してきた。
「クリスティーヌさん! ディーク!」
ディークはユウリに気付くと叫ぶ。
「クリスティーヌ嬢を!」
そしてディークはクリスティーヌの背中を押してユウリに渡すと後ろを振り向き、追いかけてきた輩へ剣を振り下ろす。
「早く! 逃げてください!」
「!」
ユウリはクリスティーヌの手を握ると「こっちに!」と走り出す。だが多勢に無勢だ。4人のモーリスの従者が追いかけてきた。そして魔法を繰り出す。
「!」
ユウリは咄嗟に振り向き結界をかけて防御。だがその間に追いつかれ囲まれた。すると1人がその後ろからやって来てた。
「これは誰かと思えば、ユウリ殿下ですか」
誰だと思っていると、背中に庇っているクリスティーヌが呟く。
「モーリス様……」
「モーリス? こいつが」
「邪魔しないでもらえるかなー」
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