第68話 河辺の陰謀⑥



 次の日、河辺は教室の前で立ち止まる。本当は学校を休もうかと思ったが、1日でも学校を休むと成績に影響するため休めない。だから来たが、サクラとソラにどのような顔をして会えばいいのか分からない。ソラに関してはきのうの感じから相当怒っていた。自分も相当怖かった。だからソラとは顔を合わせたくない。


 ――サクラさん、怒っているだろうか?


 きのうは結局サクラとは話すことが出来なかった。


 ――でもきのうのことは、ガーゼラ国がしたことだ。僕は利用されただけだ。そう言えばサクラさんは許してくれるだろうか。


 意を決して教室へと入る。見れば、サクラはいたが、ソラはまだ来ていなかった。笑顔で友達と話しているサクラを見てほっとする。きのうの恐怖で暗かったらどうしようかと思ったのだ。


 ――きのうのこと謝らなくちゃ。


 だがどうしても足が動かない。もし他の生徒のように自分に声をかけてくれることがなくなったらどうしようかと恐怖が先立ち前に進めない。するとサクラが河辺に気付き、河辺の元へとやってきた。


「河辺君、おはよう」

「お、おはよう……」


 するとサクラは周りを気にして誰もいないことを確認すると、小さな声で顔を近づけて言う。


「きのうは大丈夫だった? 怪我はない?」


 あまりにも間近でサクラを感じ、きのうのことを忘れ幸せな気分になる。


 ――ああ。サクラさんの匂いだー。


 緩んだ顔をしていると、


「河辺君?」


 と下から覗かれた。


「あ、ご、ごめん。大丈夫だよ。サクラさんこそ大丈夫?」

「うん。私はどこも。河辺君が守ってくれたから」


 ――おー! サクラさん、そう思ってくれてるんだ! 嬉しいー!


 笑顔になる河辺に、サクラは眉を潜め首を傾げる。


「河辺君、大丈夫?」

「あ、う、うん」


 そこで今だと河辺は緩んだ顔を引き締める。


「サクラさん、きのうはごめんね。ぼくのせいで危険な思いさせてしまった」

「河辺君が謝ることないよ。あの妖獣ってガーゼラ国の人だったんでしょ?」

「う、うん」

「なら河辺君はまったく悪くないよ」

「で、でも僕が」

「おはよう」


 後ろからソラが声をかけてきた。河辺はビクっと体を強ばせる。


「さ、三條く、くん……」

「やあ河辺。ちょっと。サクラ悪いな」


 ソラは河辺をサクラから離し、教室の隅へと移動する。


「きのうあんたがしたことはサクラに言ってない」

「え?」

「サクラはガーゼラ国がやったと思っている。だから余計なことは言うな」


 ソラは淡々と河辺に言う。


「あ、ありがとう」

「勘違いするな。お前の為にしたんじゃない。サクラのためだ。俺はお前を許してない」

「……」

「今度、あんなことしてみろ。ただじゃすまない」

「わ、わかった」


 ソラが去ろうとした時、河辺は訊ねる。


「三條君は、サクラさんのことが好きなのか?」

「――」

「だって、サクラさんと他の子ではまったく接し方が違うから」

「お前には関係ないだろ」


 ソラは冷めた目をして言うと、そのまま去って行った。


 ――じゃあきのうのことはサクラさんは僕のせいだと思ってないということか! じゃあ今まで通りなんだ!


 河辺は嬉しくなり顔をほころばせる。そんな河辺の心境をソラは読み、


 ――やっぱりボコボコにしてやればよかった。


 と後悔するのだった。





 放課後、チーム『ウエスト』の部屋にナギとソラは待ち合わせた。今日は会議がないため他の者は誰もいない。


「ソラ、お前、きのうのこと何かしたか?」


 あれだけ強い妖獣が現れたのに、教師も生徒も誰1人と話題にしなかったのだ。


「ああ。きのうのことはなかったことにした」


 やはりそうかとナギは嘆息する。


「ちゃんと西園寺先生には説明したよ」


 ソラの能力は自分よりも強い者には効かない。今この学校ではミカゲとナギには効かないのだ。


「だからミカゲは何も言わなかったのか」


 それにしてもとナギは目を細める。


 ――こいつが一番危ないんじゃないか?


「大丈夫だよ。僕が出来るのはここまでだから」

「どういうことだ? ってか心を読むな!」

「三條家は皇帝に誓いを立てているのは知ってるだろ?」

「ああ」

「だから皇帝を助ける行為は許されているけど、皇帝に危害が加わる行為をすると、誓いの縛りが発動し、僕は命を奪われる」

「命だと?」

「ああ。だから意識操作は制限があるんだよ」


 ――ペナルティがあると聞いていたが、命だったか。


「その罪は許してもらえないのか? もう大分昔の話だろ?」


 『白と黒の妖王あやかしおう』という物語の題材になった三條家の双子の1人、黒銀くろがねが起こした皇帝の命を狙った事件だ。それはもう500年以上前の話だ。その時に課せられた三條家の罪の代償がまだ続いているのだ。


「ああ。まだ無理だね」

「そうか」


 皇帝の命を狙ったことは相当な罪になることは分かる。だが、いい加減許してもいいのではないかとナギは思う。


「けっこう融通がきかないんだな」

「しかたないよ……」


 そう言ったソラの表情は、不満があるように思えなかった。三條家は皇帝に相当忠誠心がある一族なのかと思ってしまう。だが当の三條家が納得しているのなら、まあいいかとそれ以上言うのはやめ、話題を変える。


「あのストーカーは?」

「普通に来てたよ。でも俺は避けられてたけどね」

「あいつの記憶は操作しなかったのか?」

「ああ。消したらまたサクラに何するかわからないからね」


 牽制のために記憶を残したのだとナギは理解する。


「じゃあ、これで反省して何もしてこないだろうな」


 するとソラは目を細めてムッとする。


「いいや。まったく変わってなかった。やっぱり軍にスパイだと引き渡しておけばよかった」


 本気で言うソラに、ナギは何かあったんだなと苦笑する。


「で、どうだったの?」

「ん?」


 ナギは質問の意味が分からず目を丸くする。


「昨日、調べたんでしょ?」

「ちっ! のぞき魔め」


 悪態をつくナギにソラはただ笑顔だ。


「あいつらを追って行ったんでしょ? やっぱりガーゼラ国のやつら?」

「ああ。だが何も新しい情報はなかった。まあ居酒屋があいつらの隠れアジトだったから、それは叩いておいた」

「え?」

「全員拘束して、自決しないように魔法で口を塞ぎ、父親に頼んでおいた」

「あはは。やることが規格外だね」


 まず妖力では一度に全員を拘束し意識操作するのは無理な話だ。


「あとは父親がうまくやってくれるだろう」

「一條当主もナギのこと気付いているの?」

「ああ。秒速でばれた感じだな」


 その時のことを思い出す。


 ――ありゃ犯則技だな。


 まさか皇族の者には見抜く力があるとは知らなかった。


 ――ってことは、ヤマト様も知っているのか?


 ヤマトはユウリと会っていない。だからナギと入れ替わったことは気付かないはずだ。だがと否定する自分がいる。ヤマトの場合、わざと黙っているという線が濃厚のような気がするのだ。


「皇族の血は侮れんな」


 独り言のように呟くナギにソラも頷く。


「ほんと、僕もそう思うよ」


 確かに三條家もある意味、そうだなとナギは苦笑するのだった。




――――――――――――――――――――――



 こちらを見つけてくださりありがとうございます。

 そして、ここまで読んでくれたお優しい読者様ありがとうございます。

 ここで、第五章 終わりでございます。


 第六章は、ユウリさん中心です(^o^)

 ナギはどっちかというと、成長というより周りに正体がばれてるという感じですがw、ユウリはヘタレ男子から1人の男性へと成長していく感じですね。


 第六章も 読んでいただけたらうれしいです~。

 また♡、コメント、☆評価をしていただけると、頑張るモチベーションにもなりますのでよろしくお願いします。

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