第66話 河辺の陰謀④
「便利だね、君の魔法」
「!」
ナギは驚きソラを凝視する。ソラにはまだ魔法ということを言っていないのだ。
「やはり知ってたか」
心を読めることを知った時からそうではないかと思っていた。
「いつから知ってた?」
「君が洗礼受けた時からだね」
笑顔で応えるソラにナギは「はあ」と額に手をあて天を仰いだ。
「最初からかよ」
「うん」
「なんで今まで黙ってたんだ? 俺はお前にとって得体の知れない危ない存在に映ったはずだ。ソラがどこまで知ってるか知らないが、普通警戒するだろ」
「んー、そうなんだけど、サクラも西園寺先生も君を認めていたからね」
それだけで信じていいのかと反対にナギは心配になる。そんなナギの心情を読み取りソラは笑う。
「君が心配してどうするんだよ」
「仕方ないだろ。癖なんだよ」
昔から裏切られるのは当たり前の世界で育った。戦争が始まってからはそれが日常茶飯事だったため、自ずと警戒心は強くなった。ましてや生き残るためには、先を読んだり相手の意図を読み取らなくてはならない。腹の探り合いの生活が続いたため今もその癖が抜けないのだ。
そんなナギの考えを読み取りソラは同情の眼差しを向ける。
「君も大変だったね」
ソラの言葉ですべてを知られているのではないのかと錯覚する。
「ソラはどこまで俺のことを知っているんだ?」
「俺は君の正体についてほとんど知らないよ。ただ前がユウリという人物で異世界から来た君と入れ替わったこと。それをサクラと西園寺先生と君の父親が知っていることぐらいかな。あとその入れ替わったユウリという人物とは連絡を取っていることぐらいかな」
「どこがほとんど知らないだ。全部知ってるじゃないか」
目を眇めて突っ込むナギにソラはふっと笑う。
「合ってたんだ。今までの君とサクラの心を垣間見たのを総合的に考えて言っただけだよ」
「なるほどな」
「勘違いしないでくれ。別にいつも覗いているわけじゃない」
「どうだか」
ナギは鼻で笑う。
「ほんとさ。けっこう心を読むのはけっこう消耗するんだよ。だから必要な時しかやってない。それに、」
そこでソラの笑顔が消え声のトーンも下がる。
「人の心を覗いてもいいことがないことがほとんどだ」
急に不機嫌になるソラを一瞥してナギは言う。
「まあ、人間は裏表があるからな。人の心を覗いてもろくなことがないだろうな」
「ああ。でも君は嫌いじゃない。裏表がないからね」
「へえ。そりゃどうも」
少し照れてどう反応していいか分からないナギだ。そんなナギの心情が分かりソラは微笑む。
「さっきの話だけど」
「?」
「なぜ信じたのかは、君の心を見る限り君は悪いやつじゃないからだ。それに力もある。サクラを守れれば誰だっていいんだよ」
ナギは眉を潜める。言い方が引っかかる。
「サクラを守れれば?」
「あ、勘違いしないで。恋愛感情からじゃないから」
「いや、そういうことじゃない。なぜ守るんだ?」
「君なら分かるだろ?」
ソラは意味深げに両端の唇を上げる。その意味は1つしかない。
「それはサクラが……」
そこで言い止す。もしかして違うかもしれないのだ。下手に口に出すことは危ない。
「そこで止めるなんてさすがだね」
「……」
「そうだよ。僕はサクラが
「やはりそうか」
「ああ。三條家だからね」
――それは心を読めるからという意味か。なら話は早い。
「サクラのことがばれているのなら、今この状況の説明もいらないな」
「ああ。狙いはサクラだね」
「そういうことだ」
「で、あいつらどうする? 捕まえる?」
ソラはナギに次の行動を促す。確かに実戦経験からしてナギの判断に任せるのが正しい判断なのだが、ここまですべてソラの思惑どうりに来ているようでナギ的にはいい気はしない。だが今はそんなことを思っても仕方がないと気持ちを切り替える。
――たぶんこいつは全部知っている。なら隠しても意味がない。
「あいつらを捕まえるのは簡単だ。だが捕まえた後が問題だ」
「そうだね。あいつらを差し出せば、狙われたサクラが疑われる」
「ああ。それにあのストーカーも下手すりゃ退学だ」
「べつにそれはどうでもいい」
笑顔を消して言うソラにナギは目を細め半笑いする。
「お前、相当あいつのこと嫌いだな」
「ああ。ああいう性根が腐ってるやつは軍には向かない。いても迷惑をかけるのが目に見えている。なら今のうちに辞めた方がいい」
「まあ正論だが、今は大事にしたくない」
ソラもそれには賛成のようで反論してこなかった。
「じゃあどうする?」
「まず拘束する。ソラはあいつらが自決しないように意識を操作しろ」
「了解」
その後、ナギの魔法であっという間に拘束した。訓練されている工作員でも、妖力ではないナギの魔法には無力だった。その後すぐにソラは意識を操作し、自決をする意思を廃除した。
4人の前にナギとソラは前に立つと、1人のリーダー的存在の男が小さく呟いた。
「一條ナギと三條ソラか」
その言葉にナギとソラはわざと反応する。
「へえ、俺達のことを知ってるんだ」
「まあ工作員なら十家門のことは調べるのは当たり前か」
だがそれに対して4人は何も話さなかった。
――まあ工作員としては正しい反応だな。
ナギは4人の前にしゃがみ笑顔を見せる。
「お前達の目的はなんだ?」
だが4人とも頑固として口を閉ざす。
「分かっていたけど、口は固いねー」
「だな。仕方ない。ソラ頼む」
「ああ」
すると1人の工作員の男が鼻で笑う。
「ふっ! 残念だな。俺らには暗示は効かないぜ」
――俺の、三條家の能力を知っているということか。
どこの工作員も拘束された場合、暗示によって自白させる妖力にかからないように訓練されている。そのことを言っていた。
だがソラはにぃっと笑う。
「分かってるよ。悪いけど、俺のは特殊なんだ」
「?」
刹那、ソラの目が銀色に光る。それを見たリーダーの者が驚き叫んだ。
「お、おまえ! まさか!」
「へえ。知ってるんだ。相手が悪かったね」
すると4人はボウッと意識が朦朧とした状態になった。
「さあ。応えてもらおうか」
その後4人から知ってることをすべて吐かせ、意識を操作し、見知らぬ者に遭遇して気絶させられたことにしてその場に放置した。
4人の自白から、やはりサクラ狙いだと分かった。サクラが
「いいの? 逃がして」
放置することを決めたのはナギだ。
「ああ。捕まえて教師に差し出せば、サクラのことも、あの河辺というやつも学校にいれなくなるからな。ガーゼラ国にはサクラは
「別に河辺は退学させればいいのに」
「おまえなー」
ナギは苦笑する。そんな自分には関係ないという態度のナギがソラは気に入らない。
「あのね。君の許嫁が変な男に目を付けられてるんだよ。もう少し危機感持ったほうがいいよ」
「大丈夫だろ」
「はあ。ほんと違う意味で、心配だよ」
その時だ。いきなり妖力が膨れ上がった。
「河辺のやつ、薬を使ったな!」
ナギとソラは急いでサクラ達の所へと走った。
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