第65話 河辺の陰謀③





 河辺は空になった小瓶を眺めながら満面の笑みを浮かべた。

 これは先日女子生徒からもらった物だ。



      ◇



 河辺が下校している時だ。


「すみません、河辺先輩ですか?」


 振り向けば、同じ学校の制服をきた女子生徒がいた。


「あ、は、はい……」


 河辺は下を向きながら目線は合わせず返事をする。サクラ以外から話しかけられたことがないため、緊張から返事が小さくなってしまった。だが女子生徒は気にせず、河辺へ顔を近づけて言う。


「河辺先輩、九條サクラさんのことが好きなんですか?」

「え?」


 反射的に河辺は顔をあげ女子生徒を見る。


 ――な、なぜ知ってるんだ! ってか、顔がち、近い!


「あ、ごめんなさい。ずっと九條さんを付けていたみたいなので……」

「え!」


 ――なぜそれを! 気付かれないようにしてたのに!


 あからさまに驚き、顔を赤くした河辺に女子生徒はクスッと笑う。


「すみません、とても分かりやすかったので」


 ――そ、そんなにわかりやすかったのか? どこでばれたんだ!


 まさかばれていたとは思わなかった河辺は、女子生徒がいるのも忘れ腕組みをして思考を巡らる。


 ――なぜばれた? 隠れていたし、サクラさんも一條ナギも気付いている様子もなかったのに。( ※ 数秒でナギにばれていることに気付いていない河辺だ)


 ずっと考え込んでいる河辺に女子生徒は恐る恐る声をかける。


「あ、あのー?」

「あ、ご、ごめん」


 そこでやっと思考を止め女子生徒を見る。そして今度はなぜこの女性生徒が話しかけたことが気になった。警戒して見ていると、


「あ、すみません。私1年生の橋田と言います。じつは私、一條ナギ君のことが……」

「え?」


 予想外の言葉に河辺は目を見開き驚く。


「そ、それは一條ナギのことを好きってことですか?……」


 すると橋田は恥ずかしそうに顔を赤くし首を縦に振る。


「私、どうしても一條君に自分の方に向いてほしくて……。もし九條先輩がだれか他に好きな人が出来れば諦めて許嫁を解消するんじゃないかと。そう思っていたら河辺先輩のことを見つけて。もしかしたら河辺先輩も私と同じ思いではないかと思って」


 ――おー! こんなところに同士がいたなんて!


 そして河辺はピンとくる。


「それは僕と強力してあの2人を別れさせようということですか?」


 すると橋田は笑顔を見せる。


「はい」


 河辺は考える。


 ――許嫁でなくなれば僕にもチャンスが出き、うまくいけばサクラさんと付き合うことも出来るのではないか!


「いいですね! それ!」

「わー! 強力してくれるんですね!」


 橋田は両手を胸の前で合わせ喜ぶ。


「うん。やりましょう!」

「提案なんですけど」

「?」

「九條さんに良いところを見せたくないですか?」

「いいところ……」


 そこでまた河辺は考える。


 ――良いところを見せればサクラさんの僕に対しての株が上がる。「わー! 河辺君! すごい! 見直したわ! 好き!」って言われるかもしれない。( ※ 河辺は妄想が大好きだった)


「いいですね!」


 河辺は目をギンギンにして応える。そんな河辺に橋田はちょっと引く。


「よ、よかった」

「でもどうやるんです?」

「私に考えがあります。今度の週末、裏山のゴミ拾いがあると思うんですが、その当番が九條先輩と三條先輩だと調べました」

「そういえば今週末にゴミ拾い活動があったな」

「その時に、どうにか三條先輩と河辺先輩を入れ替えて九條先輩と河辺先輩が二人きりになるようにします。その後、これを」


 橋田はポケットから小瓶を出した。そこには三匹ほどのテントウ虫のような昆虫が入っていた。


「これは?」

「妖獣をちょっと強くする虫です。この虫を食べた妖獣は2ランクレベルが上がります。それを河辺先輩が倒して、いいところを見せるんです」


 そこで河辺は眉を潜める。


「この虫、どうしたんですか?」


 普通の女子学生がこんな物を持っていることが怪しい。


「機械に強い河辺先輩なら分かりますよね? 今裏ネット販売されていることを」


 そう言われて河辺は何も言えなくなる。機械には強いが世間には疎いのだ。自分の興味があることしかネットでは調べない。ましてやニュースなんかはまったく見ないのだ。違法裏ネットがあることは知っているが、このような物騒な物が売っていることなんてまったく知らなかった。だがここで知らないというのは自分のプライドが許さない。


「あ、ああ。し、知ってる」

「そこで買ったんです」

「でも2ランク上がると僕ではちょっと倒すのは難しいと……」


 軍事学校に入ったのは妖力の強さではなく、プログラムや情報処理などの方で入ったのだ。だから妖力は少しはあるがそれほど強くはない。自分の力ではランク3までが限度だ。


「大丈夫です。これをつかってもらえば」


 橋田がまた液体が入った小瓶を渡す。


「これを河辺先輩の武器に塗ってください。この液体は、この虫を食べてランクが上がった妖獣を弱体化するものです。河辺先輩ならこのことも知ってますよね?」

「あ、ああ」


 ――そんな便利なものがあるのか! 知らなかった!


「で、でも、これって学校に見つかったら……」

「大丈夫です。効き目は30分ほどと短いものですから、後で調べてもまったく見つかりません」

「そうなんだ」


 そんな物が世の中には売っているんだと河辺は感心する。そこで河辺はソラが浮かぶ。なんやかんや今までソラに邪魔をされてきたのだ。絶対にサクラと自分を二人きりにすることはあり得ないのだ。


「妖獣よりも三條の方が問題だ。絶対にあいつはサクラさんと離れないと思う」

「それは大丈夫。私も手伝いますから」


 そして実行当日、橋田がソラのクラスメイトの女子生徒に頼み職員室に行かせ、水道管を破裂させ足止めしたのだった。



      ◇



 河辺はいつ小瓶を使おうかタイミングを狙っていた。そしてナギ達が来た頃、小さい蛙の妖獣が河辺の前に3匹現れた。サクラは気付いていない。今だとサクラにばれないように小瓶の蓋を開け、妖獣の前に虫を放ったのだ。妖獣達は餌だと虫を追いかけて奥へと消えていった。

 そして、これから起こることを反復する。


 ――これを食べた妖獣が少し強くなる。それを見たサクラさんが怖がり、僕にしがみつく。怯えるサクラさんを抱き寄せて、僕が颯爽と助けるという寸法だ。そうすればサクラさんは僕に好意を持ってくれるはず!


 サクラの方を見る。サクラはまったく気付いてない。


 ――後は10分待てばいいんだよな。


 そしてまた河辺は何事もなかったようにゴミ拾いをし始めた。そして10分後。


 ――よし! そろそろ妖獣があの虫を食べたころだな。


「サクラさん、今小さい幼獣がそこに。あれも倒そう」


 河辺はサクラを奥へと促し奥へと向かった。




 その頃、ナギとソラは隠れている4人を探ることを優先していた。


「ソラ、どうだ?」

「やはりあいつらガーゼラ国の工作員だね」

「やはりそうか。姿形は俺達と一緒だが妖力が違うからな」


 そこでソラは目を見開きナギを見る。


「そんなとこまで分かるのか?」

「ああ」

「便利だね、君の魔法」

「!」


 ナギは驚きソラを凝視する。ソラにはまだ魔法ということを言っていないのだ。


「やはり知ってたか」


 心を読めることを知った時からそうではないかと思っていた。


「いつから知ってた?」

「君が洗礼受けた時からだね」


 笑顔で応えるソラにナギは「はあ」と額に手をあて天を仰いだ。


「最初からかよ」






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