第64話 河辺の陰謀②



 河辺がサクラと合流した頃、ソラは職員室で作業をしていた。


「悪いなー三條。手伝ってもらって」

「いえ」


 教室で同じクラスの女子生徒に職員室に来るように先生が呼んでいると言われて来てみれば、誰も呼んでおらず、タイミングよく職員室の天井の水道の配管が壊れて水浸しになったのだ。案の定拭くのを手伝わされるはめになり、今に至るわけだが――。


 ――これは、はめられたな。


 すると廊下を知った人物が通り過ぎるのが見えた。


「!」


 ソラは急いでその人物を追いかけ廊下に出ると、その人物の腕を掴む。


「ナギ!」

「ソ、ソラ?」


 驚き振り向くナギにソラは笑う。


「いいところにきた」

「は?」


 怪訝な顔を向けるナギの腕をひっぱり職員室の入り口に来ると中を覗くように言う。


「水浸しだな」

「うん。配管が壊れてあの状態だ。だからナギ、直して」

「は?」


 ナギは眉根を寄せてソラを見れば、満面の笑みを浮かべているソラがいた。そして言う。


なら出来るでしょ?」

「!」


 ナギは目を見開く。


 ――なら出来るだと? どういう意味だ?


 ソラの言い方からして、2通り読み取れる。1つは成長した自分に対してと、もう1つはナギの正体を知っていてだ。


 ――どちらだ? いや、ソラが俺の正体を知っているはずがない。だがミカゲのようなこともある。


 どちらだと考えていると、ソラが言った。


「後者だよ」

「!」


 ――後者だと? それは俺の正体を知っているということか? いや、俺は今話していない。


 そこでナギはハッとする。


 ――確か三條家は意識を操る能力だったか。だとすると、心も読み取ることも出来るということか? 


 そう思った瞬間、ソラが笑顔を見せて言う。


「正解」

「!」

「俺の能力は、心を読むことが出来る」


 ナギは目を瞠る。

 ソラは驚いているナギの肩を抱き職員室へと視線を向ける。


「ナギ、説明は後だ。急いでるから早くして。サクラが危ない」

「は?」

「だから早く! 意識操作は俺がするから」

「ちっ!」


 仕方なく、ナギは魔法で配管を元通りにし、水浸しになった所もすべて元通りに直す。


「へえ。さすがだね。じゃあ次は俺だね」


 ソラの目が銀色に光る。すると一瞬職員室にいた者が動きを止めた。その間ソラは何かブツブツ唱えていた。それをナギは横目で見ながら思う。


 ――意識を乗っ取り記憶を書き換えているのか。それも職員室にいる10人全員を一度にか?


 だがとナギは眉を潜める。


 ――ましてや軍人上がりの教師ばかりだ。そのような者も1度に乗っ取れるのか?


 すると全員が動き始めた。終わったようだ。


「これは俺より妖力が弱い人しか出来ない能力なんだ。だから西園寺先生と君には効かない。まあ西園寺先生には元々効かないけどね」


 皇族だからだろう。ということはソラも知っているということだ。それよりも、


「俺の心を読んだな」

「しょうがないだろ。力を使っている時は対象範囲は嫌でも入ってくるんだよ」


 ソラは少し不機嫌に言う。となると、意識を乗っ取るのと心を読むのはセットということだ。


「さあ。行くよ。ナギ」


 ソラが踵を返し歩き出す。それにナギも続く。


「どこ行くんだ? そういえばサクラが危ないとか言ってたな」

「ああ。君も気付いているだろ? ストーカー」


 ナギもそこですぐに河辺を浮かべる。だがサクラに危険が及ぶようなやつではない。


「あいつ自身は雑魚で危険じゃない」

「お前、また俺の心読んだな」


 ナギは抗議の目を見せムッとする。


「じゃあ、危険じゃないなら別に放っておけばいいんじゃないのか?」

「それじゃあダメなんだよ」

「じゃあお前が見とけ。俺は帰る」


 ナギは踵を返して背を向けたところをソラが腕を引っ張り引き留める。


「ナギ! 何言ってるんだ。君も来るんだよ」


 腕を強く引っぱられ転びそうになるのを、どうにか踏ん張る。


「危ないだろ。転ぶところだったじゃないか」

「はいはい。悪かったよ。いいから一緒に来る!」


 ソラは気が乗らないナギの腕を逃げないようにがっちり掴み強引に引っ張って行く。仕方なくナギは諦めソラに付いて行くのだった。



 そして、ソラとナギはサクラ達がいる裏山へと来る。


「今日は俺とサクラでこの裏山のゴミ拾いの当番なんだ」

「? なんでソラはここにいるんだ?」


 するとソラはムッとする。


「河辺にはめられたんだよ。サクラと2人きりになりたかったんだろうね」


 ナギは最近の河辺の行動を思い出す。


「そういうことか」

「そういうこと。じゃあまず2人を探そう。ゴミ拾いだから、そう奥には行ってないと思うよ」


 裏山のゴミ拾いは、基本学校に面している場所で、担当場所は決まっているため、見つけるのには時間はかからなかった。だがサクラ達の側に行かずに隠れて様子を見る。


「で、どうするんだ? 見た感じサクラが危険には見えないが?」

「今はね。それに君も気付いているだろ? 今俺達が気にしなくてはならないのは河辺じゃないということも」

「ああ。4人いるな」


 サクラ達とナギ達の間あたりの木の上や草むらに隠れている4人の気配を感じる。すぐナギは魔法で4人を探る。


「男3人と女1人か」

「どこのやつらか分かる?」

「いや、そこまではわからん。まあ気配を消して隠れているということは、まあ素人ではないな」

「そうだろうね。工作員という筋が強そうだね」

「ああ」

「じゃあまずこっちから処理した方がよさそうだね」

「そうだな」




 ナギ達が到着する少し前、サクラと河辺は指定されたゴミ拾い場所へと来ると、すぐに取りかかった。

 2人はゴミ拾いをしながら小動物ほどの小さな妖獣なども駆除していく。規定で学校の周りに出没した妖獣も駆除することになっていたためだ。ゴミ拾いと言っても小さな妖獣駆除の割合の方が多いのが現実だ。

 小さな妖獣は、人間には命を脅かす存在ではないが、畑などを荒したりするため毎年けっこうな件数の被害報告が上がっていた。それを事前に防ぐためでもあった。


「ここの妖獣は小さいから私達でも大丈夫だね」


 サクラは短剣で、河辺はサーベルで小さな妖獣を倒していく。

 そして河辺はサクラが背を向けているのを見計らい、ポケットから小瓶を出すと、蓋を取り中に入っていた小さな虫の妖獣を放つ。そして後に起こる出来事を反復する。


 ――これを食べた妖獣が少し強くなる。それを見たサクラさんが怖がり、僕にしがみつく。怯えるサクラさんを抱き寄せ僕が颯爽と助けるという寸法だ。そうすればサクラさんは僕に好意を持ってくれるはず!


 河辺は空になった小瓶を眺めながら満面の笑みを浮かべた。



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