第57話 妖魔捕獲授業②



「もう、この草どうにかならないのかなー」


 サクラの背ほどもある草むらを進んでいくため、前を歩くソラを見失いそうになる。10分ほど歩いただろうか、少し開けた場所に出た。


「やっと視界が開けたー」


 ほっとした時だ。今まで黙っていたソラが歩きながら話かけてきた。


「サクラ」

「ん?」

「この前『ルプラ』の覚醒種に学校で襲われただろ? あれから大丈夫だった?」

「うん。ヤマト様が助けてくれたから」

「その後のことだよ」

「え?」


 サクラは立ち止まる。『ルプラ』の覚醒種の件は、ソラもその場にいたので知っていることだ。だがその後のサクラの家に『ルプラ』の覚醒種が現れたことは誰も知らない。だからソラも知るはずがない。じゃあ『その後』とは何のことを言っているのか?


「その後って?」

「その後何かあった?」

「なんで?」


 つい立ち止まり真顔で聞き直した時点で何かあったと言っているようなものだ。ソラも立ち止まり後ろを振り返る。


「サクラはすぐ顔に出るね」

「え?」

「遠回しに言うのはやめる。『ルプラ』の覚醒種に家で襲われたでしょ?」


 やはりそのことかとサクラは生唾を飲む。十家門ならば調べれば分かるのだろうか? だがソラは知っていた。ならば隠す意味がないと正直に応える。


「うん。でもナギが倒してくれたから大丈夫だったよ」

「そっか。ならよかった」


 そこである疑問が過る。


「やっぱりそれって十家門の人はみんな知ってるの?」

「いや。俺しか知らないと思う」

「そっか……」


 少し安心する。テツジ達は『ルプラ』の覚醒種が家にまた現れたことをなぜか隠したがった。あまり大事おおごとにしたくないからだと言っていたが、本当は十家門の者に知られるのを嫌がったのではないかとサクラは思っていた。だからソラが知っているということは、他の十家門の人達も知っているのだと焦ったのだが、その心配はなさそうだ。

 でもなぜソラは知ったのか? 訪ねようとしたらソラが先に言った。


「気になったから調べた」

「そうなんだ……」


 するとソラは、サクラの額に手を置く。


「ソラ?」


 ソラの行動が分からず眉根を寄せる。するとソラが真顔で言う。


「外れてる」

「え? なにが?」

「2番目のボタン」


 ――2番目のボタン?


 意味不明な言葉に眉間の皺を深くし、ソラの目線の先――胸元を見て目を瞠る。上着の第二ボタンがぱかっと外れていたのだ。


「!」


 ばっと顔を真っ赤にし急いで手で押さえて隠す。

 いつも第一ボタンは外している。さらに第二ボタンも外れていたということは、胸の辺りが丸見えだったということになる。


「いつから……」


 スズナ達といた時はちゃんとボタンはしていた。ならば、この草むらをかき分けている時にボタンが外れたことになる。


「見た?」

「うん。水色のブラ」

「そこまで言わなくていいから!」


 顔を茹で蛸にして叫びながら、聞いた自分が悪かったと反省する。ソラはこういうところが配慮にかけている。それにしてもまだ額におかれた手をどけてくれない。なんなのかとムッとして聞こうとしたら、ソラが先に言う。


「気をつけて」

「分かってるわよ! 今度からちゃんと閉めるわよ!」


 恥ずかしさMAX状態で急いでボタンを閉める。


「違う」


 何が違うのかとソラを見れば、こちらを見ず周りに注意している。だがまだ額に置かれた手はそのままだ。置いていること忘れていませんかと心の中で呟く。


「囲まれた」

「え? 何に?」

「決まってるだろ。『毒蝶』にだよ」

「!」


 周りを見るが、背丈ほどの草が邪魔で何も見えない。


「どこ? ぜんぜんわからない」

「妖力で見ないとだめだ」

「あ、そうか」

「やはり外れていたからか」

「ボタンは関係ないでしょ!」


 だがそれに対してソラは何も言わない。そしてやっと額に置かれた手をどけると、サクラの肩を抱き自分に引き寄せる。


「ちょっと!」

「動かないで」


 どういうことだとソラを見あげるが、ソラは真剣な顔で周りを警戒している。釣られて見れば、今まで聞こえなかった、バザバザというすごい数の音がしていた。


「なに、この音……」

「『毒蝶』の羽の音だ」

「数が多過ぎない?」


 2、3匹という数ではない。ソラは歯噛みする。


 ――思ったより多い。数が少なければ問題ないけど、これはちょっとよくないな。


「しょうがない」


 そう呟いたソラは、自分とサクラの周りにシールドのようなものを張る。その直後周りの草が一瞬にして青い炎が上がり燃え上がった。一緒に『毒蝶』も燃える。


「!」


 サクラは驚き体をビクッとさせる。するとサクラの肩を抱くソラの手に力が入った。


「驚かなくていいよ。ちょっと熱いけどこの中にいれば大丈夫だから」


 ――これがソラの力。


 青い炎は妖力だ。強い妖力は青いと聞いた。ソラの妖力は相当強いのだろう。それよりもその色に惹かれる。


「綺麗……」


 つい漏らしてしまった言葉にソラは目を見開き、そして微笑む。


「君は相変わらずだね。俺の炎を怖がらない」

「え? なんで? 怖くないでしょ?」


 ソラはそれには応えずただ笑顔なだけだ。ふと思う。


「ソラ、私、ソラの青い炎見るの初めてじゃないよね?」

「なんで?」

「見たことあるなって思ったから」


 そこで考える。


「あ! 思い出した! 小学校の頃に一度ソラのこの炎見たことある!」

「そうだね。あの時も同じこと言ってた」

「そうなんだ」

「でも2回目じゃないけどね」

「え? なんか言った?」

「いや、何も」


 ソラはサクラを離す。

 当たりを見れば、サクラ達を囲むように3メートルほどの範囲の草がきれいに焼かれてなくなっていた。


「視界が開けて見やすくなったわね……」


 サクラは皮肉まじりに言う。これではもう『毒蝶』は全滅し捕獲できないのではないのかと一抹の不安が過る。ソラを見れば、罰が悪そうに目線を逸らした。本人も自覚はあるようだ。嘆息し辺りをもう一度見渡す。すると奥の方で動く物体を見つけた。


「いた!」


 サクラは勢いよく走り出す。驚いたのはソラだ。


「あっ! サクラ!」

「大丈夫よ。『毒蝶』ぐらいなら私でも捕獲出来るわ」


 そう言ってサクラは妖力で『毒蝶』を拘束する。


「よし!」


 捕まえた『毒蝶』を籠に入れた直後、腕にチクっと痛みが走った。


「いた!」


 見れば、『毒蝶』がサクラの腕に止まって口の針をサクラの腕に刺していた。










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