第55話 チーム『ウエスト』会議にて



 ナギはミカゲとヤマト達と別れた後、『ウエスト』の部屋に行った。

 学校が終わると『ウエスト』の部屋に行くのが最近のコースだ。理由は2ヶ月後に行われる軍の合同練習の打ち合わせのためだ。


 学校と軍との合同練習は半年に1回行われる。毎年軍と学生でチームを組み練習兼訓練をするのだ。学生のチームの振り分けは、入学した時に決められる3学年合同のチームだ。ナギ達十家門の者は、十家門のみでチームを組まされる。その1つが、ナギ達のチーム『ウエスト』だ。


「今年はナギ君がいるからどうなるかしら?」


 五條エリカが言う。


「まあ去年よりもは強いんじゃないのか?」


 そう応えたのは六條コウメイだ。


「なんせ一條家の酷評高い一人息子だからな」

「コウメイ君! そういうこと言わない!」


 エリカが注意する。


「別にいいじゃないか。実際はぜんぜん違うんだ」

「そうだけど……」

「でもどうしてこうも違う噂がたったのかしら?」


 エリカが首を傾げる。


「ずっと引きこもりだったからかもな。それに小学校までは目立たないように力を抑えていたし――」


 ナギはそれらしきことを言う。それを隣りで聞いていたサクラは複雑な気分だ。本当は別人で、噂のユウリはたぶん今もヘタレのままだろうからと思う。


 ――ユウリ、元気かな。


 ずっと頭の片隅にあることだ。ナギに言っても意味がないことは分かっているので口にはしない。でもやはり気になる。


 ――やっぱり向こうの世界でも引きこもりしてるのかな……。


 サクラは眉根を寄せる。考えれば考えるほど、悪い方向に考えてしまう。


 ――もしかしたら食べ物も食べずに痩せ細っているかも。いや、薬とか大量に飲んじゃって自殺とか考えてないよね?


「……ラ」


 ――いや。ユウリは自殺するほどの勇気は無いはず。


「……クラ」


 ――やっぱり部屋でずっと泣いてるんじゃ!


「サクラ!」


 そこでナギに肩を叩かれ、呼ばれていることに気付く。


「あ、ご、ごめん。なに?」

「エリカが呼んでる」


 ――え? エリカ? 呼び捨て?


 サクラは眉を潜めナギを見る。


「なんでエリカさんを呼び捨てなのよ」

「癖で付けずに呼んでたら、エリカが付けなくていいと」

「は? 駄目に決まってるでしょ!」

「サクラさん、いいのよ。私がいいって言ったの」


 エリカは笑いながら言うと、ナギは「ほれみろ」とどうだと勝ち誇った顔をサクラに向ける。それが余計に腹立たしい。


「ほんと、ナギって配慮にかけるわね」


 ため息をつきながら肩肘を机に立て文句を言えば、


「そうか?」


 と、まったく悪気のない返事が返ってくる。どうにかならないのかとサクラはもう一度大きなため息をつく。するとコウメイが口角をあげ揶揄してきた。


「まあまあ、夫婦喧嘩は後で二人でやってくれ」

「夫婦じゃありません。許嫁です」


 サクラはムッとして真剣に反論すると、コウメイは肩をすくめ笑う。


「同じようなもんだろう?」

「……」


 確かにそうかもしれないが正式に夫婦じゃないのだ。その辺はちゃんとしてほしいとサクラは内心思う。


「サクラさん、何か心配だった?」

「え?」

「なにか考え事してたから。去年あんなことあったから嫌なのは分かるけど……」


 エリカはサクラが去年のことで考え事をしていると思ったようだ。


「あ、ち、違います。まったく別のことを考えてました。それに去年のことは覚えてないので嫌かと言われても……」


 サクラは気まずそうに笑う。


「そう言えば、九條は気を失ってたんだったよな?」


 コウメイが訊ねる。


「はい。まったく覚えがなくて」

「まったく?」


 ナギが聞く。


「うん」

「だが気を失う前は覚えてるんじゃないのか?」

「それが捕まってからの記憶が曖昧なんだよね」


 それに対してソラが補足する。


「サクラはすぐ気を失ってたよ。あまりの恐怖で記憶が思い出さないようにしてるんじゃないのかな」

「そうなのかなー」


 サクラは苦笑しながら答える。


「今年は何事もないといいけどな」


 コウメイが眉を潜めながら言う。


「それは無理じゃないかな」


 ソラは言いながら手に持った資料を机の上に置き見せる。


「資料によると、俺らと組む部隊は去年と同じですね」

「え?」


 みな資料を覗き込む。


「ほんとだわ」

「気付かなかった」


 するとコウメイは眉を潜めながら怒り口調で叫ぶ。


「なんでまた同じ部隊なんだ? 去年あんなことがあったら違う部隊にするのが普通だろ! 軍のやつら、何考えてるんだよ!」


 するとエリカが言いにくそうに言う。


「実は、言ってないことがあったんだけど……」


 なんだとみなエリカを見る。


「去年謝罪があったじゃない?」

「ああ。紙切れ一枚の謝罪だったな」


 コウメイがムッとしながら応える。まだ怒りが収まらないようだ。


「ええ。だから私、学園長に抗議しに行ったのよ。生徒2人が死にそうになってるのに紙切れ一枚はどうなのかって。こちらに来てソラ君とサクラさんに謝るのが筋じゃないかって。でも私の意見は受け入れてもらえなかったわ。学園長曰く、抗議しても何も変わらないだろうって。だから諦めろって」

「は? なんだそれ!」


 コウメイが納得いかないと体を前のめりにして声を張り上げる。だが、ナギはそれは有りだと言う。


「まあそうなるだろうな」

「どういうことだ? ナギ」

「俺らはまだ学生だ。そして一緒にやった部隊もまだ日が浅いメンバーだった。だからその場所に強い妖獣がいたのを知らなくて、学生2人が勝手な行動をしたと上に報告していれば、あちらにも非はない」


 すると皆怪訝な顔を向ける。


「ナギ、何を言ってる? それは違うぞ。あれはあいつらがソラとサクラをわざと組ませ、レベル7の強い妖獣がいる場所へと二人で向かわせた挙げ句、あいつらは助けなかったんだ」


 コウメイが正しく説明する。だがナギは驚かない。


「実際はそうかもしれないが、軍のやつらが俺が言ったように嘘の報告をしていたら?」

「!」


 そこでナギの言いたいことが分かり、皆黙る。


「気になったから調べてみた。そうしたら報告されていた内容は、ソラとサクラは軍の目を盗み、二人でレベル7の妖獣がいる場所に勝手に入って襲われた。だから対応が遅れたとなっていた」

「!」


 皆驚き目を見開く。


「ぜんぜん違うじゃねえか!」

「そんな! 私とソラがそんなことするわけないじゃない!」


 コウメイとサクラは声を荒げる。


「でも現実はそうだ。十家門の子供をわざとそうさせたとなれば、その部隊全員の家族全員が処罰を受ける。軍にいる者は大体がその親、兄弟、子供がいる。家族全員処罰されたら軍としても痛手だ。なら十家門を悪くすれば、上は処罰出来ない。それに内容が学生に降りてくることもない。なら一番手っ取り早いやり方だな」


 ナギの説明に皆黙る。


「確かにそうね。それならまた同じ部隊になるのは考えられるわ。」


 エリカが歯噛みしながら言う。


「今更去年のことをぶり返しても仕方ないわ。今年は何事もないことを祈っているわ」 

「まあそれはゼロに等しいと思うけどな」


 コウメイが皮肉たっぷりに言い、その場が終わった。






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