第51話 父親には勝てない
「父さん、1つ質問が」
「なんだ?」
「きのう朝三條ツカサ殿が来た理由は分かりますか?」
するとユウケイは少し考えるように腕組みをして下を向き応える。
「私も考えていたんだが、理由が思い当たらないんだ。ただ、」
「?」
「三條家は特殊で、絶対に皇帝を裏切れない家系だ。だから三條家に関しては気にしなくていい」
「どういうことですか? 教えてもらえませんか?」
「お前も知っているだろう。『白と黒の
それは昔、
「はい。三條家の先祖の物語でしたよね?」
「そうだ。あの惨事が原因で、三條家は皇帝に永遠の忠誠の誓いを立て、許しをもらい今に至る。だが罰として、どんなに妖力が強い者が現れようとも永久に第3位の位から上には上がれないことになっている」
「今もですか?」
「ああ、そうだ」
相当昔の話だ。それなのに今もその影響が三條家にあるというのは少しかわいそうではないかとナギは同情する。
「だから皇帝を裏切ることは絶対にない。だとすれば、国を裏切ることもないということだ」
「じゃあなぜサクラを訪ねて来たのでしょうか?」
「三條ツカサは調査機関の人間だ。まあ、私とテツジがこの前のルプラの襲撃をガス爆発と嘘の報告をしたのを疑っているのかもしれん。それで、サクラちゃんにも確認のために聞きに来たのかもな。フジ君とアヤメちゃんにも調査員が聞きに来たと言っていたからな」
そう言って罰が悪そうにユウケイは笑う。一応当の本人達も悪さをしたことは自覚はしているようだ。
「だとしても、アポなしでいきなり家に来るのは許しがたい。きのうのことはツカサ本人には苦言を言っておいた。だからきのうのようにやってくることはないだろう」
「そうですか」
「だが、まだ油断はするな。私は当分は帰ってこれない。後はお前に任す」
「わかりました」
その後ユウケイは軍から連絡がありすぐ帰ることになった。やはり忙しいようだ。
「忙しそうですね」
「まあな。色々な最終決断は私がしなくてはならないからな」
さも嫌そうにユウケイは応える。
「お前と話せてよかった。1つ私の荷も下りた」
「……」
――それは引き籠もりのヘタレ息子問題が解決したということではないよな。
今までのユウケイとの会話から、ユウケイはナギが息子ではないと気付いているのは確かだ。だがそのことには一切触れない。
なぜだとナギは眉を潜める。
なぜか罪悪感がナギの心を覆い尽くしていく。事情はともかく、大事な息子を父親から切り離したのは事実なのだ。
いきなり黙り下を向くナギにユウケイが声をかける。
「ナギ、少し2人で庭を歩こうか」
2人は外に出て庭へと行くと、ユウケイが前を歩き、ナギが1歩後ろを付いていく。
「父さん……。もう一つ大事な話があります」
するとユウケイは歩みを止め、後ろを振り向きナギを見る。
「実は、俺は――」
するとユウケイは、それ以上言うなと言うようにナギの口に人差し指を当てる。その行動にナギは驚き、言うのをやめ訝しげな顔をユウケイに向ける。
「お前が今何を言おうとしているのか分からないが、それで十分だ」
「?」
「今日お前と話して分かったからな」
「え?」
「お前が私に言った言葉すべてが嘘偽りのない心からの言葉だった。そうじゃないか?」
「はい。その通りです」
これは嘘ではないと断言出来る。そんなナギにユウケイは笑みを浮かべる。
「私には人の嘘偽りを見破る力がある」
「!」
「皇族の血が濃いからだな。皇族の者は強弱はあるが、皆この力を持っている。その力が私は強い。まあ本能で感じると言ったほうがいいかもしれないな」
ナギは目を見開く。ミカゲもそうだった。すぐにばれたことを思い出す。ならば、最初からばれていたということになる。
「お前がどこの誰であろうと、私の記憶はナギ、お前だ。それは事実だ」
「……」
「そして、今お前が言おうとしたことが、お前が悪いやつではないという証拠でもある。若様もお前を認めているしな」
「!」
「それに不思議なんだが、なぜか私は昔のお前よりも今のお前の方が息子だというのがしっくりきているんだよ」
「え?」
それにはナギは驚く。そんな魔法をかけた覚えがない。だからまずそれはナギの魔法とは無関係ということだ。
「だから、最初お前を見入ってしまった」
疑って見ていたわけではなかったようだ。
「どんな事情があろうと、今も昔もお前が私の息子であることに変わりはない」
「父さん……」
「だからこの話は終わりだ。ナギ」
そう言ってユウケイは笑顔を見せる。なぜか熱いものがナギの胸を覆い尽くす。
「ありがとう。父さん」
ユウケイは笑みを深めて頷いた。そして中庭を見渡し言う。
「屋敷の周りに結界を張ったのはお前か?」
「? はい」
「なかなかだな。だが甘いな」
「え?」
するとユウケイ妖力が莫大に膨れ上がった。
「!」
――これが妖力最強の一條家の当主。1位だけあるな。桁違いだな。さすが皇族の血を持っているだけある。
ユウケイの母親は、現皇帝の父の姉とユウリの記憶から得た情報だ。その血をユウケイだけが色濃く受け継いでいるとも聞いている。そこであることが気になった。
「これで大丈夫だろう」
ユウケイは結界を張り直したようだ。
「父さんは、従魔を持ってますか?」
皇族の強者はみな持っているとヤマトは言っていた。ならば皇族の血を受け継ぐ父親も従魔を持っていても不思議ではない。だが返ってきた答えはナギの思いとは正反対の答えだった。
「いや」
「でも……」
「皇族の従魔は皇族の男性にだけ受け継がれる。私の母は女性だから受け継がない」
そのへんはしっかり皇族と一般人との境界線があるのだと納得する。
「では、父は妖獣に意識を乗っ取られるのですか?」
「いや。そこは皇族の血が入っているからな。私の中には入れん」
そうかと少しは安心する。
「だが女性皇族の場合は第一親等までだ。だからお前達には受け継いでいない」
血が薄くなるからだろうことは想像がついた。
「だからお前は気をつけなさい」
「はい」
「今、何をしたか分かるか?」
ユウケイが訊く。
「地下ですか?」
「そうだ。お前のは地上からの侵入に特化した結界になっていた。だが今侵入に重視しなくてはならないのは、地下だ」
「!」
「たぶん姿を消して地下から侵入したのだろう」
――だからあの時すぐに感知できなかったのか。
苦渋の表情を見せるナギにユウケイは微笑む。
「力が強ければいいわけじゃない。力をどう使うかだ。日々勉強だな。頑張りたまえ」
ナギの肩へと手を置き、ポンポンと叩く。そしてユウケイはその場を去って行った。
「さすがだな」
ナギは今まで攻撃をする方に特化していた。だから防御は自分だけでよかった。だがユウケイは守る者があったため防御に特化していたのだ。どうやって家族を、ユウリを守るかを常に考えているのだろう。
そこでナギをかばって命を落とした父親を思い出す。そしてふっと笑う。
「守る者がいる者には勝てないわ」
ナギの父親もユウリの父親も家族を守ることを一番に思っているのだと実感する。
そして思う。
いつか両方の父親を超えることができるのだろうかと。
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