第38話 国の機関の闇①
その後、倒れている警護の者達は病院に運ばれ、原因をガス爆発だとし、事件性はないとし軍の介入を拒んだ。軍は妖魔ではないかと疑っていたが、テツジは否定し突っぱねた。軍はこれ以上の追求は困難だと判断し大人しく引き下がった。
救護や後処理の対応にテツジとフジ、アヤメが対応していた。その間ナギとサクラは比較的被害がなかった1階の応接室で待機した。
待っている間、サクラは疲れからかソファーで寝てしまっていたため、ナギは応接室を抜け出し中庭へ行き、ルプラの最期の場所へと行く。
すべてを焼き尽くしているため何も残っていないただ焦げた場所に手を翳す。ナギの瞳孔に魔法陣が浮かび上がる。そしてルプラの微かに残っている妖力を読み取る。戦闘中に常にしていたことだ。人によって魔法の属性や性質がそれぞれの特徴があり把握するためだ。その場に本人がいなくても、その場にある残存魔力でだいたいの特定が分かる。妖力も魔力と同じのため容易く読み取れた。
――やはり少し普通の妖獣とは違うな。
ナギはもう一カ所、最後にサクラを狙った者がいた場所にも同じことをする。そして笑みを浮かべる。
「ふっ。やはりな」
――どれだけ気配と姿を消しても妖力だけは消せていない。
そして確信する。
――この感じ。天陽国の者じゃないな。ガーゼラ国の者か。
結局、テツジ達がナギ達の元に来たのは、朝日も昇った朝方だった。
「遅くなってすまない。ナギ君」
「大丈夫です。俺も少し寝てましたから」
待っている間、夜中だったこともありナギもソファーで寝ていたのだ。今はもうサクラも起きている。
「それにしてもけっこうやられましたね」
「ああ。これは立て直さないとだめだろうね」
確かに直すよりも立て直したほうが早そうだ。
「だからその間、悪いがナギ君、サクラを君の家で預かってくれないか」
「お、お父さん?」
「何を言い出すのよ!」
サクラが驚き声を上げ、アヤメも同じく抗議の声を上げる。
「別にナギの家にサクラを行かせなくてもいいでしょ! どこか他に場所を借りてそこに住めば――」
「アヤメ」
テツジはアヤメの言葉を遮るように制する。
「ルプラはナギ君が倒したからもう大丈夫だ。だがまだ用心しなくてはならない」
「――」
アヤメはその意味が分かりギッと歯噛みする。ナギもその意味は分かっている。
――逃がしたやつはこの国に忍びこんでいるガーゼラ国の者だ。今頃サクラ強奪失敗は報告がいっているだろう。ならばまた襲ってくる可能性はある。もしこの国に入り込んでいるガーゼラ国の者の内通者であるならば、次は正当な経路でサクラを拘束しようとしてくるかもしれない。そうなると阻止出来るのはただ1人。俺の父親ユウケイだけだ。
だからテツジはサクラをナギの家に匿わせようとしているのだ。
――正しい判断だな。
こうなった時の対処は、ナギの父親とサクラの父親のテツジの間で事前に話し合われていたのだろうことは想像がついた。
「ということでサクラ、今日から家が直るまでナギ君の家にお世話になりなさい。ナギ君、サクラのことよろしくね」
「わかりました」
「ちょ、ちょっとお父さん? それ本気なの?」
「ああ。この状態ては家に住めない。私もこれから忙しくなるから家にはあまり帰れない。フジとアヤメも寮生活だ。家を借りるにしても警備が不十分だしな。それならばユウケイの家の方がだんぜん安全だ」
確かに住める状態ではないのは分かるが、勝手に決めていいのかとサクラは不安になる。だがそんなサクラの気持ちを察してかテツジが付け加える。
「心配せんでもいい。ユウケイにはさっきお父さんから話してあり了承済みだ」
「そうなの?」
「ああ。だからサクラ、今すぐ着替えなど必要な物の用意してきなさい」
「あ、は、はい」
結局言われるままサクラは立ち上がると応接間を出て行った。
「じゃあ、今のうちに話そうか」
テツジはサクラがいなくなったタイミングで話を切り出す。
「ナギ君、最後に姿が見えなかったやつをどう見るかね?」
「俺の見立てでは、ガーゼラ国の者だと見ています」
「改良型の妖獣ではないと?」
「はい。感じからして、あれは人間です。それもかなり強い者かと。そして天陽国の行政機関イーサか軍事機関ザルバの中にいるガーゼラ国に加担している者と繋がりがある者だと」
そこでアヤメが声を上げる。
「ちょっと! ナギ! イーサかザルバに裏切り者がいるなんて、そんな確証もないことを言うもんじゃないわよ!」
「別に憶測で言っているわけじゃないです」
「え?」
アヤメは眉を潜める。
「これはヤマト様もミカゲも認めている事実です。そして俺も少し調べての見解です」
サクラの一件で、ナギはこの国の機関について調べた。ユウリがまったく知らなかったからだ。
まずこの国は、行政機関イーサと軍事機関ザルバの2大勢力で成り立っているということを知った。そしてこの2つの機関はあまり仲がよくないということも。
軍事機関イーサは一條家、行政機関イーサは二條家がトップを務めていたため、余計に仲が悪いというのもあるようだ。
国の行政機関イーサと軍事機関ザルバの場所は、都心の中心にある。
広大な場所にイーサとザルバは東西に分かれ、その周りを強力な電流が流れる鉄格子が囲っていた。
都心の真ん中にあるもう一つの国のようだとナギの最初の印象だ。
ナギは魔法で作ったテントウ虫ほどの小さな
イーサとザルバの施設の中の怪しい者をくまなく調べたが、妖力からも全員天陽国の者で、ガーゼラ国の者が変装している事実はまったくなかった。そうなると、やはり天陽国の者がガーゼラ国と手を結び、情報をガーゼラ国へと流しているということが濃厚になった。だが人物の特定まではいかなかった。やはり長年犯人が見つからないということは、相当警戒しているということだろう。
結局それ以上の情報は得ることはなかったため、調べる対象を変えた。
それは特級クラスの稀人が監禁されている場所だ。そこは軍の敷地内の施設の地下五階の場所に位置していた。
「そこは俺が侵入しました」
「ナギ自らか? どうやって」
フジが驚き訊く。場所は軍の地下だ。そう簡単に侵入出来る場所ではない。
「軍と言っても場所は囚人の収容所に隣接している建物でしたので、出入り口の警備の者と監視カメラに気をつければ瞬間移動でしたら難なく入れました」
ナギの瞬間移動と聞いても皆驚かなかった。サクラの危機に駆けつけた時に見せていたからだ。
そしてナギが見た場所は、初めて見る場所だった。
そこは、地下とは思えないほど広大な場所で、公園や人工青空もあり、マンションのような作りの建物があったのだ。だが外見とは裏腹に、監視カメラがあちらこちらに設置してあり、行動をすべて監視されているようだった。
そしてそこには10人ほどの大人の稀人が暮らしていた。だがみな元気がなく、精神的に限界な者がほとんどだった。
そこまでナギは説明し、テツジ達に質問する。
「ここまで聞いて何か違和感を感じませんか?」
「違和感?」
「はい」
そう言われてもピンとこないテツジ達だ。
「監視カメラがあるのに俺は稀人の数と状態を把握できたことに」
「!」
そこでテツジ達も気付いたようだ。
「それって……」
「監視カメラと侵入センサーが作動していなかった。切られていたんです」
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