第37話 ナギ VS ルプラ
「ナギ……」
ナギはサクラの呼びかけに笑顔を見せる。その笑顔を見てサクラは安堵からか泣きそうになるのをぐっと我慢する。
ナギの姿を見てテツジも声をあげる。
「ナギ君」
アヤメと意識が戻ったフジも痺れが収まってきた体を起こしながらナギを見て目を見開く。
「あれがナギ?」
「本当にナギか?」
ナギは手を腰に当てルプラを見る。
「お前がルプラか」
「また邪魔なやつが出てきたな」
ルプラはそう言い終わる前にナギに雷を落とす。だがナギはシールドを張り自分とサクラ、テツジを守る。それを見たルプラは驚く。
――止めただと!
「ちっ!」
ルプラはその場から消える。刹那、サクラの後ろに現れた。
「!」
あまりの早さにテツジ、アヤメ、フジは驚き見る。
――早い!
だがルプラがサクラに触れる瞬間、サクラはその場から消える。
「!」
どこだと見れば、少し離れたところでナギが脇にサクラを抱えているのを確認する。
――この一瞬であの場所まで移動しただと!
自分と同じ早さにルプラは驚く。まずこの早さに人間がついてこれるはずがないのだ。
「なかなか良いスピードじゃないか。何者だ?」
ルプラに言われナギは少し首を傾げて考える。
「何者? 強いて言えば、サクラの許嫁かな?」
その言葉にサクラは、自分を脇に抱きしめているナギを見上げる。確かにその通りなのだが、面と向かって言われると何か恥ずかしい。それに、そういう意味でルプラが訊いたのではないと思うがと的外れな考えを巡らす。
そんなサクラの視線を感じ、不安に思って見あげたのだと勘違いしたナギはサクラに微笑む。
「不安か? 心配するな。あいつにはお前を渡さない」
「あ、いや、そういう意味で見ていたわけじゃ……」
思ってもいないことを言われ、サクラの方が困惑する。ナギが来てからは不安はまったく感じていないのだ。怖さも今はない。その感情に気づき、サクラ自身が驚く。
なぜだろうと思いながら視線をルプラに向ける。目の前にいるルプラは、妖力が強い父親や兄と姉が手も足も出ないほどの強さなのだ。相当強い妖獣だということはサクラでも分かる。
だがナギが負けるとは思えない。
「ナギ」
「ん?」
サクラはまっすぐナギを見る。
「信じてるから」
その言葉にナギは目を見開く。ストレートで偽りのない目。
それがなぜか気持ちいい。
「ああ」
ナギは笑顔で応えると、右の手の平をルプラに翳す。すると魔法陣が開いた手の平の前に展開されると同時、何発もの光が光った。
「!」
刹那、ルプラの体中を何発もの弾丸が貫いていた。
「があっ!」
ルプラは跪くと何が起こったのかわからずに困惑する。
――今何が起きた?
全く対応できなかった。自分は覚醒して格段と強くなっている。だから人間ごときの攻撃でやられることはないはずなのだ。
「なぜだ!」
自問自答するように叫ぶルプラに、ナギは淡々と言う。
「そんなもの理由は1つ。お前が弱いだけだ」
「ほざけ!」
ルプラは一気にナギへ間合いを詰めると長く伸びた爪を振り下ろす。ナギはサクラを後ろに押しやり結界で守り、自分は剣を一瞬にして出現させ頭の上に翳しルプラの攻撃を防ぐ。そして剣で押し返し、ルプラが後ろに仰け反ったところを横一文字に剣を薙いだ。刹那、ルプラの腹がスパッと切れる。
「ぐが!」
ルプラは後ろに飛び退き間合いをとる。だがナギは間髪いれず間合いを詰め、まだ再生していない傷口に剣をもう一度深く切り裂く。
「がああ!」
ルプラの腹から大量の血が吹き出る。だがナギにはかからない。ナギの周りに膜が張られ、血しぶきがかからないようにしていた。今まで戦ってきた経験上の策だ。
そして右手をルプラに翳すと同時、青い魔法陣が出現する。再生能力がある者には再生させないのが一番だ。
「悪いな。これで終わりだ」
瞬時、ルプラが青い焔に包まれ燃え上がる。ルプラは焰を消そうとしているようだが消えないことに焦る。
「なぜ消えぬ!」
――あがいても無理だ。これはお前の妖力を餌に燃やすたちの悪い魔法だ。お前が妖力を使えば使うほど燃え上がる。
「がああああ!」
ルプラは、巨大な焰に焼かれ跡形もなく燃え尽きた。
その様子を見ていたテツジとフジ、アヤメはナギの圧倒的な強さに声も出ずにただ呆然と立ち尽くす。
その時だ。
「!」
ナギはばっとサクラへ振り向く。そして目を見開き後ろのサクラへと一瞬に移動してサクラの腕を引っ張り抱き寄せ、サクラが今いた場所に剣を薙ぎ払う。すると陽炎のように空間がゆがみ、「くっ!」と小さく唸る声が聞こえたかと思うと、空間は元に戻った。
「逃げたか……」
ナギはギッと睨む。
――なんだ今のは。ルプラとは強さがまったく違う。それに人間?
「ナ、ナギ?」
サクラは意味が分からず不安そうに顔を向ける。そこへテツジがやって来た。
「ナギ君? 今のは?」
一瞬空間が歪んだことに気付いたようだ。
「わかりません。ですが敵かと」
「!」
その言葉に、テツジの後ろを付いてきたフジとアヤメは目を瞠る。気配も何も感じなかったのだ。
「どういうことだ……」
信じられないと声を漏らす。だがナギが剣を振った後に、確かに一瞬空間が歪み人型の姿が浮かび上がり声もした。だとしたらナギの言うことは正しいだろう。
「あんな完璧に気配と姿を隠されたら誰も分からない」
ナギもそれには同感だ。今サクラに結界を張っていたため、結界に触れたことによりナギは気付いたのだ。もし結界を張っていなかったら絶対に気付かなかっただろう。
――それにサクラに張った結界もすり抜けてサクラを捕まえようとした。そんなことが出来るのは密偵か? プロに間違いなさそうだが。
そこでヤマトとの会話で、国の機関にガーゼラ国の内通者がいると言っていたことを思い出す。
――こりゃ確定だな。
するとアヤメがナギの前にやってきた。ナギはなぜか緊張し背筋を伸ばす。ユウリの記憶からだいたい把握していたが、やはりアヤメのナギを見る目はどう見ても敵対心丸出しだった。
――ユウリ、相当嫌われてるなー。
内心ユウリに同情しつつ、ナギはアヤメに笑顔を見せる。
「お久しぶりです。アヤメ姉さん」
だがアヤメはじっとナギを見て眉を潜め何も言わない。どのくらいそうしていただろう。やっと口を開いた言葉が、
「本当にあのナギ?」
だった。そりゃそうだろう。ユウリとナギの記憶はすり替えられているが、せいぜい書き換えられるのは顔だけで行動はそのままだ。どうにも誤魔化しがきかないのだ。
「あ、はい」
ナギもそう言うしかなかった。そして言う。
「そう思うのはしょうがないです。この3年間ミカゲのところでずっと特訓していたんで」
ミカゲがついた嘘に便乗する。
「そう聞いたけど……」
アヤメはやはり納得いかないようだ。どうしたものかと困っていると、フジが助け船を出した。
「アヤメ、ナギが困っている。その辺にしておけ。ミカゲ様のことだ。ずっと隠してたんだろ。あの人ならやりかねない」
「確かにそうね。あの人なら絶対するわ」
アヤメは何か言いたげな顔をしフジの言葉に納得する。その様子を見てナギとサクラは、
――それで納得するのか?
と目を瞬かせる。するとフジがナギへと声をかけた。
「ひさしぶりだね。ナギ。それにしても背も伸びたし見違えるほど強くなったな」
笑顔を見せるフジは昔と変わらず優しい物腰だ。サクラの許嫁ということは納得していないだろうが、それを顔と態度には出さない。顔と態度に出るアヤメとは正反対だ。
「ひさしぶりです。フジ兄さん」
その様子を聞いていたサクラは、ナギが敬語を使っているのに違和感を感じナギの袖を引っ張る。
「どうした?」
顔を向けたナギの腕をぐっとひっぱりナギの耳元でフジとアヤメに聞こえないように訊ねる。
「ねえ。なんで敬語なの?」
ナギもサクラが言いたいことを理解しサクラの耳元で囁く。
「ユウリはずっと敬語を使ってただろ? あまりそこを変えないほうがいいと思ってな」
確かにユウリは2人に敬語を使っていた。だからかと納得する。
そんな2人の行動を見て、テツジと双子は仲がいいと思ったようだ。
「2人とも、けっこう仲よくやってるんだな」
フジが笑顔で言えば、ナギとサクラは「え?」と驚いた顔を向ける。
「まあ、サクラの危機に駆けつけるほどだから、そうなんだろうけど」
ナギとサクラは目を瞬かせる。ナギと言えば、ただサクラにかけた結界が反応したため来たまでだ。守れと言われたからであって、サクラに特別な思いはない。サクラもまだこの前知り合ったばかりで、名前だけの許嫁だ。今も聞かれたくないからくっついて話していただけだ。
そんなことを言えるわけがなく、ただ立ち尽くすしかない。そんな2人が照れていると勘違いしたフジとテツジは苦笑する。
アヤメと言えば、やはり面白くないようでムッとしてナギを睨んでいる。
――こりゃ、前途多難だな……。
ナギは小さくため息をつくのだった。
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