第36話 ルプラの襲撃①



「ルプラ!」


 すると部屋のドアが勢いよく開き、テツジとフジが武器を構えながら入っていた。


「サクラ! アヤメ! 大丈夫か!」


 そしてすぐに2人の前に守るように立つ。


「どういうことだ。結界は張っていたはずだ!」

「警備の者もいたはずだなのに」


 するとルプラが口を開く。


「結界? ああ。あんな弱い結界と警備の者。私には意味がない」

「!」


 窓の外を見ると、そこには警備の者達数名がその場に倒れていた。

 テツジはぐっと歯噛みする。


 ――全員を一瞬で。電撃か。


「フジ! 2人にジャケットを」


 フジは手に持っていたジャケットをアヤメとサクラに渡す。


「2人ともこれを着ろ。あいつは電撃を食らわす。モロに食らえばひとたまりもない」


 サクラとアヤメは急いでジャケットを着る。


「アヤメ、フジ、サクラを連れて外に逃げろ。ここは私が食い止める」

「何言ってる親父! 俺らも戦う」

「分からないか? フジ。こやつ、強くなっておる」

「!」


 テツジの言葉にフジとアヤメはルプラを凝視する。ヤマトから聞いていた外見と違うことに気付く。


「角が3本になっている?」


 ヤマトと天宮から聞いた話だと角が2本だったはずだ。それが今3本になっているのだ。

 妖獣は角の数で強さが変わるものがいる。まさにルプラがそれだ。「だが」とテツジは眉を潜める。


「覚醒が早すぎる。今日の今日で覚醒を2回するなんてありえん」


 こんな短期間でここまで強さが変わることはまずない。だが1つだけそれを可能にすることがある。


「やはりガーゼラ国の改良型覚醒種か」

「さあなー」


 テツジの言葉にルプラは否定しなかった。それが答えだった。


 ――覚醒したルプラにまた薬を投与したやつがいるということか。だとすればサクラのことも話していると思ったほうが妥当か。


「ちっ! 最悪だ。フジ、アヤメ、サクラを連れてこの場から離れろ! 行け!」

「はい!」


 フジ達はドアから逃げる。


「逃がさん」


 ルプラが追おうとすると、


「行かせん!」


 テツジはルプラに拘束をかける。だがルプラは全身に電撃を走らせ難なくテツジの拘束を吹き飛ばし解除した。そして窓の外へと逃げる。


「ちっ!」


 テツジもすぐにサクラ達を追いかけ部屋を出た。

 サクラ達は窓から裏庭へと出ると、護衛の者が寄ってきた。


「フジ様! アヤメ様! 何があったのですか!」

「妖獣ルプラだ。気をつけろ! 表の警備の者全員やられた。お前達はすぐに家の中に入り、使用人達と自身の身を守れ!」

「フジ様達は?」

「俺らはいい。ルプラはお前達では太刀打ちできん。余計なことはするな! 隠れていろ!」


 フジ、アヤメ、サクラは警備の者達から離れるように庭園へと走る。その直後、


「アヤメ! 来るぞ!」

「ああ! 分かってる!」


 フジは後ろを振り向き剣を構え、アヤメもサクラの前に立つ。だが次の瞬間、3人は突風で吹き飛ばされた。

 フジが顔を上げると目の前に妖玉が迫ってきていた。すぐさま剣で妖玉を受け止める。だが当たった瞬間、電流の痺れが体をめぐった。


 ――くっ! 電撃か! 痺れる!


 耐電用のジャケットを着ていたため、どうにか半減されて気を失うことはなかったが、体が思うように動かない。ルプラの電撃は耐電用のジャケットの許容範囲を多いに超えていた。


 ――思ったより電撃が強い!


 刹那、ルプラがフジの目の前に一瞬にして現れ、フジの脇腹に蹴りを入れる。


「ぐが!」


 その勢いでフジは横に吹っ飛ばされ、庭石に激突した。


「フジ!」


 アヤメが叫んだ瞬間、ルプラはアヤメの前に一瞬で移動してきた。


「!」


 次の瞬間、手を翳しフジにした同じ妖玉を至近距離でアヤメに放つ。だがアヤメは咄嗟にシールドを張り防御。そして自分の妖力を宿らせ剣に業火を立ち上らせる。剣に妖力を宿らせる九條家の特殊能力の1つだ。そして剣先を真後ろに構え、ルプラに向かって思いっきり剣先を前に突き出す。


「行け! 鳳凰」


 業火は火の鳥と化し剣から離れ、ルプラへと一気に飛ぶように衝突。そして全身を猛火が焼く。その隙にアヤメはサクラを連れて間合いと取ると、ルプラを睨む。


「やったか?」


 だがルプラは全身を覆いつくす炎を気合いで吹き飛ばした。


「なに!」


 ――まったくの無傷だと!

 

「生ぬるい! こんな攻撃では私は倒せんぞ」


 ルプラはそう叫ぶと一瞬にしてアヤメに間合いを詰める。


「早い!」


 あまりの早さに対応が遅れた。ルプラの長い爪がアヤメへと振り下ろされる。


 ――やられる!


 だがアヤメとルプラの間にフジが滑り込み、剣で爪を防御し弾き返した。ルプラはその反動で後ろに2,3歩よろめく。その隙にフジが叫ぶ。


「行け!」


 アヤメはサクラの手を握り、「逃げるよ!」と強引に後ろに走る。


「でもお兄ちゃんが!」

「今そんなこと考えるんじゃないわよ!」


 逃げて行くサクラを見てルプラは舌打ちする。


「ちっ! こざかしいことを」


 そして目の前のフジに強力な電撃を食らわす。


「がっ!」


 強烈な電撃を頭上からまともに食らい、フジは気を失いその場に倒れた。


「いい加減あきた」


 そして逃げるサクラとアヤメにも電撃を落とす。

 2人は衝撃で地面にたたき付けられる。だがサクラはただ衝撃が来ただけで何ともない。倒れて体を小刻みに震えさせているアヤメを抱き起こす。


「お姉ちゃん!」


 アヤメは痺れてうまく動かない口をどうにか動かす。


「に、逃げてサ、クラ……」


 気配を感じ、サクラはルプラを見ると、ゆっくり自分を見て歩いてくる。


 ――狙いは私ならお姉ちゃんから離れなくちゃ。


 サクラはばっと立つと横へと走り出す。するとルプラも方向をサクラの方へと変えた。


 ――やはり私!


 どうにか逃げなくてはと前を向いた瞬間、後ろにいたルプラが目の前にいた。


「!」

「諦めろ。遊びは終わりだ」


 恐怖で動けないサクラにルプラの手が伸びる。だがその手を一筋の光りが走り斬り落とされた。


「!」


 するとサクラの腕を掴み、後ろに引っ張られ誰かの背中に庇われる。見れば父親のテツジだ。


「お父さん!」

「大丈夫か?」

「うん」


 2人は後ろに下がり、ルプラから目を離さず距離を取る。腕を切られたルプラは、じっと切口を見ていたと思った瞬間、一瞬にして腕が生える。


「!」


 それを見たテツジは背筋に冷たいものを感じギッと奥歯を噛む。


 ――一瞬で再生しただと? 早すぎる。それにこの妖力! 特級レベル!


 特級レベルだとテツジや双子では歯が立たない。皇族の式神しか太刀打ち出来ないのだ。だからといって、サクラを易々と渡すわけにはいかない。


「サクラ。後ろに下がりなさい」

「はい」


 サクラは言われた通り後ろに下がりテツジから距離を取る。それを確認してからテツジは剣に妖力を宿す。すると剣が巨大な水の渦を蒔き始め龍の姿へと変化した。そして先ほどアヤメが取ったのと同じ体勢をとり呟く。


「行け! 水龍」


 テツジは剣をルプラに目がけて放った。すると水龍は口を開け、噛みつくようにルプラを飲み込む。そしてルプラの体に巻き付き締め付ける。


「ぐがあああ!」


 だがそれは一瞬だった。

 ルプラは妖力を爆発させると縛り付けていた水龍が一瞬にして消し飛んだ。


「なに!」


 テツジは驚き声を上げる。


 ――水龍までも消すか!


 テツジは額に汗を滲ませる。そんなテツジにルプラは不適な笑みを浮かべて言う。


「今のは、なかなかよかったぞ。だが私には勝てん」

「くっ!」


 ルプラは右手を軽く横に薙ぎ払った。すると目に見えるほどの鋭い風がテツジ目がけて襲ってきた。


「!」


 テツジは咄嗟に剣を前に構える。だが勢いに負け、後ろに吹っ飛び塀に激突した。


「お父さん!」


 テツジは強打で動かない体をどうにか動かしサクラを見て目を瞠る。


「サクラ! 逃げろ!」

「え?」


 テツジへと走ってきていたサクラは、その声で後ろを振り向いた瞬間、目の前にルプラの手がサクラの目の前にあった。


「!」


 ――捕まる!


 だがサクラを捕らえる前に、ルプラの手が弾かれた。


「!」


 驚いたのはルプラだ。


「結界だと!」


 サクラも何が起ったのか分からずその場に立ち尽くしていると、いきなり目の前に影が落ちた。そして声がかかる。


「大丈夫か?」


 すぐに誰だか分かった。


「ナギ……」




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