第39話 国の機関の闇②



「監視カメラと侵入センサーが作動していなかった。切られていたんです」

「!」


 テツジ達は目を見開き驚く。


「監視はされていないということか?」

「はい。あの場所は、敵国に渡れば脅威になる稀人を守るために保護されている場所のはずです。それなのに監視カメラも侵入者を感知するセンサーも作動していなかった」

「あえて切っているということか?」

「はい」

「だが毎月監視報告は上がっているはずだが……」


 テツジはガーゼラ国の件で報告書を何回か目を通したことがあった。そこには毎月報告がされていて、何も怪しい箇所はなかったことを思い出す。


「じゃああの報告書は偽造されているということか?」

「いえ。たぶん報告書は正しいと思います」


 どういうことだとテツジはナギを見る。


「監視カメラを24時間監視しているわけではないですよね?」

「ああ。夜間は――」


 テツジはそこで言い止す。


「君は夜中に入ったのか?」

「はい。そりゃそうですよ。昼間に入ったら捕まります」

「そうだが、君は青空があったと……」

「はい。あの場所、夜中も明るいんです。暗いのは稀人がいる建物だけ。夜になると夜を作るためと稀人まれびとが建物から出れないようにするために扉と窓はシャッターが閉まるようになってました。そして、」


 ナギは意味深な笑みを浮かべる。


「監視カメラは動く者に反応するタイプでした。うまく考えましたね。夜は暗いのが当たり前。記録されていなければ、侵入者や脱獄者はいないという人間の心理を利用したんでしょうね」


 それならば、夜監視カメラが切られていても誰も気付かない。そして侵入者感知センサーも切られて入れば、出入り口の警備さえ気をつければ施設には容易に侵入出来る。

 ここまでくればナギが言いたいことはテツジ達も分かった。


「なるほどな。それならば報告書は正しい。疑われる箇所はないということか」

「はい」


 テツジ達が理解したところで、ナギは最後に確認する。


「テツジ叔父さん、今まであの施設から稀人が理由もなくいなくなったことは?」

はないはずだ」


 それは改ざんされていたら分からないということだ。


「まあどのようにも出来るしな」


 フジも腕組みして言う。ナギも同感だと肯首する。

 夜なら、夜に亡くなったと言えばいいし、昼間なら病気で医者に診せると言って連れ出し、亡くなったと言えばそれまでだ。なんとでもなる。

 だが、そのようなことが出来る者は限られる。


「監視員の者の中か、医師の中にガーゼラ国の者がいるということか」

「でしょうね」

「分かった。すぐに極秘に調べさせる」

「お願いします」

「じゃあ、ナギが言うようにガーゼラ国が関与しているとしたら、今後がやばいんじゃないか?」


 フジも気付いたようだ。

 

「はい。俺の考えが正しければ、近いうちにイーサの保安部からテツジ叔父さんに連絡が来るはずです」


 保安部は『稀人まれびと』の存在を把握し保護を主に管理している部だ。


「なんやかんや理由を付けてサクラを保護すると言ってくるということだな」

「え? なんで? 関与しているのはガーゼラ国でしょ? 国は関係ないじゃない」


 意味が分からず眉を潜めるアヤメにフジが説明する。


「関係あるんだよ。ガーゼラ国と繋がっているやつがいるのは、イーサかザルバのやつだ。だとすれば、イーサ管轄の保安部にサクラが稀人まれびとかを確認させ保護させるつもりなんだよ。表向きはサクラをガーゼラ国から守るという理由をつけて保護し、施設からかっさらう作戦なんだろうよ」


 さも面白くないと言った風情でフジは口を尖らしながら説明する。そこでアヤメははっとする。


「じゃあ保安部にガーゼラ国と繋がっているやつがいるんじゃないの?」


 だがそれにはフジは否定する。


「それはまずあり得ないだろうな」

「なんで?」

「こういうことに疎い、単純なアヤメでもたどり着けるからだ」

「どういう意味よ」


 それにはテツジが応えた。


「誰もがそう思うということだ。現に保安部を疑い何度も捜査した。だが誰1人怪しい者はいなかった。まあ、まずあり得ないことだけどな」

「どうして?」


 そのことに関しては、アヤメだけではなく、ナギもフジもどういうことだとテツジを見る。


「保安部は全員皇帝に誓いを立てているからだ」

「!」


 保安部は公平さに重点を置く部のため、損得せず、公平に嘘偽りなく行動することを皇帝の前で誓い、もしその誓いを破ったら大きな代償を課すことになっているのだ。


「だから保安部が裏切ることは絶対にないんだ」

「皇帝に誓いをたてるというのは?」


 ナギはまったく分からない。ユウリの情報にはないものだ。


「皇帝の服従の言霊は知っているだろ?」

「はい。皇帝が言う言葉には力があり、天陽国のものは逆らえないものですよね」

「そうだ。絶対に保安部としての心得をたがえないことを皇帝に誓うんだ。違えれば命をもって償うとね」


 ――命を引き換えとは大層なことだ。そこまで稀人まれびとが重要なのか? ようわからんな。


 ナギにはまだこの世界のことが理解出来ないことが多いようだと改めて思う。


「だから保安部の中にガーゼラ国と内通している者がいることはあり得ないんだよ」

「じゃあ、やはり監視員を疑ったほうがいいかもな」

「はい」


 フジの言葉にナギも肯首する。


「まあ今はどうにか保安部の要請を断ることが先決だろうな」

「お父さんが嫌だと言えば防げるんでしょ?」

「普通ならな」

「え?」

「十家門が出てくると私でも無理だろうな」


 九條家は9番目だ。八條家以上の者が言ってくれば、テツジでも断ることが出来ない。


「だから一條家当主で軍事最高責任者のユウケイ叔父さんの力が必要ということだな」


 フジが笑いながら言うと、テツジは頷く。


「ああ、そうだ。ユウケイしか阻止できん。だからユウケイの所にサクラを預けるんだ」


 ――やはりこうなることを父親達は予想していたんだな。


 ナギはテツジを見ながら鼻を鳴らす。


「それでも、もしサクラが保護されてしまったら?」


 アヤメが言う。アヤメも軍の端くれだ。保護された場合、管轄はイーサだ。ザルバのナギの父親では容易には外には出せない。


「そうならないことを祈るしかない」


 テツジは苦渋の表情で言う。


「まあ今言えることは、確証がない以上これ以上どうすることも出来ないということだ」


 ナギもそうだと頷く。今はサクラが捕まらないようにするだけだ。


「だからナギ君、サクラをよろしく頼む」

「はい」


 その様子を見てアヤメはどうしても納得いかない顔をナギに向ける。その視線をビンビン感じ、ナギは小さく嘆息する。


 ――納得してない顔だな。まあ今までのユウリの印象が良くなかったからなんだが。


「そう心配しなくても大丈夫ですよ、アヤメ姉さん」

「――」


 アヤメは余計にムッとした顔を向ける。フジはその横で苦笑いだ。だがアヤメが何か言ってくることはなかった。アヤメも今はこの策しかないのだと思っているのだろう。

 そこへサクラがキャリーバッグを持ってやってきた。


「お待たせ」


 ナギも立ち上がる。


「では、サクラを預からせてもらいます」

「ああ。よろしく頼む。ナギ君」


 テツジが頭を下げた。




――――――――――――――――――――――



 こちらを見つけていただきありがとうございます。

 そして、今まで読んでいただきありがとうございます。

 ここで、第三章 終わりでございます。


 ということは、次はユウリさん登場です!


 え? 章が変わるたびに、ナギとユウリが入れ替わるの?

 と思われるかもしれませんが、そんなことない(と思う)です。


 ナギとユウリ、話します! (^o^)


 このへんで、また登場人物紹介でも入れようかな~と。


 ということで、第四章も読んでいただけたら嬉しいです。

 また♡、コメント、☆評価をしていただけるととても嬉しいでございます~(≧∀≦)

 頑張るモチベーションにもなりますのでよろしくお願いします。



          碧心☆あおしん☆

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