第33話 双子の皇帝



 ナギは医務室から出てからミカゲにある疑問を口にする。


「ミカゲ」

「ん?」

「ミカゲも皇族か?」

「……なぜそう思う」

「ミカゲの式神、ヤマト様と同じものを感じたからだ」

「……」

「そしてヤマト様と天宮の態度だ。皇族のヤマト様が、〝さん〟を付けるのが違和感ありありだったからな。師弟関係だけでは、〝さん〟を付けない。俺も一応王族だったからそれぐらいは分かる」

「お前、王族だったのか?」


 ミカゲは驚き声を上げる。


「ああ。まあ第三王子だったから、気軽なもんだけどな」

「王子なのに、戦争に出ていたのか?」

「城にいるよりも最前線で戦っていた方が性に合ってたんだよ」

「まあ、そんな感じだな」

「で、どうなんだ?」


 ナギは立ち止まってミカゲの返事を待つ。


 ――たぶん俺の考えは正しい。


 ミカゲも立ち止まり、はあと頭を掻く。


「ああ、そうだ。俺は現皇帝シンメイの双子の兄だ」

「!」


 驚き目を見開く。親戚だと思っていたら、まさかの皇帝と兄弟だったとは。そこである疑問が浮上する。


「兄ってことは、ミカゲの方が上だから皇帝になるんじゃないのか?」

「一般はな。だが双子は違う。産まれた時にどちらが皇帝にふさわしいか占星術で決められる。そして俺ら双子は、占星術によって陰と陽だと分かり、俺が陰、弟のシンメイが陽と占術され、陰となった俺は殺すか、影として生きるかの二択になった。そして前皇帝と皇后は俺を影として生きる方を選んだってやつだ」


 それでかとナギは納得する。


「みんなミカゲが皇帝の双子の片割れって気付かないのか?」

「普通気付かねえよ。お前ぐらいだ」

「そうなのか。でも皇族って顔がいいんだよな? だけどミカゲは……」


 そこでミカゲは片眉をあげムッとする。


「顔が良くないって言いたいのか?」

「ああ」

「はっきり言いやがるな。これは皇族双子あるあるの話なんだが、片方が容姿、片方が力が片寄るんだよ」

「だからミカゲは強いんだな」

「大したことねえよ」

「よく言うぜ。強さ隠してるだろ。ヤマト様よりも強いしな」


 ミカゲは何も言わない。否定しないと言うことはナギが正しいということだ。


「当たりだな」

「恐ろしいなお前……」


 ミカゲは眉を潜めて言い、そして笑う。


「まあ異世界からやって来るほどの魔力を持っているんだから、それぐらい分かるわな」

「褒め言葉だと思っておくよ」

「ああ。当たり前だ。褒め言葉に決まっているだろ」


 ナギもふっと笑う。


「じゃあ、シンメイ皇帝は力が弱いのか?」

「まあ、皇族としては少し弱いぐらいだ。支障はないな。だがあいつにはヤマトよりも他の者を魅了する力がある」

「そういうもんなのか?」

「ああ。皇族は一般人の者を魅了し従わせる遺伝子的なものを持っているんだよ。やはりそういう者が上に立つように世の中はなっている。あいつはその力が強い。だから皇帝に選ばれたんだろうな。あの力は俺にはないものだ」

「未練や妬みとかはないのか?」


 ナギの兄達もそうだったが、やはり一番頂天に立ちたいという願望があるのが一般的だ。


「別にねえな。あんな窮屈な生活、俺にはむかん。たぶん俺が選ばれてたら、逃げ出してるだろうな」


 心底嫌がる顔をするミカゲを見てナギは笑う。


「俺と一緒の人種だな」


 ナギも王座にまったく興味がなく、反対にやりたくない派だ。だから戦場に出て戦い、戦争が終わった後は王都から一番遠い場所の辺鄙な土地を選んでその場所の主になったのだ。


「このことを知っているのは?」

「皇族はもちろん、後宮の者と国の上層部、政府の者はだいたい知ってるな」

「けっこう知ってるんだな」

「まあ皇帝の子供が双子ということは有名な話だが、俺がその1人だということは知られてないな」

「ばれないのか? あの式神でばれそうなんだが」

「式神が同じ系統ということに気づいているのはお前ぐらいだ。普通気づかないんだよ」

「そうなのか」


 みな気がつくものだと思っていたが違うらしい。


「でだ。さっきお前はサクラに何をした?」


 ミカゲは、ナギが医務室から出る時に、サクラの額に手を置いたことを言っていた。


「よく見てるなー。結界みたいなものだ。たぶんサクラの姉は俺の所に来させることは許さないだろうからな」


 すると前から3人の背広を着た男性が歩いてきた。


 ――あれは……。


 真ん中の中太りの人が良さそうな男性を見てナギは記憶を辿る。ユウリの記憶から、サクラの父の九條テツジだと分かった。テツジもナギ達に気づいたようだ。そして前まで来ると、まずミカゲに軽く頭を下げる。


「おひさしぶりです」

「ひさしぶりだな。テっさん」


 ――テっさん? あだ名読みかよ。


 ナギは驚きミカゲを見る。そんなナギにテツジは声をかける。


「久しぶりだね。ナギくん」

「ご無沙汰しています。テツジ叔父さん」


 ユウリはテツジを「テツジ叔父さん」と呼んでいたため、そのように呼ぶ。


「見ないうちに立派になったね。見違えたよ」

「いつもサクラさんにはご迷惑をかけております。すみません」


 ナギは頭を下げる。


「別にいいよ。あれが好きでやっていることだから」


 そしてテツジはミカゲに視線を向ける。


「あ、えー……」


 どう言っていいかテツジは迷っているようだと、ミカゲは苦笑して言う。


「あ、ナギに俺の正体ばれてるから気にしないでくれ」

「え?」


 テツジは驚き目を見開く。何故だという顔だ。そんなテツジに苦笑してミカゲは訊ねる。


「サクラの件でここに?」

「はい。連絡をいただきまして」


 テツジはそう言いながら、久々に合うナギへと視線を向ける。


 ――これはどういうことだ? 本当にあのナギ君か? 別人ではないか? この合わない3年間何があった?


 どう見てもテツジが知る者とは別人だった。テツジも九條家の当主だ。ある程度は妖力はある。だから見ればその者の強さは分かる。

 そんな困惑した表情のテツジに気付いたミカゲは心の中で苦笑する。


 ――そりゃあ困惑するよなー。目の前に自分が知りうる人物とはまったく違う者がいるんだからなー。


 だが元いた者とナギが別人だと言っても仕方ないことだ。


「九條さんも驚いているようだが、ナギはこの3年の間、実は内緒で俺の所で特訓をしていたんだ」

「え?」

「は?」


 それにはナギも虚を突かれた顔をミカゲに向け、小声で言う。


『おいミカゲ、なに言い出すんだ』

『あほ。今サクラの父親はお前を不審がってるんだよ。下手に勘ぐられたら面倒だ』


 ナギは少し不服そうに口を尖らすが、確かにそうだとミカゲに従う。


「特訓ですか?」

「ああ。こいつ、特殊能力が3年前に覚醒したんだが、あまりにも強いものだから、どうしたらいいかと内緒で俺に相談に来てな。で、しょうがないからこいつの師匠になったんだ」


 ナギは、無理がねえかとミカゲに半目を向ける。だがテツジは疑いもなくそうなんですかと信じた。まあ皇帝の片割れのミカゲが言えば、この国の者は信じそうだとナギは嘆息する。


「しかしなぜ内緒に」


 そりゃそう思うだろうとナギは、ミカゲがどう応えるか注目する。すると予想外な素っ頓狂なことを言いやがった。


「それはサクラのためだよ。ナギはサクラのために強くなることを願ったんだ」

「〇△※▽◇×――!」


 ナギは言葉にならない声をあげる。そんなナギの肩を抱きお構いなしにミカゲは続ける。


「こんなやつですが、とてもサクラのことを想っているんだ。でもこいつシャイだから恥ずかしくて言いたくなかったみたいなんだ」


 ――な、な、なに言い出すんだ! ミカゲ! 


 無言の抗議の目を向けるナギだが、テツジにはその姿が恥ずかしがってばらされたことにナギがミカゲに怒っていると思ったようだ。


「そうだったのか。ナギ君! そこまでサクラのことを!」

「あ、いや……そういうことじゃ……」


 あまりにもナギの今まで経験したことがない予想外のことが起こり反応が出来ずにうまく言葉が出ない。それがまた照れてるようにテツジには映ったようだ。


「ナギ君、照れなくていい。このことはサクラには内緒にしておくから」

「い、いや……えっと……」

「しかしそうだったとは」


 すると調子に乗ったミカゲが笑顔で言う。


「まあ知らなかったのは無理もない。このことはナギの父親も知らないことだからな。このことはテっさんだけに留めておいてほしい。あ、まあフジとアヤメには伝えてもらったほうがいいかもな。あの2人はまだナギがここまで強くなったことは知らないからな」

「そうですね。あの2人はまだナギ君が昔のままだと思っているので」


 もう反論する気力を無くし、ナギはただ顔を引きつらせて苦笑するしかなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る