第32話 ナギ VS ヤマト  



「今度は僕が質問だ。ナギ、君はサクラさんを守れるかい?」

「ヤマト様! 何を言っているのですか! 一條では無理です!」


 天宮が声を荒げて反論する。天宮でも無理だったのだ。生徒であるナギが太刀打ち出来るとは到底思えない。


「ミカゲさんはどう思う?」


 ヤマトはミカゲに振る。すると腕組みをしていたミカゲは嘆息して応える。


「任せていいんじゃねえか」

「ミカゲ様まで」


 天宮は信じられないとミカゲを見る。だがヤマトは、やはりと笑うだけだ。


「ミカゲさんもそう思うんだ。でも僕もそう思うんだよね」

「ヤマト様!」

「天宮、そんなに意気込まない。理由はちゃんとある」

「理由ですか?」

「ああ。ナギは君より強い」

「!」


 ミカゲを見れば、何も言わずに目を瞑り腕組みをしているだけだ。


 ――ミカゲ様が否定しない?


 ミカゲの特殊能力は、能力を把握するだけではなく、強さもある程度分かるものだ。そしてなにより自分の意思を絶対に曲げない。間違っていることは間違っていると必ずちゃんと言う。そのミカゲが何も言わないということは本当にナギが天宮より強いということを意味していた。

 だが、どうしても信じられない天宮は口を一文字に結ぶ。そんな天宮にヤマトは苦笑する。


「信じられないって顔してるね天宮」

「はい……」

「まあそうだろうな」


 ミカゲも苦笑し肩を窄める。天宮の反応がまず普通なのだ。


「じゃあ百聞は一見に如かずって言うからね。ルミネ」


 ヤマトの呼び声でヤマトの隣りに目がない女性が忽然と現れた。すると空間が歪んだと思った瞬間、何もない空間に変わる。

 ナギは驚きもせず周りを見て呟く。


「空間転移か?」 

「まあそんなものかな。これはルミネが作り出した一時的な異空間だ」

「へえ」

「ちょっと君の実力を見せてもらっていいかな?」

「ああ。何をするんだ?」

「僕のこのルミネと闘ってもらいたい」


 それに対し、天宮が声を荒げる。


「ヤマト様! そんなことしたら一條が!」

「ちゃんと手加減するから大丈夫だよ」

「別に俺はかまわない」


 ナギは水を得た魚のように、楽しいことが始まる時のような高揚感を感じた笑顔を見せる。

 そんなナギを見てミカゲは目を細め嘆息する。


 ――あーこいつ、戦場でしか高揚感を見い出せないイカれたやつだ。







 ナギとヤマトは間合いを取る。


「ヤマト様、1つ聞いていいか?」

「なんだい?」

「そのルミネっていう式神は皇族は皆持っているのか?」

「いや。皇位継承者のみだね」


 ――なるほど。そういうことか。


 ナギはふっと笑う。確認したいがそれは後にする。


「いつでもいいぜ。なんなら手加減なしで」

「へえ。それは頼もしい。ルミネ」


 するとヤマトの隣りにいたルミネが右手を前に差し出した。

 刹那、凄いスピードで弾丸のようなルビー色の妖力がナギへと放たれる。だがナギはすぐに魔法陣のシールドを張り防御。何発も放たれるルミネの防御をすべてシールドで弾き飛ばした。

 その様子を見た天宮は驚き目を見開く。


「なんだあれは? 結界なのか? あれが一條の特殊能力。すごい」


「やるねーナギ。本当に手加減はいらなさそうだ」


 すると、ルミネは今度は砲弾をナギへと浴びせる。だがナギを囲むように結界が張られ、これもまたすべて防御した。


「へえ。これもだめか」


 次にルミネが剣を出現させ構える。それを見た天宮が焦り声をあげた。


「ヤマト様! それはなりません!」


 どんなに防御に優れているナギでも、学生の剣術はやはり、実戦経験を積んでいる軍人よりも劣る。ましてやルミネは聖女だ。ナギが適うわけがない。だがそこでミカゲが何も言わないのに天宮は眉を潜める。


「ミカゲ様! 止めないのですか?」

「ああ。まあ大丈夫だろう」

「え?」


 剣を出したルミネを見て、ナギは目を見開く。


「今度は剣かよ」


 ナギもまた魔法で剣を右手に出現させる。それを見たヤマトと天宮は驚き見る。


「剣まで出せるのか」


 それを聞いたミカゲは片方の眉を上げる。


 ――そりゃそうだろ。こいつの能力は何でもありの魔法だからなー。


 ナギに聞けば、攻撃、防御、物質の現実化、瞬間移動、すべての特殊能力が1つに集まった魔法らしい。ならば最強に決まっているのだ。


 ルミネもそれを分かっているのか、手加減なしで斬込む。ナギはルミネの剣を胸の前で受け止め力で押し戻し弾く。そしてそのまま一気にルミネに斬込む。だがルミネも素早い動きでナギの剣先を寸でのところで回避する。そしてまた隙を見て、ナギへと間合いを詰め、剣を左右に容赦なく振るう。ナギも素早いルミネの攻撃を剣ですべて受け止め、間に合わない場合はシールドで防御し、ルミネからの攻撃をすべて対処していた。


 そんな緊迫した攻防戦を目の当たりにした天宮は、目を見開き驚く。


「なんだ、あの戦い方は! 実践並み、いや実践を積んできた戦い方じゃないか!」 


 天宮の言葉にミカゲもその通りだと肯首する。


 ――やはりあいつは戦い慣れてやがる。それも相当場を踏んできた戦い方だ。元の世界でどんな生活してきたんだか。


 すると一瞬の隙をつかれ、ルミネが縛り上げられた。ナギが拘束魔法でしたのだ。そしてルミネに向かって手の平を翳す。すると手の前に魔法陣が現れ、急激に魔力が膨れ上がった。

 だがそこでミカゲが声を上げる。


「そこまでだナギ!」


 ナギはミカゲを一瞥し嘆息すると、魔法陣を消滅させる。そしてルミネの拘束も解いた。するとその場も元の医療室に戻る。

 ヤマトは負けたことに悔しがるわけでもなく、嬉しそうに話しかける。


「すごいねナギ。完敗だ。まさかルミネが負けるとは思わなかった」

「よく言う。手加減してたくせに」


 ヤマトは一瞬驚いた顔をするが、すぐに笑顔を見せる。


「そこまで分かるんだ」

「ルミネから感じる妖力からして、あの攻撃は温すぎるからな」


 不服そうにムッとしながら言うナギにヤマトは苦笑する。


「本気で君を倒そうとしていたわけじゃないからね。さすがに生徒を倒そうなんて思わないよ」

「確かにそうだな」

「でもその言い方だとルミネの本気の妖力でも君はいけると?」


 するとナギは不適な笑みを浮かべる。


「さあな。それはわからん」


 自信ありげな笑みを見ると、本気でやればルミネは負けそうだなとヤマトは感じた。


「じゃあ今度手合わせする機会があれば、本気でいかさせてもらうよ」

「ああ」


 天宮は、ただ呆然と2人に見入る。


 ――本当にあれが一條家の出来損ない息子と噂されていた人物なのか? ぜんぜん噂と違うじゃないか。


「あれが君の特殊能力なのかい?」

「ああ」

「これならサクラさんを君に任せても大丈夫そうだね。出来れば君がずっと側にいるのが一番いいんだけどね」

「俺の家にサクラを泊まらせるということか?」

「そうなんだけどね……」


 なぜかヤマトは困った顔をすると、ミカゲも苦笑しながら言葉を繋ぐ。


「あいつらが許さねえよなー」

「あいつら? 誰だ?」

「サクラの兄と姉だ」


 そういえば、サクラには7つ離れた双子の兄妹きょうだい、フジとアヤメがいたなと、ナギはユウリの記憶を辿たどる。だがもう何年も会っていない。ユウリが引きこもりをしていたからもあるが、二人とも軍の寮に入ったため、合う機会がなくなったからだ。

 ユウリの記憶からして5年は会っていないようだ。そして二人とも、ユウリが許嫁というのがあまり良く思っておらず、特に姉のアヤメがそうだったようだ。


 最後に会った時も姉アヤメはユウリに、


「そんな弱虫なやつ、サクラの許嫁なんて認めないからね」


 と吐き捨てるように言っていた。


「確かに、あの2人が許すとは思えないな……」


 ナギも目を細めながら呟く。双子の兄妹はサクラのことを、凄く可愛がっていたのだ。


「フジとアヤメはサクラのことを劇愛してるからなー」


 ミカゲも知っているようだった。


「ヤマト様もサクラの兄と姉のこと知っているのか?」


 十家門といっても皇族とそれほど親しくするものではないはずだ。だが話からしてヤマトはサクラの兄と姉を知っているようなのだ。


「ああ。あの2人はよく知っているよ。フジは皇帝の近衛部隊で、アヤメは僕の近衛隊所属だからね」


 それでかとナギは納得する。


「学校訪問の時は女性隊員はあえて外しているんだ。男性生徒が多いからね。でもさっき2人に連絡を入れたから、もうすぐここに来ると思うよ」


 状況を察したミカゲがヤマトに言う。


「じゃあ俺らは席を外す。後で連絡をくれ」


 ナギがいれば、アヤメと対立することが目に見えているからだ。


「そうだね。また後から連絡するよ」


 そこでナギとヤマトは医務室から退室した。

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