第31話 稀人①
「どちらにしても、これはうちの
「? どういうことだ?」
ナギの疑問にミカゲが応える。
「サクラはどちらにいても利用されるということだ。『万象無効の稀人』はほとんど例がなく貴重な存在だからな。研究材料にされるだろうよ。そして敵国ガーゼラの工作員や内通者に知られれば、身柄をガーゼラ国に連れて行かれ、研究材料にされるか、下手すれば改良される。最悪、意識を操作され、こちらの情報を盗んだり、攻撃させたりといいように利用さられるだろうよ。どんな攻撃防御もサクラには効かないんだからな」
確かにそれは驚異でしかない。だとすれば、
「俺の父親とサクラの父親は、このことを知っていたな」
だから幼いうちからユウリとサクラを許嫁にしたのだ。
「なるほどな。そりゃあ2人が隠したがるわけだな」
ミカゲも得心がいき、鼻で笑う。
「でもよく今まで気付かれなかったですね」
天宮が驚きながら言う。普通ならばれそうなものだ。
「今まで敵に遭遇することがなかったからだろうな」
ミカゲの言うとおりだろうとナギも思う。だから知られることはなかった。2人の父親もこのまま知られることはないと思っていただろう。
だがルプラの覚醒種にその能力を知られてしまった。
「サクラさんの能力を知り、ルプラの覚醒種は連れ去ろうとした」
「!」
「僕が防いだけど、ルプラの覚醒種には逃げられてしまった。すぐに追いかけさせたが、どこに行ったかは不明だ」
「それは、またサクラが狙われるということか?」
ナギが聞けば、ヤマトは頷く。
「ああ。必ず現れるだろうね」
「なぜそう言い切れる? 妖獣だろ?」
ミカゲは眉を潜めヤマトに訊く。しゃべれると言っても相手は妖獣だ。肉食だとしても、サクラを捕食しても能力が身につくわけではないのだ。ならば、あえてサクラを狙う必要がないはずだ。
するとヤマトが反対に問う。
「もしその妖獣が改良型だとしたら?」
「なんだと?」
ミカゲの顔が強ばる。
「今回ルプラの最初のランクはレベル3だった。それが一気にレベル8以上になったんだ」
「!」
ミカゲは目を見開く。そこでヤマトが言いたいことが分かった。
「レベルが5ランクアップだと?」
「そう。まずあり得ない」
ヤマトの応えにミカゲは目を細めて言う。
「ということは、ルプラは人工的に作られた改良型ということか」
「僕と天宮の見解はそうだね」
そこまでヤマトとミカゲの会話を聞いていたナギが訊ねる。
「改良型とは?」
「敵国ガーゼラ国が昔からやっている妖獣の改良だよ。ガーゼラ国は、うちの
ヤマトの説明にナギは戦争をしていた時に感じた、何とも言えない不快感に陥る。
「それは、使い捨ての駒を作るということか」
「そうだね」
「ちっ! くだらん」
ナギは吐き捨てるように言う。
「それに人間じゃないから厄介というのもある。色々な能力の妖獣を生み出せるからね。でもまだ救いなのは、大量生産に至ってないということだ」
「でも時間の問題なんじゃないのか?」
ミカゲが呆れたように訊く。
「いや。けっこう改良は難しいんだ。同じ種類の妖獣でも個々によって違う。だから成功するかしないかは、その時々で違うんだよ」
そこでナギは片方の口角をあげヤマトに言う。
「やたら詳しいな」
だがそれにはヤマトは応えず笑顔を見せるだけだ。
――あの言い方からしてこの国も同じことをしているということか。公にはしていないが、敵国だけがしているとは思えない。敵国ならば脅威だが、味方にいたのなら、かなり大きい戦力になるからな。
だがそのことに関してナギは驚きはしなかった。よくあることだからだ。
自分がいた世界でも同じようなことはよくあった。だからそれを責めようとも思わない。どの国も自分の国を守りたいがためにしていることだからだ。それに今そのことに対して自分が意見を述べても意味が無いことだということも分かっている。今知りたいことはそこではないのだ。だから話題を変える。
「なぜルプラはサクラを狙う?」
今一番知りたいのはこれだ。
「さっきも行ったように、ルプラがガーゼラ国の妖獣ならば、もうサクラさんの情報はガーゼラ国に伝わっているはずだ。だとすればサクラさんを連れ去りガーゼラ国に拉致することが容易に考えられる」
「まあそうなるだろうなー」
ミカゲもそれ以外考えられないと頷く。
「だからサクラさんを守らなくてはならない。絶対にルプラに渡さないために」
その言葉に、ミカゲは鋭い視線をヤマトに向ける。
「それは、サクラを国へ引き渡すということか?」
なぜミカゲが殺気立っているのかは分かっている。国にサクラを渡したくないからだ。それにはナギも同意見だ。
この2週間で『
そのような扱いをされることを知っていた一條家当主のナギ(ユウリ)の父親と九條家当主のサクラの父親が、サクラをそのような扱いを受けることが耐えられず、『稀人』ということを隠し通すことにしたのだろう。
だが今、軍に所属しているヤマトと近衛部隊隊長の天宮にばれてしまった。だとすれば2人は国に報告することは容易に想像できる。それかこのままサクラを連れて行くことも考えられるのだ。
最悪の事態を想定したナギとミカゲだが、ヤマトはそれに反した返事をした。
「しないよ。このことは僕と天宮しか知らない。僕達は国に報告することはしない。今、この子を渡せば、敵国ガーゼラ国にわざわざ教えることになるだけだからね」
その理由は1つ。
「やはり国の行政機関の中に敵が紛れ込んでいるということなのか?」
「たぶんねとしか言えない。だがこれは正しい。でもどこにいるのか、誰なのかがつかめない。うまく隠しているんだよ」
そこでナギは改めてヤマトへ問う。
「あんたを本当に信じていいのか?」
「一條! ヤマト様になんてことを言うのだ! それに口の聞き方に気をつけろ!」
天宮が注意する。だがナギは動じない。
「俺はただ疑問を口にしただけだ。それにミカゲも敬語使ってないぞ」
「そ、それは……」
言葉に窮する天宮にヤマトは笑う。
「そうだよね。確かに担任が敬語使ってないんだから、生徒もそうなるね」
「なりません!」
天宮はすぐに否定する。するとミカゲが気まずそうに頭を掻きながらナギに言う。
「ナギ、お前は〝様〟を付けろ。ヤマトは気にしないが、他の者がうるさい」
他の者がうるさいとは天宮のことかと天宮を見れば、何とも言いがたい顔をしている。面白い。
でもまあ、なんとなく理由が分かったため、大人しく言うことをきくことにする。
「わかったよ」
「じゃあ僕は、君の父と区別するために君のことをナギって呼ばさせてもらうよ」
「別に構わん」
ため口も気に入らない天宮は、ナギにもう一度注意しようとしたところをヤマトに止められ、渋々引き下がる。
「君の質問の応えだけど、僕や皇族は信用していいよ」
「その根拠は?」
するとそれに対してミカゲが説明する。
「皇族は一般人とは元々血が違う」
「血?」
「ああ。皇族は聖女カラリアの血を引いている。聖女カラリアの血は浄化作用が強い。だから皇族の意識を乗っ取るために、中に入った妖獣は浄化され消滅、人間は精神を破壊されてしまう。だから絶対に皇族には乗り移れないんだよ」
「なるほどね」
すると今度はヤマトが笑顔を消しナギを見る。そのエメラルドの双眸がナギの視線を外させない。これが皇族の力なのかと場違いにも思ってしまうほどの魅力的な目だ。
「今度は僕からの質問だ。ナギ、君はサクラさんを守れるかい?」
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