第29話 特別授業②




 一斉にそれぞれの部屋の扉が開かれた。すると柵が現れる。

 サクラ達の柵の奥を見れば、4本足の角が生えた馬のような妖獣がいた。

 天宮が説明する。


「これはレベル3の妖獣『ルプラ』。角から妖力を繰り出す猛獣タイプだ。このクラスの4本足で角がある妖獣の弱点はこの角だ。角をへし折ることが一番の近道だ。だが、君達のように妖力が強くない者達は、はやり武器での接近戦になる」


 軍事学校に入ると、銃もだが、剣等の刃物系の訓練も受ける。女性は剣は重いため、短剣などのレイピアや小刀を使用することが多い。


「ではこれを渡す。先生お願いします」


 天宮の言葉で、担任がサクラ達に短剣を1人ずつに渡す。基本武器は学校では練習の時は使わない。だが実践練習の時だけこのように本物を渡される。


「無理に角を狙わなくてもいい。あくまで最短は角を狙うというものだ。体のどの部分でも傷を負わせることを考えればいい。そして危ないと思ったらすぐに逃げること」

「逃げることって出来るのですか?」

「それは分からない。だがどうにか生き残ることを最後まで諦めずにすることだ。それが一番生き残る確率が高くなる。戦闘だけじゃない。他のこともだ。どんな時でも諦めたら最後。1%でも助かる、出来る確率があるなら、それを信じて最後まで諦めないことだ」


 ――諦めないこと。


 なぜかその言葉がサクラには刺さった。


「じゃあ柵を開放するぞ」


 するとスズカが不安な表情で担任に尋ねる。


「先生、本当に大丈夫ですか?」

「ちゃんと鎖がしてある。床に引いてある線より外に出れば妖獣の脚は届かない。もし危険と思ったらその線より外に出ればいい」


 その言葉にサクラ達はほっとする。実践と言っても、やはり練習のため、危険を極力無くしているようだ。


「じゃあ行くぞ。小刀を構えろ。妖力が使えるやつは遠慮なく打て!」



 柵が開かれた。

 中からゆっくり2メートルほどのルプラが檻から出てきた。暗い場所から一歩ずづ部屋へと歩いてくるルプラを見て天宮は眉を潜める。


 ――なんだ? この違和感は。


 天宮は目を眇めてルプラを見入る。だがどう見ても変わったところはない。


 ――気のせいか……。


「では、はじめ!」


 まず最初に動いたのは田辺キリと川沼リリコだ。キリとリリコは妖炎玉――火玉を放つ。だがやはり妖力が弱いため傷はつけれるが致命的な打撃は与えられない。

 腕組みをして、その様子を見ている天宮の声が飛ぶ。


「田辺! 川沼! 諦めずに放ち続けろ」

「はい!」

「はい!」


 2人はそのまま連続でルプラへと攻撃を続けた。


「じゃあ九條、奥村、山林、斬り込め!」


 サクラ達は一斉にルプラに斬りかかる。だがルプラが前脚を上げ立ち上がった。3人はその大きさにひるみ、立ち止まりその場に動けなくなる。すると、すぐに天宮の叱咤が飛ぶ。


「何をしている! そんなことで立ち止まるな! ひるまず行け!」

「はい!」


 まずサクラが動いた。ルプラの右側に回り短剣を大きく振り上げ斜めに斬りつける。


「スズナ! 山林さん! 今よ!」


 ルプラがサクラへと視線を向けたことで、左胴体がスズナとフウカへと向く。そこを狙い、2人が斬り込み胴体に傷を負わす。


「ガアアアアー!」


 ルプラの叫び声が響き渡る。その傷の場所にキリが妖炎玉を放つ。


「いいぞー! その調子だ」


 担任が叫ぶ。そしてサクラが右脚目がけて斬り込むと、フウカも同じく左脚を切り裂く。


「ガアアー!」


 間合いを取りサクラは肩で息をする。


 ――やばい。熱が上がってきたのかな。体が重くて動きがにぶい。


 だがここで逃げるわけにはいかない。


「あと少しよ!」


 スズナが皆に声をかけて元気づける。

 ルプラもだいぶん弱ってきた。これならいけそうだ。


「よし! みんな! 首を狙うよ!」

「了解!」


 リリコの号令でサクラ達が斬込もうとした時だ。


 ルプラが咆哮した。


「ギガガガアアアアアー」


 その異様な咆哮にサクラ達は恐怖を覚え、その場に立ち止まり動けなくなる。

 すると思ってもいないことが起った。

 ルプラの角が1本増え、伸び始めたのだ。それと同時に妖力も急激に膨れ上がった。


「!」


 天宮と担任が目を見開き驚愕する。


「どういうことだ……ルプラが覚醒だと?」

「あり得ない」


 そして皮がメリメリと剥がれるように捲れていき、中から仁王立ちの妖獣が現れた。そしてその頭には角が2本あった。天宮はそれを見て叫ぶ。


「みんな、部屋から待避!」

「え?」


 サクラ達は意味が分からずにその場に立ち尽くす。天宮は無線で連絡する。


「こちら天宮。緊急事態。ルプラが覚醒! レベル5に変化した! 学生では無理だ。応援頼む」

「!」

 

 サクラ達はその言葉に息を呑む。


「レベル5って……」


 天宮はルプラを見て違和感を覚える。


 ――なんだ、レベル5にしては妖力が強すぎないか。


 そこへ近衛部隊の者5人がやってきた。天宮はすぐに命令をする。


「学生を非難させろ!」

「はっ!」


 同時に担任もサクラ達に叫ぶ。


「みんな、部屋から待避!」

「サクラ、行こ!」


 スズナが声をかけるが、サクラは頭を押さえて動こうとしない。


「どうしたの?」

「ちょっと調子悪くて……」


 スズナはサクラの額に手をあてる。


「すごい熱じゃない! 歩ける?」

「あ、うん、なんとか……」


 どうにかだるくて重い体を振るい立たせる。幸いルプラはまだ動こうとはせず下を向いている。避難するなら今のうちだと歩き出したその時だ。いきなり爆発的な妖力がルプラから放たれ、そこにいた者達全員が驚愕し動きを止めルプラへ視線を向ける。

 天宮と担任、近衛部隊は皆いっせいに戦闘態勢に入る。だがサクラ達学生はあまりの恐怖で金縛りのように体が硬直し動くことが出来なかった。

 するとルプラが顔を天井に向けてしゃべった。


「ふう。やっと覚醒できた」

「!」


 それに天宮は目を瞠る。


 ――しゃべるだと! そんなバカなことがあるか! 覚醒した場合2ランク上がるとしてもレベル5のはずだ。だがしゃべるとなると話は別だ。レベル8以上だ!


 天宮は腰から剣を取り出し、周りを見る。サクラ達はやはり恐怖のあまり動くことが出来ない。天宮は叫ぶ。


「近衛部隊! 今すぐ生徒全員を避難させろ! 急げ!」


 天宮の命令に近衛部隊達はそれぞれ生徒1人ずつに1人が寄り添い部屋の外へと誘導する。

 出口近くにいたキリとリリコ、フウカがすぐに外へと出され、一番奥にいたサクラとスズナも近衛部隊に誘導され出口へと壁伝いに向かう。

 だがルプラが動いた。魔法をサクラ達目がけて繰り出したのだ。それを近衛部隊が結界を張り防御する。天宮はすぐにサクラ達に駆け寄り守るように前にたつ。


「早く!」

「はい!」


 だがサクラの体が傾いた。熱が上がったのだ。恐怖も相まって動けなくなり膝をつく。


「サクラ! 大丈夫?」


 スズナがサクラの肩を抱き叫ぶ。だが隊員がスズナの肩を持ちサクラから離れさせる。


「君だけまず外へ!」

「で、でも」

「大丈夫。その子も他の隊員がすぐに運ぶ」

「は、はい! サクラ、後で」

「う、うん……」


 スズナと隊員はすぐさま走って外へと向かった。残されたサクラを違う隊員が「立てるか?」と声をかけ、抱き起こし肩をもたれ出口へと向かう。後少しで出口という時だ。ルプラが2本の角から電撃を天宮とサクラ達へと放った。


「!」


 天宮は結界を張り防御する。どうにか直接のダメージは防げたが、少し痺れが残り膝を突く。


 ――これほどの威力とは……。2人は無事か?


 サクラ達が気になり見れば、サクラを抱き上げていた隊員はモロに食らい意識を失い、サクラも倒れていた。


 ――くそ! 今の電撃では、近衛部隊は耐電用の服装だからいいが、九條はモロに受けてしまった。あれでは即死だ。


 ぐっと歯噛みする。だがすぐに目の前の光景に驚き目を見開く。サクラが起き上がったのだ。








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