第28話 特別授業①



 ファルコ軍事学校の広大な校内には、3つの対妖獣戦用の大きなドーム型の建物があり、『第一倉庫』『第二倉庫』『第三倉庫』と読んでいる。

 その三棟には、強さが違う妖獣が中にいる。一番簡単な初心者用の妖獣がいるのが第一倉庫だ。だいたいが、第一倉庫は1年生、第二倉庫が2年生、第三倉庫が3年生が使うことになっていた。


 第二倉庫に入るには、三重にも及ぶドアをくぐり抜け中に入る。第二倉庫ヘ来るのは2年生は初めてだ。今までは第一倉庫を使っていたからだ。


 みなどこか緊張した趣で中を見渡しながら廊下を歩く。

 中は真ん中の廊下を挟んで左右に部屋があり、ガラス張りになっていた。ガラス張りを覗くと、そこは地下3階が望め、50メートル四方のコンクリートで囲まれた空間があった。廊下の突き当たりにも部屋があり、まずそこで話を聞くことになっていた。

 部屋の中に入ると、まず扉の周り――部屋の後ろあたる場所に、何人かの他の学年の教師が目に入る。見学だろうかと思いながら部屋の中へと進むと、ホワイトボードがある正面に、ずらっと横一列に並んでいる軍服を着た者達が目に入った。その中央で一際輝いて見える人物が伊集院ヤマトだとすぐに分かった。生徒全員その美しさに目を奪われる。


「きゃー。ヤマト様だ」

「きゃー! 素敵ー!」


 女性生徒から黄色い声援が飛び、アイドルにでも会ったような感じになった。

 これは仕方ないことだ。皇族は見た目もそうだが、皇族特有の中から湧き出るオーラと匂いがこの世界のあやかしすべてを魅了するようになっていた。特に妖力が低い方ほどそれが強く作用する。皇帝や皇太子になるとその力は壮大なため、妖力が低い者はその場にひれ伏してしまうくらいだ。

 ヤマトは前皇帝の弟の息子のため、ひれ伏すまでのことはないが、容姿が良すぎるため、女性はみんな目を奪われてしまっていた。


「こら! さわぐんじゃない!」


 教師達は、騒ぎだした生徒を注意し静かにさせる。そして生徒が全員整列してから担任がまずヤマトを紹介した。


「知ってる者もいると思うが、こちらが皇族の伊集院ヤマト様だ。挨拶!」


 生徒は一斉に「よろしくお願いします」と頭を深々と下げる。


「伊集院ヤマトです。2年生の皆さんとは初めてですね。よろしく。今日は珍しく実践練習ということらしいので、僕も少しお手伝いしようと思って、僕の専属護衛の者達も手伝ってもらおうと連れてきました」


 そう言って横に並ぶ軍服を来た人達へと視線を移す。


「今日は6人連れてきたからグループごとに一人付いてもらってしようと思っています」


 生徒は、目の前の軍服を着た護衛の者に釘付けになる。その格好は普通の軍服ではない。軍の中でも一部の者しか着れない黒とグレーを基調とした軍服を纏っていたからだ。

 この者達を『近衛部隊』と言い、皇帝や皇族専門部隊で、選りすぐれたエリートばかりで、軍人の最終目標がこの近衛部隊と言われているぐらいだ。

 そんなエリート部隊から教わることが出来ることはとても珍しく、まずあり得ないのだ。だからいつもより教師の数が多いのだと得心がいく。教師達も軍人だ。軍人となれば近衛部隊は憧れの存在なのだ。それに滅多にお目にかかることはない。そのためほとんどの教師がこの場所に集まっていた。


「なんかこの時間、1年生と3年生は自習らしいよ」


 スズナがささやく。サクラはそこであることに気づく。


「西園寺先生はいないんだね」

「ほんとだ。まああの先生ならあり得るわ。興味なさそうだもん」

「確かに」


 その後日程の説明と注意事項などの説明があり、クラスで1グループ5、6人ほどの12のグループに妖力の強さ別に分けられた。

 そしてサクラは妖力は普通以下だったため、妖力の低い者達と組まされた。その中にスズナもいた。


「サクラさんと一緒のグループになるなんて思わなかったです」


 一人の女子生徒山林フウカが言う。1年生の時はクラスが違っていたため、サクラのことをあまり知らないようだ。


「私、名前だけだから。妖力あまりないんだ。あ、敬語いらないからー。同い年だし」

「いいんですか? でも十家門の人とは、失礼にあたるから話すのはやめなさいって親から言われてて……」


 まあ素直というか、言わなくていいことを言う子だなとサクラは内心思いながら言う。


「ぜんぜん、私そういうの気にしないから」

「そうそう。サクラはちょっと変わった十家門だから。気にしなくていいわよ。あ、私奥村スズナ、よろしくね」

「あ、はい。私、山林フウカと言います」


 その話を聞いていた同じグループの女性2人も自己紹介する。


「私は、川沼リリコです」

「私は、田辺キリです」


 そこでサクラ達は笑う。


「なんか妖力で分けられたから私達だけ女子ばっかりだね」

「ほんと、そうなるよね。やっぱり男子のほうが妖力強いもんね。こんなので戦えるのかなー」


 スズナが疑問を口にする。


「もしかして私達、見学じゃない? 死んじゃうもん」

「それならそのほうがいいよね」


 すると近衛部隊1人と担任がやって来た。


「見学はないぞー。このグループを担当する近衛部隊隊長天宮だ。よろしくな」


 サクラ達は「えー!」と驚く。まさか隊長がうちのグループに来るとは思わなかったのだ。


「あの、こんな弱いグループに隊長の方が来ていいのでしょうか?」


 サクラが恐る恐る訪ねると、天宮は笑う。


「だからだよ。君達が一番危ないからね」

「あー確かに……」


 練習と言っても相手は妖獣だ。手加減しないのだ。だから一番弱いサクラ達のグループに天宮が配置されたということらしい。


「この倉庫のレベルなら死ぬことはないが、怪我をすることはある。怪我はある程度は仕方ないが、君達のレベルではちょっと怪しいからね」


 言外にここの妖獣は君達では無理だと言われているわけで、サクラ達は苦笑するしかない。


「私達では無理だもんね」


 リリコが肩を窄めながら言うと、サクラ達はうんうんと頷く。


「強さで分けてほしくないよねー」

「ほんとに」


 スズナとキリが言うと天宮が苦笑する。


「その方がいいだろうが、そうなれば力が弱い者はただ強い者に助けてもらうだけで何も対処をしないだろ? それでは練習にはならない。いつ自分1人で闘わなくてはならない状況になるか分からない。そのためのこれは練習なんだ」


 確かにそうだと、自分達の浅はかな考えに恥ずかしくなりスズナ達は黙る。すると担任が笑う。


「まあ、近衛部隊の隊長に教えてもらうことなんて普通ないんだ。有り難く思え。たぶん見学をしている先生達はお前達が羨ましくて仕方ないと思っているぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。軍で言えばトップの実力の持ち主だからな」

「褒めすぎだ。私はそこまで凄くないよ」

「天宮隊長、それは軍の者全員から文句がでますよ。あなたの実力はトップクラスです」

「はは。では有り難く思うことにしよう」


 サクラ達はそんな話を聞いて、やぱりこの人は凄い人なんだと改めて思うのだった。


「では、そろそろ始めましょうか」


 ヤマトの号令でそれぞれグループに分かれて地下5階へと下りて、入った時に見たガラス張りの部屋へと移動する。そして左右2つに分かれた部屋へ6グループずつ別れる。部屋の中は上から見たのと同じコンクリートのみで作られただだっ広い部屋になっていた。相当分厚いコンクリ-トで作られているらしく、大砲でもこの壁は打ち砕けないらしい。対妖獣対策のようだ。


 中に入ると、6グループが所定の四角に仕切られた線の中に立つ。すると、床から壁が現れ、部屋を6等分に仕切られた。

 それぞれの壁側にある扉がゆっくり開かれ柵が現れる。そこから妖獣が放たれる仕組みだ。


「今回の妖獣のレベルは3だ。飛びものを吐く妖獣だ」


 扉から檻に入った妖獣が現れる。練習用の妖獣はだいたいが動物系の意識を持たない低レベルのことが多い。今回も4本足で歩く動物系の妖獣がそれぞれ用意されていた。


「では、それぞれどのように倒すのか講師の者の言うことを聞き、対処するように」


 ヤマトがマイクで説明し終わったのが合図だった。

 それぞれの実践練習が始まった。



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