第27話 皇族と階級
字の通り「院」の字がある皇族の者だ。前皇帝の弟の息子にあたる。1ヶ月に数度軍事学校に特別講師としてやって来ていた。
見た目は、皇族特有の透明感があり、容姿端麗、すべてにおいて美しく、目も皇族特有のとても綺麗なエメラルド色をしていて上品な装いだ。そして妖術に長けている。どこをとっても非の打ち所がないのが皇族だ。
そのため女子生徒から絶大の人気を誇る。女性だけではない。男性も憧れと尊敬から敬意をはらっている。皇族特有の妖力がこの国に住む
サクラが教室に入り、窓際の後ろから2番目の自分の席につき鞄を下ろすと、友達の奥村スズナが声をかけてきた。
「サクラー、おはよ!」
「おはよスズナ」
「今日だね。ヤマト様の授業」
「うん。楽しみだよね!」
2人とも、アイドルに会いに行くファンのテンションだ。
「やっとヤマト様の授業が受けられるのねー。これをどれほど待ったか! 1年生の時は授業受けれなかったからさー。ただ遠くからお姿を拝見するだけだったからなー」
スズナはサクラの前の席に座り後ろを向き、机に両手で頬杖をつき目をハートにする。
ヤマトの授業は2年生からだが、ヤマトの姿は学校では見ることはあった。3年生も授業があるため、月3回は学校にやって来ていたのだ。その時にサクラ達は、ヤマトの姿を見てはしゃいでいたのだ。
「スズナ、ほんと、ヤマト様好きだよねー」
「当たり前じゃない。あんな綺麗な男性、どこ探してもいないわよ!」
「確かに綺麗な顔してるよねー。さすが皇族」
「あー、ヤマト様と両思いになる人ってどんな人なのかなー」
「そりゃ皇族出のお嬢様でしょ」
「やっぱりそうだよねー。私じゃだめかなー」
すると話を聞いていた隣りの席の男子生徒、星崎ケントが話に入って来た。
「奥村じゃ無理に決まってるだろ」
「なによケント、そんなのわからないじゃない!」
スズナはケントに食ってかかる。そんなスズナにケントは頬杖を付き鼻で笑う。
「ふん! 相手は皇族だぞ。まだ九條ならまだしも、俺ら一般人は論外だよ」
「別に私も相手にされないわよ」
サクラが言うと、分かってないなとケントは目を細めてサクラを見る。
「九條、自覚したほうがいいぞ。十家門はお前が思っているほど位は低くない。普通なら俺らがこうやって話すことだって社会じゃ許されないことなんだ」
「社会はそうかもだけど、学校では関係ないじゃない」
「お前がそう言うけど現実は違う。まだ俺の家の階級は
「……」
この世界では、妖力で階級が決められている。
皇帝・皇族・十家門・上級・中級・下級に別れ、上級と中級の中でも上・中・下に別れている。そして十家門の者に話せるのは上級までの者と決まっていた。
「そうだけど……私は力も何もないから。ただその家の娘ということだけだし」
「九條はいつもそう言うけど、ほとんどのやつが家柄第一なんだよ。なりたくてもなれないんだ。あまりそういうこと他のやつの前では言うなよ。ただの嫌みにしか聞こえねえから」
「――」
するとスズナが暗くなった空気を明るくするようにトーンを上げて言う。
「ってことはさー。サクラは十家門だからヤマト様と結婚出来るってことだよねー」
「え?」
「だってそうでしょ。皇族と結婚出来るのは上級ランクの
するとケントも頷く。
「そうだな。九條は出来るな」
「えー!」
ヤマトを思いだし真っ赤になる。あんなイケメンが旦那様なら気を使ってしょうがないように思える。
「ちょっと、何赤くなってるのよ! サクラには一條君がいるでしょ」
「あ、そうか」
あまりにも昔からの決まり事のため、ただの肩書きのようなものになっていた。そこでケントが尋ねる。
「そういえば一條ナギが学校来ているんだよな?」
「うん」
「引き籠もりからよく立ち直ったな」
「ま、まあね……」
そりゃそうだ、別人なんだからと苦笑して応える。
「でもよかったな」
「え?」
「だってよー。あのまま引き籠もりだったらお前がずっと悪く言われ続けるわけだろ?」
「……」
ユウリが引き籠もった中学の時からナギが学校に来るまで、ずっと十家門の親子から嫌みを言われ続けてきていたのだ。ユウリの父親のユウケイには言えないため、十家門の中でも下から2番目の九條家の一條家の許嫁の出来損ないの娘なら何を言ってもいいだろうという考えからだ。
「でもちゃんとサクラは言い返してたわよ!」
スズナが援護するが、それをケントは「お前は分かってないんだよ」と言い返す。
「九條が言い返していたのは生徒だけだ。親から言われた時はずっとこいつ謝ってるんだよ」
「ケント?」
サクラは驚きケントを見る。
「俺、去年の授業参観の日、お前と十家門の親が話しているの聞いたんだよ」
「そっか……」
「どういうこと?」
スズカが怪訝な顔を向ける。
「こいつ、十家門の親達に囲まれて、ずっと嫌みを言われていたんだ。その間ずっとこいつはすみませんと謝ってたんだよ」
ケントは目を眇めてサクラを見て言う。サクラはただ罰が悪そうに苦笑するしかできない。まさかケントにあの時のことを見られているとは思いもしなかった。
「まあ仕方ないけどな。お前があそこで反論したらお前の親父が何言われるか分からないからな」
サクラの父親は温厚な性格で真面目な人物だ。だからか父親もよく嫌みを言われていると聞いたことがあった。だからこれ以上自分のことで言われるのはサクラには耐えがたいことだったのだ。
「でもやっと一條ナギが学校に来るようになったんだ。よかったな」
ケントはそう言って微笑む。理由はともあれ、学校に通ってくれていることは嬉しいのは確かだ。
「うん!」
サクラは思いっきり笑顔で返事をした。
そこで始まりのチャイムが鳴る。すると担任がやって来た。生徒は立ち上がり一斉に挨拶する。
「おはようございます!」
「おはよう! 元気かー? 今日は待ちに待ったヤマト様の授業だ。喜べー! 皆には言ってなかったが、今日は第二倉庫での授業だ。みんな今すぐ移動だー!」
「第二倉庫ってことは、ド初っ端から実践練習かよ」
「そうみたいだな」
皆それぞれ口にしながら教室を出て行く。
サクラとスズカも皆に続きながら話す。
「実践練習かー。やだなー」
「私もー」
「サクラも私と一緒で妖力少ないもんねー」
「うん。何故か私だけ出来損ないなんだよねー」
兄も姉も妖力は強い。父の力を受け継いでいたが、サクラだけが妖力が一般並みもしくはそれ以下なのだ。
「でもそれなのに一條家がサクラをもらってくれたんだからいいじゃない」
「う、うん」
確かにそれは前々から疑問に思っていた。なぜ妖力がない自分を一條家は選んでくれたのか。父親同士が親友だからという話だが、それなら姉のアヤメでもよかったのではないのかと思う。ただアヤメとは7つ離れているため、もしナギと結婚となると8つも年上の姉さん女房になるのだ。だがそんなことはよくあることだ。そこが問題ではなかったのだろう。
――まあ、ユウリが相手では、お姉ちゃんが嫌がったという線が濃厚よね。
双子の姉は昔からユウリのことを弱虫ぼっちゃんとバカにしていた。弱い男が大っ嫌いだからなのだが。
――もしお姉ちゃんに決まっていても、お姉ちゃんのことだ、きっぱり断るだろうな。
サクラの兄フジと姉アヤメは双子の
だから小さい頃よく
――あれじゃあお姉ちゃんは嫌がるわよね。
クスッと笑う。
「サクラ? 何笑ってるの?」
「え? いや、なんでもない」
サクラは首を横に振り誤魔化した。
――それにしても、やっぱりだるいな。
朝からのだるさがどうしても抜けない。だが休むつもりはない。待ちに待ったヤマトの授業なのだ。
――気合いでだるさを吹き飛ばす!
自分に言い聞かせ、気持ちを振るい立たせるのだった。
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