第三章
第26話 妖世界の階級と皇族
ナギが来て3週間が過ぎた。
学校は毎日通っている。サクラも毎日のように朝、ナギを迎えに来ては一緒に学校へと行っていた。
「サクラ、別に迎えに来なくても一人で行けるぞ」
「そ、そうだよね。どうも癖で」
そう苦笑するサクラにナギは眉を潜める。
「サクラ、どこか悪いか?」
「え? なんで?」
「いや。なんかいつもと違う感じがするのだが」
「別にどこも悪くないわ。いつもと同じよ」
「そうか。ならいいが」
そんなナギにサクラは笑う。この3週間の間で大分ナギという人物が分かってきた。最初の印象から傲慢な人間なのかと思いきや、まったく違った。けっこう人をよく見ている。元王子であり軍人でもあったからか、少しでも怪しい人間がいないか観察するのが癖になっているようだ。それに相手の考えをけっこう尊重する。言いなりというわけではなく、まず相手の話を最後まで聞き、自分の考えが正しいと思えばはっきり伝えている感じだ。そして何より優しい。今もそうだ。サクラの体調を気にして声をかけてくれる。
「ナギって優しいよね」
「そうか?」
本人には自覚はないらしい。だとすれば顔に似会わずお人好しだ。
「最初はすごい傲慢で威張った人なのかと思ったけど、けっこう周りをよく見てるし、優しいとこあるんだなーって」
「気のせいだろ。別に俺は優しくない」
そう言いながら目線を外し、少し耳を赤くしている。褒めると見た目と違って照れるみたいだ。そんなナギを見てサクラはクスッと笑う。
「かわいい。照れてる」
「は?」
反論しようとした時だ。
「ナギ君! おはよう」
後ろから声をかけられた。見れば同じクラスで前の席の
「おう。チハルか。おはよう」
「サクラさんもおはようございます」
「おはようチハル君」
そしてチハルはナギの横に来ると嬉しそうに話をしながらナギと歩き始めた。それを少し後ろから見ながらサクラは微笑む。
――チハル君、嬉しそう。
チハルはこの2週間でナギが友達になった最初の子だ。そしてチハルにとってもナギが唯一の友達でもある。
チハルの家の階級は一番下の階級だ。苗字で階級はすぐに分かるようになっている。
この世界では皇帝・皇族は別として、妖力の強さによって階級が決められている。
上から、十家門・上級・中級・下級に別れ、上級・中級は、その中でも上・中・下に別れている。
そして皇族の苗字には『院』が使われ、十家門には順位の数字と『條』が使われ、すぐに分かるようになっていた。
だからナギの苗字は『一條』だが本当の苗字ではない。本当の苗字は別に存在する。あまりに昔の話なので、ユウリも本当の苗字を知らないためナギも分からない。
そして一番下の階級のみ分かるように、『草、雑、土、沼、枯』等、あまり良い印象を持たない漢字が使われている。もし妖力が増え、国に貢献すれば新しい苗字がもらえ、一番下の階級から抜け出せるため親達は子供に期待するようだ。
チハルも親の大きな期待を背負って軍事学校に入った口だ。しかし現実はそう甘くなかった。やはり苗字から階級がばれ、下級のチハルと友達になる者はおらず、面と向かって苛められたり蔑まされたりする者はいなかったが、陰で言われたりはしていた。
これからの軍事学校生活3年間、友達も出来ずにずっと1人で過ごしていくのかと不安を感じていた矢先、ナギが現れ友達になってくれた。
そして、チハルの階級を気にして苛められていないかと「チハル、何か言われてないか?」とナギはいつも会うと最初にそう言って声をかけてくれる。それがチハルは何より嬉しかった。だから絶対にナギのために将来尽くそうとまで思うようになっていた。
「ナギ君に一生ついていくから」
つい思っていたことを口にしてしまえば、案の定、サクラは驚き、ナギは苦虫をかみつぶしたような顔をチハルに向ける。
「は? お前何いきなり訳の分からないこと言ってるんだ?」
「将来の話だよ」
「将来?」
「うん。だってナギ君は将来軍のトップになるでしょ? だから僕はナギ君の下で働きたいんだ」
「おまえなー。いつどうなるか分からないんだ。そんな確証もないことを今決めるんじゃない」
「いいんだ。僕は君についていくって決めたんだから」
チハルは一歩も引かないと言い切る。そんなチハルにさも嫌そうにナギはため息をついた。
「やめてくれ」
最後のディークの言葉と顔がナギの脳裏に浮かぶ。
『私は、ナギ様を慕って一生あなたに仕える覚悟でここまでついてきました。それをいとも簡単に見捨てるのですね……』
そう言って悲しそうな顔を向けたディーク。あの顔は二度と見たくない。
「その後に裏切られた時のショックは大きいと思うぞ」
意味ありげに言うナギにチハルは訊ねる。
「ナギ君は裏切らないでしょ」
「買いかぶり過ぎだ。俺だって裏切ることもある」
ナギの思い詰めた言い方に、何かあったのだろうかとサクラは目を細める。だがチハルはそのことには気付かない。そして嬉しそうに言う。
「でも僕はそう決めたんだ」
これ以上言っても無理だと悟ったナギは嘆息する。
「勝手にしろ」
「うん!」
サクラと別れた後、ナギとチハルは自分の教室の入り口で担任のミカゲとばったり会う。ミカゲはナギを見て笑顔を見せる。
「お! ナギ、今日もちゃんと来てるなー」
「当たり前だ」
「偉い偉い」
そう言いながらナギの肩を抱き耳元でナギだけに聞こえるように言う。
「チハルのためだろ」
「――」
「あとはサクラか?」
「うるさい。ミカゲ」
ミカゲはナギから離れるとにぃっと笑う。
「まあ学校にくるなら俺は何でもいいけどなー」
「……」
――ほんと、勘がいいやつはやりにくい。
と、心の中でぼやきながらナギはミカゲに訊ねる。
「ミカゲ、今日は誰か偉い人でも来ているのか? いつもより学校の警備の数が多いようだが」
校門からここに来るまでに思ったことだ。
「よく見ているな。そうだ。今日は皇族の伊集院ヤマト様が来ているからなー」
「伊集院ヤマト様?」
「ああ。皇族だ。前皇帝の弟の息子にあたる。1ヶ月に1度軍事学校に特別講師として来ているんだよ」
「皇族なのに戦えるんだな」
「男性皇族はけっこう戦闘に長けているんだよ。妖力が強いからな。まあヤマト様は、皇位継承順位第二位だけあり、皇帝になるための必要な素質すべてを持ち合わせている感じだな」
ナギは意味が分からずに眉を潜める。皇族関係の情報はユウリは持ち合わせていないようだ。
「必要な素質とは?」
「皇族継承順位第一位の者、
皇族という者は、一般人とは違う人種のようだとナギは感じた。そこでどんな者なのか興味が沸く。
「一度会ってみたいな」
「一條家のおまえはそのうち会えるだろうよ。授業を受けれるのは2年生からだけどな。さあ教室に入れ」
ミカゲはそう言って教室に入る。
「じゃあ楽しみにしておきますか」
ぼそっと呟きながらミカゲの後に続くナギに苦笑しながらチハルも後に続くのだった。
サクラはナギ達と別れて自分のクラスへと行く途中立ち止まり壁に手をつく。
――やっぱりだるいな。
朝起きた時から調子が悪い。まさかナギに指摘されるとは思わなかった。ばれないように普段通りに振る舞っていたはずだった。だがナギにはばれた。やはり何か違ったのだろうか。だが否定したらそれ以降は何も言われなかった。たまたまだったのだろう。
でも今日はどうしても学校を休めない理由があった。
「今日は月1回の伊集院ヤマト様の特別授業があるんだから!」
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