第15話 チーム『ウエスト』②




 「妖王あやかしおう」とはなんだとすぐにユウリの記憶を辿る。小学校の時に読んだ本のようだ。

 題名は、『白と黒の妖王あやかしおう



             ◇



 大昔、容姿も性格も正反対の双子の男性がいた。


 その2人の名前を白銀しろがね黒銀くろがねと言った。


 白銀しろがねは争いを好まず平和を愛し、慈悲深い男だった。そして黒銀くろがねは、白銀しろがねとは真逆の、争いを好み、強者主義者の暴虐者で、気に入らない者はその手で殺める、どうしようもない男だった。


 黒銀くろがねの許しがたい言動は、日に日に酷くなっていき、皇帝をも手にかけようとするようになっていった。

 そんな黒銀くろがねを危惧した国は、黒銀くろがねの抹殺を決定した。


 その役目を担ったのが、もう一人の双子の白銀しろがねだった。


 今までの黒銀くろがねの言動を良く思っていなかった白銀しろがねは、その役目を承諾した。


 そして2人は戦い、死闘の末、白銀しろがね黒銀くろがねを倒した。


 その後白銀しろがねは、黒銀くろがねが身内ということから十家門には入れなかったが、最期まで皇帝に仕えたのだった。



             ◇



 ユウリが小学生の時の記憶のため、詳しいことは分からないが、その白銀しろがねの子孫がソラのようだ。


「作り話かと思っていた」


 実際にユウリもそう思っていた。

 するとソラが付け加える。


「本の話は作り話だと思うけどね。一応実在した人物で、母がその末裔で、少し妖力が多いというだけさ。それに恐怖に陥れたってコウメイ先輩は言うけど、ただちょっと意識操作しただけだよ」

「意識操作?」

「うん。ただ1日ほど幻影を見せただけ。理不尽な嫌がらせをされたからね」


 涼しい顔で言うソラに、ナギは目を細める。


「嫌がらせって何されたんだ?」

「普通はレベル1ぐらいの妖獣を退治するのが俺ら学生の仕事なのに、その時の軍のやつらは俺とサクラにレベル7の妖獣を退治しろと言ってきたんだ」

「妖獣?」


 ナギは首を傾げる。敵国のガーゼラ人は知っているが、妖獣とはなんだ?


「え? ナギは知らないのか?」


 普通は知っている感じの言い方だ。ユウリも知らないということは理由は1つ。


「ずっと引きこ――家にいたし、父親ともほとんど話したことがないからな」

「あ、そうか。なら知らないか」


 それでコウメイ達は納得したようだ。


「妖獣とは、妖力を操る獣のことだ。森奥によく生息している。まあ軍が廃除してるから俺ら一般人が住んでいるエリアにはやってこないけどな。その妖獣を廃除するついでに訓練の相手に使ってるんだよ。で、その強さによってレベルが付けられてるってやつだ」


 そして妖獣エリアという地区があり、そのエリアは立ち入り禁止の禁断地区になっているということらしい。


「その後ソラとサクラはどうなったんだ?」

「倒したよ」

「ほんと、後から聞いて驚いたぜ。レベル7の妖獣は、軍のやつら数人で倒すのが一般的な強い妖獣なのに、それをソラ1人で倒しちまったんだからな」


 コウメイが苦笑しながら言うと、ソラはちょっとムッとして言う。


「ちょっと腹たってたからね」

「腹立てたからって倒せる相手じゃないと思うけどな」

「ほんと、そうよね」


 コウメイとエリカは苦笑する。


「なんでそうなったんだ?」


 まったく意味が分からない。するとエリカが説明する。


「普通は私達学生はチームで行動するのが決まりなのよ。それを去年チームを組んだ軍の人達は私達を二手に分かれさせたの。それも1年だったソラ君とサクラさんを組ませて。どうみてもあれはわざと弱い1年生を組ませた感じね」

「だな。だから俺は俺とソラを代えてくれと頼んだ。だが受け入れてもらえなかった」

「そしてその後、ソラ君とサクラさんは軍の人に言われて2人である場所に行けと言われて言ったのよ。そこで現れたのがレベル7の蛇の妖獣だったの」

「どう見てもわざとソラ達をその場に送り込んだとしかありえねえ」


 確かにそうだろうと説明を聞いたナギも思う。だが少し間違えれば命に関わる問題だったはずだ。もし危なかった時は助ける算段だったのだろうが。それにしては浅はかな計画だとナギは呆れ返る。

 すると今まで黙っていたサクラが口を開く。


「そこで私、弱いから捕まっちゃって気を失ってしまったの。で、気づいたらソラに助けてもらったってやつ。ほんとあの時はありがと」


 申し訳ないという表情でサクラは言うとソラは笑顔を向ける。


「前も言ったが、サクラは悪くないから気にしなくていいよ」

「そうだ。サクラ。悪いのは軍のやつらでお前はまったく悪くない。だから気にするな」


 コウメイも腕組みしながら頷き、そしてナギを見て言う。


「まあそういうことが去年あったって話だ」


 そこでナギは気になったことをソラに訊く。


「ソラはどうやってレベル7の妖獣を倒したんだ?」

「あまり覚えてないんだ。必死だったからね」


 笑顔で応えるソラはどう見ても嘘を言っている顔だ。言いたくないのだろう。だからそれ以上追求するのを止める。誰しも言いたくないことはあるものだ。それよりもナギは気になることがあった。だがこれも今言うことではないと結論づける。


 変な間が空いたことで、エリカが気を利かせ話を戻した。


「じゃあ本題に戻すわね。今回の合同練習も去年と同じ妖獣の駆除よ。私達のチームが担当する場所はG地区の森林地帯。比較的低いレベルの妖獣がいる所ね」


 妖獣のレベルも10段階あり、その上が特級クラスの一括りになるようだ。

 そこでナギはある事が気になった。


「ガーゼラ国との戦闘は大丈夫なのか?」


 確か今もガーゼラ国と戦闘が続いているはずだ。妖獣駆除をしている場合ではないのではないのか。


「ガーゼラ国との戦闘は、1軍と2軍の者が担当だ。俺ら学校のやつと訓練するのは、その下の3軍のメンバーだ。まあ要は、ちょっと前に軍に入った、まだ新しい経験が少ない者ばかりというやつだ」


 だから嫌がらせがあるのかと納得する。

 そしてエリカが締めた。


「じゃあ今日はここまでにしましょう。また追って連絡が入ると思うから」


 そしてナギに取ってのチーム『ウエスト』の初のミーティングは終わった。








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