第14話 チーム『ウエスト』①



 ナギとサクラがチーム『ウエスト』の部屋に来ると、皆待ってましたと笑顔を向けた。


「遅かったな」


 3年の六條ろくじょうコウメイが声をかけてきた。サクラが泣いていたからとは言えないために「ミカゲと長引いた」に留めた。

 すると1人の女性がナギの前に来る。


「初めまして一條ナギ君。3年の五條ごじょうエリカです。よろしくね」


 シルキーベージュのウェーブがかった胸当たりまで伸びた髪が印象的な、女優、モデルと言っても通る美人だ。


「よろしく」

「エリカさんは生徒会長もしているのよ」


 サクラがそっと付け加える。


「へえ。凄いな」

十家門じゅっかもんだからよ。何も凄くないわ」


 エリカの説明によると、生徒会長は3年の十家門の者が優先にすることになっているらしく、毎年『ウエスト』と『イースト』交互に生徒会長を立てているということだ。


「ナギ、部屋の説明するからこっちに来てくれ」


 コウメイがナギを連れて部屋の奥へと行く。するとエリカがサクラに小さい声で話しかけてきた。


「サクラさん、なんかあった?」

「え?」

「目が腫れぼったいから。泣いたの?」

「あ、こ、これは何でもないです」


 サクラは手をバタバタして言う。さっきナギの胸で思いっきり泣いたためだ。今思えば抱きしめられて胸の中で大泣きしたことに恥ずかしさが蘇る。


「もしかして一條君と喧嘩でもしたの?」

「え? あ、ち、違います!」


 真っ赤になって言うサクラにエリカは目を瞬かせ、そして薄いピンク色の整った唇の両端を上げる。


「じゃあ、慰めてもらったのね」


 サクラの顔がさらに真っ赤になったのが何よりも証拠だった。エリカはふっと笑う。


「要らない心配だったわね。ごめんなさい」

「ち、違うんです! そういうのじゃ!」

「ふふ。別におかしいことじゃないわ。許嫁なんですもの。それにしても相思相愛でよかったわ」


 エリカはそう言うと踵を返し部屋の奥へと行く。その後ろ姿を見て、


「そんなんじゃ……ないんですけど……」


 と呟き、少し前のことを思い出す。



 サクラは思いっきりナギの胸で泣いた。だが泣いたらとてもすっきりした自分がいた。


「ごめん、ナギの制服汚しちゃった」

「気にするな」


 ナギは微笑むと、何事もなかったように歩き出そうとしたのをサクラは呼び止める。


「ナギ」

「ん? どうした?」


 ナギは歩みを止め振り返る。


「今泣いちゃったけど、これで良かったのだと思ってる」


 強がりで言っているわけではない。ナギに気を使っているわけでもない。

 もう一度考えても、ユウリに会えないのはとても悲しいが、でもやはり間違っているとは思えなかった。


 そんなサクラにナギは、ただ「そうか」とだけ応えた。


「私もナギに訊いていい?」

「ああ」

「ナギはこの世界に来てよかった?」


 ユウリのことも心配だったが、ナギのことも気になっていたことだ。もしかしたらナギは前の世界の方がいいのではないのか。帰りたいと思っているのではないのか。


 するとナギは腰に手をあて、少し目線を上に向けて考える。そして、


「まだ来たばかりだから分からないが、」


 と言って、サクラの頭に手を当てて顔を覗き込み微笑む。


「まあ、悪くないと思うぜ」

「!」


 その笑顔を見た時、サクラの胸が激しく跳ねた。



 その時のことを思い出しながらサクラは自分の頭を触る。やはり思い出すと気持ちは落ち着かない。


 ――あれは何も意味はないから! 気にしちゃだめ! ナギはどうせ向こうの世界で、いつも何人もの女性にしていたのよ! 


 そう自分で思ったことになぜかムッとする。そしてコウメイ達と雑談をしているナギを睨む。


 ――もしかして色々な女性と色々な経験があったのかな。


 そこでナギの周りに何人もの女性がナギにくっついている情景を想像する。そして眉根を寄せる。

 なぜか腹がたつ。

 ナギを睨んでいると、話が終わりサクラの方へと振り向いた。そして視線に気付きぎょっとする。


「サクラ? どうした?」


 なぜ睨まれているのか分からないナギはどう接していいか分からずにいると、


「べつに」


 とサクラはムッとしたまま自分の席につく。まったく意味がわからないナギだが、これ以上聞いてはいけないと直感で感じ、仕方なく黙ってその隣りに座った。


「じゃあ全員揃ったので、ミーティングを始めます」


 エリカが言う。


「ナギ君は初めてだから説明するわね。チーム『ウエスト』のメンバーは、リーダーの私、副リーダーの3年の六條コウメイ君。2年の三條ソラ君と、同じく2年の九條サクラさん、そして一條ナギ君の5人になるわ。そして不定期でこの場所でミーティングをしています。ここで話し合われる内容は、ほとんどがチームでする課題や試合の作戦ね。ここまで大丈夫かしら?」

「ああ」

「今日話すことは、もうすぐ行われる軍との合同練習の件です」

「合同練習?」

「ええ。半年に一度、軍と学校で練習があるのよ。軍は将来入ってくる予定の生徒を把握する目的、生徒側は軍の戦い方を学生の頃から学ぶのが目的ね」


 するとコウメイが大袈裟に溜息をつく。


あちらさんは、学生のうちから実践練習をして、軍に入ってすぐに戦力にしたいと言っているが、現実は俺ら十家門の者をいびりたいだけなんだよ」

「どういうことだ?」

「これは、唯一軍のやつらが身分関係なく俺ら十家門の者を苛めても何も言われないイベントなんだよ。だから毎年何かしら十家門おれらはあいつらに嫌がらせをされる。軍もそれを分かっていて黙認しているってやつだ」


 何かしら十家門の大人達に不満が溜まっているということなのだろう。


「確かに毎年何かしら私達十家門は嫌みや嫌がらせをされるわね。私達女性にはあまりないけど、特に男性には多いわね」


 エリカが苦笑しながら言うと、コウメイが付け加える。


「でも去年はサクラも巻き添えくったけどな」

「そうなのか?」


 ナギは隣りのサクラに訊くと、「うん」と頷く。


「だが、ソラがいけ好かない軍のやつらを懲らしめてくれたから、まあ去年はすっきりしたけどなー。よくやってくれたよソラ」


 コウメイはそう言って満足そうに笑う。


「なにがあったんだ?」

「ソラとサクラに嫌がらせをしようとした俺らと組んだ軍の者達全員を、ソラが恐怖に陥れ、数日間行動不能にしたんだ」

「軍のやつら全員をソラだけでか?」


 ナギは驚きソラを見て言えば、困った顔をして笑顔を見せているだけだ。代わりにコウメイが応える。


「ああ。そうだ。こいつの母親の家系が、妖王あやかしおう白銀しろがねの末裔だからな。それぐらい簡単だ」



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