第12話 伝統行事②
まずトウヤ達が動いた。一斉にナギとサクラに向かって妖力【火炎】を何発か放つ。だがナギはいくつもの魔法陣のシールドを自分とサクラに展開し飛んできた【火炎】をすべて弾く。
それを見たすべての者が驚き声を上げる。
「なんだあれは」
「魔法陣みたいだが、シールドか?」
「もしかして一條の特殊能力なのか?」
ミカゲも目の前で見て驚く。
――あれがあいつの特殊能力か。
「くそ!」
トウヤ達は今度は二手に分かれた。トウヤとユリコ、そしてヨースケが先ほどよりも大きい【火炎玉】を放ち、そしてカズキとリュウがナギへと木刀を繰り出し一気に間合いを詰めてきた。
だがナギは【火炎玉】をすべて魔法陣のシールドで防ぎ、サクラの腰を左腕で抱き、カズキとリュウの木刀の攻撃を後方に大きく飛び退き回避。
だがすぐに追いつかれた。
カズキがもの凄いスピードでナギ達の前まで来て木刀を振り下ろす。
「チッ!」
ナギはサクラを後ろに投げるように離し、斜め右から振り下ろしてきたカズキの攻撃を体を屈めて避けると、そのままカズキの懐に入り左手で胸ぐらを掴み床に叩き付ける。
「ぐが!」
ひるんだ隙にカズキの木刀を左手で奪うと、右手に持っていた自分の木刀でカズキの肩のマークを破壊。そして振り向きざま、超スピードでナギの頭を狙って木刀を振り下ろしてきたリュウの攻撃をカズキから奪った木刀を頭上に突き出し防御。
「なに!」
それに驚いたのはリュウとミカゲだ。
――リュウの攻撃を防いだだと?
そしてリュウの木刀を上に跳ね上げ、そのまま脇腹を狙って右手に持っていた自分の木刀を左一文字に振る。はいったと確信したのもつかの間、リュウは咄嗟に木刀の先を脇腹へと向け、ナギの木刀を防御した。
止められると思わなかったナギは目を見開き、そして笑みを浮かべる。
――止めたか。やるな。
だが間髪いれずにナギは、左足を繰り出し、リュウの右足目がけて足払いする。体勢が悪かったリュウはあっさり足をすくわれ転倒。すぐさまナギはリュウのマークに一発食らわし破壊した。
そしてそのまま一気にヨースケへと間合いを詰めると、二刀流のようにヨースケの腹と足に打撃を与え、ヨースケのマークも瞬時に破壊。
その後ろで恐怖に慄くユリコを睨み、手を翳し魔法を発動させユリコのマークもあっさり破壊した。
その時間1分もかからなかった。
「くそ!」
予想外の展開に、矜持を踏み躙らせられたトウヤは、柳眉と目をつり上げ叫ぶ。
「調子に乗るなー!」
トウヤは怒りで頭に血が上り冷静な判断を欠いたまま、両手を頭上に上げ、巨大な妖力の玉を展開させる。それを見たナギ、ミカゲ、教師達は驚き見る。
「おい! そんなもんここで放ったらどうなるか分かってるのか!」
ナギがトウヤへ叫ぶ。だがトウヤは冷めた目をナギに向けるだけで応えない。
「チッ! 犠牲が出てもいいって考えか」
舌打ちし、学生の試合の度を超えた妖力の玉を睨む。
魔法で弾くのは簡単だが、ここにいる生徒が巻き添えを喰らい、この競技場も吹っ飛ぶだろう。それは避けたい。
――だとすると、天井へ逃がすのが賢明か。怪我人が出るのはいたしかたない。死人が出るよりはマシだな。
瞬時に判断したナギが手に魔力を込めた時だ。
巨大な真っ白な狼が現れ、トウヤの頭上の巨大な玉を丸呑みし、そして消えた。
――あれはミカゲの狼!
見ればミカゲが手を上げていた。そして言う。
「そこまでだ!」
するとトウヤがミカゲに叫ぶ。
「何をする! まだ終わってないぞ!」
「アホ! 言ったはずだ。危険だと判断したら止めると!」
「――」
「トウヤ、お前分かってるのか! あんなもん放ったらここにいる生徒、何人の命がなくなると思ってる!」
「それは!」
「怒りにまかせてやるんじゃねえ! わかったか!」
ミカゲが真剣に怒っている。ミカゲの怒りで異常に膨れ上がった妖気に、トウヤはそれ以上何も言い返すことはしなかった。まあ今のミカゲに誰も逆らおうと思う者はいないだろう。最前線で戦ってきたナギでさえ避けたいと思うのだ。戦ったことがない学生が逆らえるわけがない。
「トウヤの違反でナギの勝ちだ。時間も来た。これで授業は終わりだ。解散! 全員クラスに戻れ!」
ミカゲの怖さを目の当たりにした生徒達はみな、バラバラと競技場を去って行く。
「ちっ! 今回は途中で邪魔が入ったからお前の勝ちにしてやる! 覚えとけ!」
そう言い放つとトウヤ達は競技場を後にした。残されたナギはボソッと呟く。
「いや。どう見てもあのままやってても俺の勝ちだろ」
するとミカゲがナギの頭をポコっとたたく。
「いてっ!」
「おまえもだナギ」
「なにがだ」
「なにがだじゃねえ! お前もトウヤの妖玉をそれ以上の威力の玉を当てて天井ぶち破ろうと思ってただろが!」
「あっ!」
ばれてたと罰が悪いと目をそらす。
「――ったく。それになんだ、あの戦い方は?」
「? 何か悪かったか?」
別に変なところはなかったはずだと眉を潜める。
「……まあいい。後で指導室に来い」
そう言うとミカゲは去って入った。
「なんだ? あいつ」
するとサクラが後ろから声をかけた。
「ナギ」
「ん? どうした? どこも怪我してないだろ?」
「うん。ありがとう」
「ああ」
すると後ろから声をかけられた。
「君、すごいな。さすが一條家」
誰だと振り向けば、ナギは初めて見る、ブロンズ色のショートボブの背の高い男性と、白銀色のさらさらのミディアムヘアーの男性がいた。
「俺は六條コウメイ、3年だ」
「初めまして。僕は三條ソラ。2年だ」
するとサクラが説明する。
「あ、コウメイ先輩とソラは私達のチーム『ウエスト』よ」
「一條ナギだ。よろしく」
一応あいさつをする。
「君、噂で聞いてた人物像と全然違うね。もっと気弱でどうしようもない出来損ないだと思ってたけど、違ったみたいだ」
無表情でズケズケ言うソラに、コウメイは「ソラ、言い過ぎだろ」と苦笑し注意する。そしてナギへと話す。
「俺は小学生の時に1度会ったよな。でも全然かわっちまって驚いた」
そりゃそうだ、別人なんだからとサクラは心の中で突っ込む。
「君もやはり特殊能力を持ってるんだね」
「君もってことは三條もか?」
「ソラでいいよ。だから僕もナギと呼ばさせてもらうよ」
するとコウメイも言う。
「俺もいいぞ。コウメイで」
「そうか。有り難い。どうも慣れないもんでな」
するとサクラがナギの前に出る。
「コウメイ先輩! ナギにそんな気を遣わなくてもいいです! ナギもなに
「コウメイがいいって言ってるんだ。いいだろ」
「よくないわよ!」
するとコウメイが苦笑しながら言う。
「九條、大丈夫だぜ」
「コウメイ先輩? いいんですか?」
「ああ。本来ならナギの方が家門で言えば上だからな。俺達が本当は一條さんと呼ばなくちゃいけないくらいなんだよ」
一昔は子供であってもそうだった。年齢関係なく身分で呼び名は決まっていたのだ。
「それは俺がごめん蒙る」
苦虫をかみつぶしたような顔をするナギにソラとコウメイは笑う。
「だから九條も、俺のことコウメイでいいんだぞ」
「そ、それは無理です! コウメイ先輩はめちゃ女子生徒に人気なんですよ! 今でもすごい冷たい目で見られてるのに、これ以上恨まれるのは嫌です」
ナギが首を傾げてサクラに訊く。
「おまえ、なんで十家門なのに睨まれるんだ?」
「そ、それは……ほら、私、妖力が一般以下だからよ」
「ふーん。そういうもんかねー」
その辺の感覚がナギにはよく分からない。
「今日学校が終わったら俺達の部屋に来てくれないか?」
「部屋?」
「ああ。さっきここで行われたチームにはそれぞれ部屋が分け与えられている。卒業するまでずっと同じチームで行動を共にするため、親交を深めるためと、色々な課題があるから、それを話し合ったりする会議室のようなものだよ。入学した時にはもう1年生はチームに振り分けられている。十家門の者は自然と『ウエスト』と『イースト』に別れるけどね」
学校にまで派閥の影響は色濃くあるのだなとナギは理解する。
――この国も面倒は一緒か。
「少し遅れるがいいか? ミカゲにも呼ばれている」
「ああ。構わない。じゃあまた放課後な」
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