第10話 ナギとミカゲ③



「式神? いや従魔か?」


「まあそんなところだ。俺の相棒だ。こいつは敵や悪魔など、俺に悪影響を及ぼすものに対して反応するようにしてある。そしてこいつはお前に好意を抱いている。だから白だ」

「ほう」

お前にはまったく興味を示さなかったけどな」

「……」


 ナギは目を眇めてミカゲを見る。これは気のせいではなく、本格的にばれている。

 これ以上突っ込まれても面倒だから話を逸らす。


「それがミカゲのもう1つの能力ってことか」

「そうだな」

「じゃあその従魔がいれば分かるんじゃねえのか?」

「ガーゼラ人ならな。天陽国人ならわからん。内通者では反応しねえんだよ」


 ガーゼラ人なら分かるということらしい。


「それにしてもこの従魔、なんて妖力だよ」


 ミカゲの従魔から発せられる妖力が半端ない。


「妖力を小型化することで抑えて、他の者に気付かれないようにしているのか」


 それにはミカゲは驚き目を見開く。


「そこまで分かるのか」


 ――こんな従魔を従わせているミカゲは、この従魔よりも妖力が上ということだ。


「ほんとミカゲ、恐ろしいな」


 ぼそっと言えば、


「よく言うぜ。お前に言われたくねえよ。俺はずっとお前に驚かされてばかりだ」


 と言い返された。どういうことだと眉を潜める。


「なんかしたか?」

「おまえ、無意識かそれ」

「それ?」

「お前の周りには見えないセンサーみたいなものが半径3メートルほど張ってあるな。お前の領域に踏み入れたら分かるようになっている感じか」

「!」


 言われてナギは気付く。これは前いた世界で戦争をしていた時に敵の侵入を感知するためにしていた魔法だ。当時は10メートルぐらいの範囲をしていた。だがここはそれほど危険がないため半径3メートルほどにしている。癖のようなもので、他の者には気付かれないようにしているものだった。

 それをミカゲは見破ったのだ。やはり『見極め』の力かと再認識する。


「そんなもん、戦争をしている者がすることだ。なんでそんなもんお前がやっている」


 ――なるほど。しまったな。思慮に欠けた。


 ナギは気まずそうにミカゲから視線を逸らす。ほんと人のことは言えないが、人より勘がいいやつはやりにくい。


「人には色々事情ってもんがあるんだよ」


 そう応え、行き場を亡くした視線をサクラに向ける。

 サクラはほとんど後ろにいるだけだった。そりゃそうだろう、妖力がほとんどないサクラはただのお荷物だ。それを分かっていて後ろで足枷にならないようにしている。そしてサクラに攻撃がきそうになると、1人の男性生徒が盾になり守っている。


 ――戦い方は正しいな。


 不安そうな顔をしているサクラを見て思う。


 ――あいつも十家門じゅっかもんの者であるがために大変だな。


 別にこの世界に来た時にたまたまその場にいただけの人物。ただユウリの許嫁で幼なじみというだけの存在。だからサクラに対し何の感情も沸かない。


 ただ、ユウリの今までの感情を垣間見れば、知らぬ存ぜぬと言うわけにはいかない。そこまで冷たい人間ではない。これでも元王国の王子だ。義理人情は持ち合わせているつもりだ。


 ――まあ何かあれば助けてやればいいだけのこと。


 そんなことを考えていたナギに今度はミカゲが声をかける。


「じゃあ次は俺だ」

「?」

「俺の質問に応えろ。お前は何者だ?」


 職業を聞いているわけではない。ナギ自信が何者かと聞いているのだ。

 鋭いミカゲの双眸がナギを捕らえる。ほとんどの者が恐怖で慄き動けなくなるだろう。だがナギはミカゲの視線を真っ向から受け止めた。


 ――やはりそうきたか。


 だが言うつもりは毛頭ない。


「俺か? 一條ナギだ。それ以上の何者でもない」


 本当のことだ。今いる自分は何も嘘を言っていない。

 まっすぐミカゲの視線を眉毛一本も動かさずに受け止めるナギにミカゲは余計に不信感を募る。


 ――なんだこいつは。俺は今殺す気満々の殺気をこいつに向けている。それをまったく動じず目線も外さない。そんなもんできるやつなんて普通、場数を踏んだ精鋭者か上官クラスしかいねえ。ほんとに何者だ?


 そのまま見つめ合う形でナギはやはりミカゲから目線を外さない。


 ――まあこのままにらみ合ってても意味がねえ。


 ミカゲは殺気を解き、大袈裟に溜息をつき肩を竦ませる。


「はあ。納得いかねえがそういうことに今はしといてやる」

「どう疑われようが俺は俺だ」

「そうなんだよなー。俺の記憶もお前なんだ。疑いようがないんだよ」


 でもどうしても納得いかないと頭を掻きながら項垂れるミカゲに、ナギは笑顔を見せる。


「まあ強いて言えば、昔の俺と今の俺は違うということだ」


 するとミカゲは鼻で笑う。


「そのようだな。敵ではないし認めてやるよ。まあ今のお前の方が俺にとっては好都合だしな。父親も喜ぶだろうよ」


 ナギは眉を寄せる。


「なぜそこで父親が出てくる」

「一條家の一人息子がヘタレなポンコツよりはマシだという話だ」


 ――はは。俺と一緒のこと言ってやがる……。


「それに」

「?」

十家門じゅっかもんの連中は親子共々一癖二癖あるやつらばかりだ。特に子供はまあ変なプライドがあって困りものだ。お前も今日学校に来て思わなかったか?」

「まあな。昼に洗礼受けたよ」

「そうか。十家門じゅっかもんには派閥があるのは知っているか?」

「まあどの国にもよくあることだ」

「そうだな。チームの別れ方で分かると思うが、二條家、四條家、七條家、八條家、十條家が西の陣と言われる派閥。そして一條家、三條家、五條家、六條家、九條家が東の陣と言われている派閥だ。軍でも政治でもこれは変わらない」

「へえ」

「さてと」


 ミカゲが立ち上がる。どうしたのかと見あげる。


「俺は審判の時間だから行くわ。まあすぐにちゃんとした洗礼を受けるだろうから頑張れよ。次期一條当主」

「? どういう意味だ?」


 するとミカゲは顎で下にいるトウヤ達のチームを指す。見れば、なぜか全員ナギを見ている。


「?」

「じゃあな。後で下で会おう」

「は? 今日は見学だろ?」

「バカ言え。見学は十家門じゅっかもん以外だ」


 そう言ってミカゲは去って入った。すると下から声がかかる。


「一條ナギ!」


 ナギが見ればトウヤだ。


「今からお前の入学祝いだ。降りてこい」


 そこでミカゲが言った意味を理解する。


「そういうことか。言い趣味してるな」






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