第9話 ナギとミカゲ②
「じゃあ俺はどのようにミカゲには映る?」
ナギは唇の両端を上げ訊く。そんなナギをミカゲは一瞥し、また前に視線を向けると無精髭を生やした顎を触りながら話した。
「お前か? 信じられねえが妖力より特殊能力の方が断然高い。それに一條家の膨大な妖力が感じられない。どういうわけか俺の知っている小さい頃のお前とは別人なんだよ」
――そこまで分かるか。さすがだな。だから疑ってたのか。
「この何年間で何があった?」
「その言い方だとミカゲは俺のことを小さい頃から知っているということか」
「まあな」
そこで記憶をたどる。するとまだユウリが10歳頃まで家によく来ていた男性がいたことを思い出す。よくユウリも遊んでもらっていたみたいだ。
「昔、よく父親と一緒にいた人か」
「思い出したか。そうだ。ちょうどお前の父親が軍のトップになった頃だな。俺は専属の付き人だった」
「付き人? 護衛じゃないのか?」
「……まあ。よく似たもんだ」
なぜか歯切れが悪いミカゲにナギは眉根を寄せる。だがあえてそこは今はスルーし話を変えた。
「で、なんで教師をやってるんだ?」
「まあ色々あるんだよ」
ミカゲは目を細める。やはり何か言いたくないことでもあるようだと、それ以上訊くのをやめる。
「まあ生徒に言えないことだってあるよな。聞いて悪かったな」
「生徒のお前に上司のように言われるのはどうかと思うが、まあ気づかい痛み入るぜ」
ナギはふっと笑う。
「俺はあんたのこと好きだぜ」
「俺はそういう趣味はねえ」
ミカゲは本気か冗談か分からない返事で返す。そして「サクラだが」と話し出す。
「生徒を名前で呼び捨てかよ」
「お前が言うか? 基本俺は個人を尊重するために下の名前で呼ぶんだよ。それにサクラもお前と一緒で昔から知っている」
ユウリの父親とサクラの父親は親友だ。父親に付いていたミカゲならサクラを知っていてもおかしくはない話だ。
「でだ。サクラの能力だが、解除能力だと思う」
「思う? なんかはっきりしないな」
ミカゲの能力は相手がどんな能力があるかを把握できる『見極め』だ。なら分かるはずだ。
「サクラの能力だけは俺でも分からないんだよ。能力を見ようとすると強力な結界のようなもので隠されている感覚になる。だから分からない。唯一サクラが施錠した鍵を難なく開けたところを見たことがあるため、そう思っただけだ」
「隠されているとは?」
「特殊能力は1つとは限らない。俺みたいにいくつも持っている者もいる。その中である一部の特別な能力を持っている者は、幼い時は命を守るための防衛本能が働き、勝手にその能力を隠す結界を張ることがある。だがサクラはもういい歳だ。防衛本能は働かないはずなんだ。だが今あいつの能力は結界で隠されている。そこがわからねえんだよ」
「サクラが自分でしているのか?」
「いや、それはまずない。あれだけの結界を張るにはサクラの妖力では無理だ」
ということは、誰かがサクラに張ったことになる。だがそのようなことが出来る者はナギが知る限り周りにはいない。そんなことを考えていると、ミカゲがトーンを下げて言う。
「ただ俺の経験上、あのように自分の能力を隠している者は、間違いなく特級クラスの
そして国は、国の利益になる者、国の損害になる者を小さい頃から把握し、監視、ひどい時は監禁していた。
ナギはユウリの情報を引き出す。『稀人』のことは小学校で習うようだ。ユウリは知っていた。だがサクラが稀人だとは知らなかったようだ。
「俺はてっきりナギがサクラにやっているのかと思ったが、違うようだな」
「サクラが『稀人』ということも今知ったんだ。出来るわけないだろ」
「だよな。じゃあやはり違うのか? 『稀人』と国にも登録されていないしな」
「登録?」
「ああ。小学校に入る時に身体検査するだろ。その時に『稀人』かどうか調べるんだよ。血を採取したの覚えてないか?」
ユウリの記憶から、確かに入学式の時に血を抜かれていた。
「なんかされたなー」
「だろ。その血液検査で『稀人』かどうかの判定をする。そして『稀人』だった場合、詳しく検査し、どんな種類か明白にしランク付けされる。そして特級クラスの場合は国の管轄下になるのが決まりだ」
「じゃあサクラは検査で『稀人』とは出なかったってことか?」
「ああ。だとすると、やはり違うのか? 俺が見るには、サクラは『稀人』なんだがなー」
ミカゲは納得いかないと腕組みをし唸る。そんなミカゲに苦笑しながらナギはユウリの記憶をたどる。入学式の時、サクラは熱を出したと言って休んだようだ。だが本当は注射が大嫌いのため、泣いて嫌がったと後からユウリはサクラから聞いていた。
「あいつ、入学式の時休んでいたぞ」
「なに! そういうことか。それなら『稀人』と出なかったことに納得いく」
「どういうことだ?」
「入学式に休んだ者は、後日を改めて病院へ行って検査をしてもらうんだ。その時にどうこうでも出来る」
違う者にすり替えか。サクラは注射が大の苦手だ。小さい頃なら亡きじゃくり血液を採らさなかっただろう。もしかしたら嫌がるサクラがかわいそうで他の者の血で代用したのかもしれない。
「たまたまだったのかもしれんぞ」
「まあな。だが引っかかる」
「考え過ぎじゃないのか? もしそうだとしても、なぜ隠す?」
別に国にばれても悪いことはない。反対に把握され守られるのだ。
「今の国の状況を考えれば、あり得ないこともない」
「どういうことだ?」
「まあ、国の中に信用ならねえやつがいっぱいいるってことだ」
「それって敵の工作員でもいるってことか?」
するとミカゲは周りを気にしながら小声で言う。
「そういうことだ。この学校にもガーゼラ国の息がかかっているやつがいるかもしれん」
「学校にもガーゼラ人がいるってことか?」
「俺が見る限りガーゼラ人はいない。ただガーゼラ国と繋がりがある者はいるかもしれないという話だ」
ナギは魔法で目を鑑定モードにし、今体育館にいる者をスキャンし、怪しい者がいないか調べてみる。変装している場合、なんらかの膜が周りに張られるからだ。
今見たところ、この中にはいなさそうだ。
「確証は?」
「ない。これは俺の勘だ」
「勘かよ。信憑性がないな」
そこで疑問が浮かぶ。
「そんなこと俺に話していいのかよ。もし俺がナギに化けたガーゼラ人だったらどうするんだ」
するとミカゲは片方の口角を上げる。
「へん。お前は白だ。極力白に近いグレーと言ったほうがいいかもな」
「なんだそれ」
「俺の相棒が威嚇しねえからな」
見ればいつの間にかミカゲの横にミカゲと同じぐらいの狼がいた。
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