第8話 ナギとミカゲ①
午後からは2、3年の合同練習を見るために体育館に集まった。ナギ達1年は見学のため観客席にクラスごとに座る。ナギは一番後ろの少し離れた席にチハルと並んで座った。すると担任の西園寺ミカゲがナギの隣りにやってきた。
今回の合同練習の内容は、3年生と2年生混合のチームを作り団体で肩につけたマークにヒットさせ壊した方が勝ちというものだ。
先生の号令でみな、各々のチームに分かれる。だが人数がバラバラだ。
ここに来る前に説明を受けていた。チームは3年2年混合が基本で10人まで。そして十家門は十家門だけでチームを組む。力の差があるかららしい。そして1年生も入学した時から決められているため、自分のチームを応援するようにと言われていた。
ナギは隣りに座る担任の西園寺に話しかける。
「なあ西園寺」
その言葉に西園寺は目を丸くしてナギを見て嘆息する。
「お前なー。担任にむかって苗字だけで呼ぶのってどうよ」
「じゃあミカゲ」
「いや、誰も苗字を名前にしろという意味じゃねえわ」
「なんだ、先生って付けて欲しいのか?」
「一般的な常識を言ってるだけだ。一応俺はお前を教える立場の人間で人生の先輩だぞ」
「一般だろ? なら俺には関係ない。じゃあミカゲ」
「はは。いい性格してるな。まあ勝手にしろ。で、なんだ?」
――え? 呼び捨てでいいんだ!
やり取りを隣りで聞いていたチハルは、ミカゲが呼び捨てを許可したことに驚き、口をあんぐり開ける。
「あの肩に付けたマークを壊し方は何でもいいのか?」
「ああ。木刀でも妖力でも基本、殺さなければオーケーだ」
「殺さなければ? なんか物騒だな」
「この学校は実践的訓練が基本だ。弱いやつは軍に行っても役にたたねえからな」
「その言い方だと、軍に行けば危険がいっぱいだと聞こえるのだが?」
「そうだ。危険だらけだ。お前、父親から聞いてねえのか?」
「……ああ」
記憶をたどってもユウリが父親から聞いた形跡がない。当たり前だ。ずっとここ何年も父親は家にはほとんど帰らず、顔を合わすことも会話をすることもなかったのだ。そんな話をするはずがない。
「まあお前んとこは特殊だからなー」
「? 特殊?」
意味が分からず眉間に皺を寄せて訊けば、ミカゲは違う意味で取ったようで謝ってきた。
「気分を悪くしたなら悪かった。別に悪い意味じゃない」
「別にそんな風に思ってない。どういう意味かぜんぜんわからなかっただけだ」
「まあそうだよなー。父親に会わないんだから知らないわな」
「……」
「お前の父親は軍のトップであって権力も力もすべてにおいてトップだ。その一言がこの国をも動かす。色々な者に影響を及ぼす。だからかお前の父親は家族を守るために距離を置いている」
「え?」
「その反応だと知らなかったって顔だな」
「あ、ああ」
ユウリの記憶だと、てっきりユウリのことが気に食わないがために距離を取っていたという認識だった。
「まあそうだよな。あの人が言うわけねえしな」
――あの人?
ミカゲは学校の担任ではあるが所属は軍人だ。軍のトップの一條家に対して安易な呼び方をするもんだとナギは眉根を寄せる。
「まだお前は知らないと思うが、トップというのは尊敬される数だけ妬まれるものだ。隙を見せれば付け込まれる。それはいつか分かるか?」
「いや?」
分からない振りをして首を横に振れば、まあそうだろうなとミカゲは笑う。
「それは家族といる時だ」
――だろうな。
分かっていたことだ。自分の親もそうだったのだから。
ナギといる時に父親は命を狙われた。そしてまだ12歳だったナギを庇って父親は命を落としたのだ。
「だから極力、お前とは距離を取っているんだよ」
賢明な判断だとナギは思う。
――だとすれば一條家の父親は、外部もそうだが内部も警戒しているということか。
派閥争い、権力紛争はどの国にもあるものだなとナギは嘆息する。そんな自分もその被害者の1人だ。
――どの世界もトップは難儀だな。
「話は逸れたが、だから軍だけじゃなく、社会に出た時に身を守るためにもこの実践練習は意味を成すんだよ」
「なるほどな」
ナギは視線をまた前に戻す。するといつの間にか始まっていた。色々な場所でチームとチームが対戦している。
どのチームも妖力を出しマークを狙い、狙われたチームは同じく妖力をぶつける者もいれば、マークを守るように盾で守る者、刀で妖力を受ける者など色々な方法で防御していた。
――へえ。魔法とは違って妖力は結界やシールドのようなものはないのか。それにほとんどが火の属性だな。後は水の属性か。あまり有効ではないな。
そしてやはり十家門のチームは桁違いに妖力が強かった。あっという間にマークを壊していく。
――なるほどな。やはり強いな。威張るだけある。
感心しながら見ていると、サクラのチームの番になった。サクラのチームは男性2人に女性1人、そしてサクラの4人だ。ナギは魔力でサクラ達の妖力を見る。
――へえ。サクラ以外は妖力が強いな。さすが十家門というところか。
「ミカゲ」
「なんだ」
「ちょっと」
ナギは指でくいっと後ろの席を指す。
「チハル、ちょっとわりい」
そう言って立ち上がると一番後ろの席へと向かう。ミカゲもナギの後を追う。
「なんだ、聞かれてまずい話か?」
ナギの横に座りながらミカゲが言う。
「まあそんなところだ」
「で、なんだ? 話って」
「サクラってどんな感じだ?」
「……なぜ俺に訊く」
何バカなことを言い出すのだと顔をしかめミカゲが訊き返す。
「お前は幼なじみの許嫁で、付き合いが長いんだ。お前のほうがよく知っているだろう」
鼻で笑うミカゲに一瞥してナギは静かに言う。
「それは分かっている。あいつの能力を訊いている」
「!」
「あんたなら分かるだろ」
ナギの一言でミカゲの顔が強ばる。
「おまえ……」
「やっぱり自分の能力を隠してる感じか。別に他のやつに言うつもりはない。まああんたの立場上知られると面倒だろうからな」
ミカゲは強ばった表情を和らげふっと笑う。
「よく気付いたな」
「まあな。あんたを朝から見てて感じただけだ」
「で、お前が思う俺はどう映っている?」
「十家門ではないのにそれに匹敵する妖力、いやそれ以上か。膨大な妖力を持っている。そして人を見た目や噂では判断せず、その者自体を見る公平さを持っている。後はなんだ。裏表がないな。それに媚びを売ることが嫌いというところか」
「えらい高評価だな。お前からおべんちゃらを言われるとはな」
「そんなことするかよ。ただ事実を述べただけだ。これでも一応人を見る目には自信がある」
「ほう。今まで家で引きこもっていたやつの言う言葉とは思えねえな」
ミカゲは鼻で笑う。普通の先生なら引きこもりの生徒に絶対に言わない言葉だ。それをあえて使うということは、ユウリと入れかわったことに疑問を抱いているのかもしれないとナギは目を細める。だがどれだけミカゲが疑ったとしても証拠が出るわけではない。だから「確かにそうだな」とだけに留めておく。
ナギの反応にミカゲは何か思ったようだが、それ以上言うことはなかった。
だからそのまま話をする。
「そしてサクラと一緒で、あんたは妖力とは別の能力を持っている。違うか?」
ミカゲは腕組みをしナギを見る。
「ほう。そこまで分かるか」
「ああ。俺も似た者だからな。だが分かるだけだ。詳しい理由を知らない。だから訊いている」
ミカゲは目を瞬かせる。
――そうか。こいつは父親から何も教わってないのか。
「俺らは妖力を持っている。それは系統によって違う。それは分かるだろう」
「ああ」
それもユウリの記憶だ。家系によって火、水と違う。
「稀に妖力以外の力を宿す者が特定数いる。だがそれは特殊能力ばかりだ」
「特殊能力?」
「ああ。それは1人1人違う。妖力は基本火や水を操り相手に攻撃、防御、幻影などが一般的だが、それ以外の色々な能力が出来るということだ」
――魔法みたいなものか。
「そして俺の能力の1つが『見極め』だ。相手がどんな能力があるかを把握できるというやつだ。だからお前も分かる」
「じゃあ俺はどのようにミカゲには映る?」
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