第7話 軍事学校④



 ――こいつ、俺の魔法を外した!


「聞いてれば、あることないこと! そんなに人を馬鹿にして楽しいわけ? それでも十家門の人間なの!」


 それに応えたのはトウヤだ。サクラの肩を抱き言う。


「サクラ、相変わらず威勢がいいなー」


 サクラはすぐにトウヤの腕を払い退ける。


「手を置かないで」

「いいじゃねえか。こんなやつの許嫁やめて俺の許嫁にならないか?」

「冗談はやめてよ」


 だが二條はまたサクラの肩を抱き、目を細めて声のトーンを下げてサクラの耳元で囁く。


「サクラ、何様のつもりだ? お前順位わかってるのか? 俺は二條、お前は九條、意味分かるよな? もう少し立場わきまえろや」

「くっ!」


 すると、パンッとトウヤの腕が勝手に弾かれた。見ればナギが手を翳している。


「そいつは俺の許嫁だ。勝手に触るな」


 ナギが目を眇めてトウヤに言う。その様子を見たトウヤ達は驚く。


「へえ。そういうこと出来るんだ」

「別におかしくないだろ。自分の許嫁に未練たらしく媚びを売る最低なやつに文句言うのは当り前のことだ」

「なんだと!」


 今にもナギに飛びかかる勢いのトウヤに、ナギは一瞬強烈な殺気を放つ。するとトウヤは、体を硬直させ動きを止めた。


 ――な、なんだ今のは……。殺気? 胸を射貫かれたみたいだ。 


「どうした? トウヤ」


 隣りのカズキが声をかけるが、トウヤは応えず、ただ目の前の自分を睨んいるナギを見る。


 ――こいつが放ったのか? 


 だが今は何も感じない。


 ――気のせいか? いや、こいつだ。


 油断していたにしても、目の前の気弱な出来損ないと言われているナギに一瞬ひるんだ自分が許せず、トウヤはギッと奥歯を噛みする。そして苛立ちを露わにしたまま言い放つ。


「は? バカじゃねえか? そんな妖力もない女、誰が相手にするかよ。からかっただけに決まってるじゃねえか! お願いされてもお断りだぜ!」


 サクラは下を向きくっと唇を一文字にし食いしばる。


 ――言われなくても分かってるじゃない。落ち込むな。


 サクラは自分に言い聞かす。するとナギが言う。


「サクラ、こんなやつの言うこと気にするな」


 サクラは顔を上げてナギを見れば笑顔でサクラを見ていた。


「俺はまったく気にしない」


 サクラは目を見開く。いつもユウリが言っていた言葉だ。


『サクラちゃん、僕は妖力なんて気にしないよ。だから気にしないでよ』


 そう言って笑顔のユウリが浮かび目頭が熱くなる。


「はっ! 出来の悪い者同士お似合いだぜ」


 ナギは顎肘をつき大袈裟に嘆息する。


「……弱いやつほどよく吠える」

「なんだと!」


 トウヤが叫ぶが、ナギは動じない。


「聞こえなかったか? 弱いやつほどよく吠えると言ったんだ」

「てめえ! トウヤに刃向かうとはいい度胸だな!」


 カズキも眉をつり上げて反論する。さすがにうるさいと少しイラっとする。


「それはこっちの台詞だ。俺は一條、お前は二條、地位で言えば俺のが上だ。なら別に問題ないだろう」

「てめえ」

「最初にそう言ったのはお前だ。違うか?」

「ナギ!」


 そこでサクラがこれ以上揉めるなと首を小刻みに横に振るのを見て、しまったとナギは口を開ける。だが後の祭りだ。


「よくもそこまで言ってくれたな!」

「いや、俺はお前が言ったことを言っただけだ」

「くそ! 後で覚えとけよ!」


 そう言うとトウヤ達は食堂を当たり散らしながら去って行った。

 それを見て嘆息しているナギに、サクラはばっと勢いよく胸ぐらを掴む。


「な、なんだ?」

「あんたねー! あれほど問題起こすなって言ったでしょー!」

「九條先輩! 落ち着いて!」


 今まで黙っていたチハルが制する。


「あ、いや……なんだ……成り行きというかだなー……」


 ナギはサクラから目線を外し気まずそうに半笑いをする。


「どうするのよ! あいつら怒らせてー!」


 そこでナギはムッとしてサクラを見る。


「元はと言えばおまえが悪いんだろ」

「はあ?」

「俺は大人しくしてろと動きを止めたのに、お前が勝手に解除してあいつらに突っかかったのが事の発端だろ」


 サクラは胸ぐらを掴んだまま動きを止める。確かに自分が最初に反論したのだ。


「だ、だって……あれは……ユウリというか、ナギが凄い言われ方したからむかついて……」


 少し顔を朱に染め口を尖らせて言うサクラにナギはふっと笑う。


「俺もそうだ。お前が困ってたからしただけだ」

「ナギ……」

「だからおあいこだ」


 そう言って笑うナギは、どうもこの状況を楽しんでいるようにしか見えない。だがここはナギの言う通り、お互いを思ってのことだということにして、サクラはナギから手を離した。

 そんな2人を見てチハルは、


 ――お互いをかばい合うなんて、2人とも愛し合っているんだなー。


 と笑顔を見せるのだった。


「でもまあ、ちょっと言い過ぎたか」


 ナギは背もたれに体を預け顔を天井に向ける。


「これからどうするのよ」


 トウヤ達に目を付けられれば面倒なことは目に見えている。


「どうもしないさ。まああちらがどうでるかみるだけだ」


 そう言って悪戯な笑顔を見せるナギに、


「絶対この状況を楽しんでる」


 と、一抹の不安を感じるサクラだった。









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