第4話 軍事学校①
ナギは、学校に着くまでの間、サクラからこの国の状況などを聞いた。ユウリは引きこもりだったからか、ユウリの記憶だけでは分からないことが多かったからだ。その点サクラは世間のこともよく知っており、ナギの質問にもほとんど答えていた。
ナギ達がいる大陸は、大きく2つの人種の国に分かれていた。
見た目が人間の
もう一つが見た目が動物系の
そしてこの両国は、今も領土を広げようとずっと戦争中だということだった。
だが、
国土面積は、
その結果、今では世界でも上位の軍事国家に成り上がったのだった。
結果、人数は圧倒的に
そのため
妖力の強い者は、半強制的に中学校を卒業後、厳しい試験を経て3年間この軍事学校に通う。少しでも自発的に入隊をさせるために、入隊すればその家の地位と名誉が上がるというメリットを付けた。志気を高める狙いもあった。
その1校で都市中央に位置し、3校の軍事学校の頂点に立つのが、ファルコ軍事学校だ。軍のお偉いさんの子息が通う軍事学校で、
「なるほど。なんとなくこの国は分かった。それにしてもお前、よく知ってるな」
「まあね。これでも学力は上位に位置しているのよ」
胸を張りサクラはどうだと自慢げな顔を向ける。そんなサクラにナギは片眉をあげ冷たい目を向ける。
「別に威張ることじゃないだろ?」
「……」
サクラは思う。ユウリなら、
「サクラちゃん、すごい! さすがサクラちゃん!」
と、手放しに褒めてくれるだろう。今までそれが普通で、反対にちょっとわざとらしいと思って嫌だったのだが、ナギの冷めた反応に、自分はユウリのちょっと大袈裟な褒め言葉を心地良く思い望んでいたのだと気付く。
――小さい頃からずっとユウリの言葉と行動に文句を言ってたけど、本当は優越感を感じてたんだなー。
ユウリとの今までのことが思い出される。
――ユウリ、今どうしてるかな……。
ふとユウリの笑顔が過る。もうあの笑顔を見ることはできない。そして最後に見た苦痛な表情。
――大丈夫かな。
心配で仕方がない。だがもう会うことはできない。
心が沈みそうになったところでちょうど学校が見えてきた。サクラはその思いを頭を振って消し、指を指す。
「あそこよ」
そして二人は、学校の校門の前で立ち止まる。ナギは両サイドの大きなレンガ調の3メートルはある大門を見あげる。
向かって右側には、『ファルコ軍事学校』と書かれた立派な表札が掲げられ、門の天辺には学校の名前でもある
「ここか? 俺が通う学校、ファルコ軍事学校は」
「そうよ。その名の通り軍の育成学校よ」
「いいねー。こういうのがよかった」
ナギは、腰に手をあて全身から湧き出る昂揚感に笑顔を見せる。やはり自分は心底戦いが好きなのだと改めて自覚する。
そんなナギにサクラは訊ねる。
「ねえ。ナギは前の世界の何が嫌いだったの?」
ずっと気になっていた事だ。
「俺か? 強いて言えば、平和過ぎたところか」
「え? 平和ならいいんじゃないの?」
「まあな。元々俺は軍人で、前線で戦うのが性に合ってたんだよ。だが戦争も勝利し平和になった。そうなると今度は身内の紛争に変わった」
「なんで身内の紛争に変わるの?」
「父が戦争中に暗殺され、ずっと戦争中は王の座が空席だったんだ。その後戦争が終わり、次期国王を決めることになった。俺は王族の3人兄弟の一番下だったが魔力は兄弟の中で一番強かった。今まで仮の王座に付いていた一番上の兄上が、俺が王座を狙い、力で王座を勝ち取るのではないかと危険視し始めた。俺はまったく興味がなく、王になる気もさらさらなかったんだがな。懸念した兄上は、俺を首都から一番遠い辺鄙な農業都市に俺を左遷したってわけよ。そこがまあ田舎で、まだ開拓真っ最中の途上地でな。インフラ整備からしなくてはならなかった。俺はそういうのは苦手でなー。一年間頑張ったのだが、やはりどうにも平和過ぎるその地が性に合わなかった。日に日に嫌さが増していき、このまま一生をこの地で終わるのが堪えられなくなった。だが、あの世界にいても根本的な俺の不満は解消されない。でだ、他の刺激のある世界に行くことを計画して、実行したってわけだ」
ナギの説明を聞きながら、ちょくちょく気になる『王』というキーワードが出てきて、半分内容が入ってこない。
「ちょ、ちょっと待って。ナギってもしかして王子なの?」
「ああ、そうだ」
だからその態度なのかとサクラは納得する。王子であれば、そりゃあ上から目線の物言いになるはずだ。
「それにしても、王族の兄弟ってそんなに仲悪いの?」
「まあ俺だけ兄上達とは少し違ったからかもな」
「え?」
「母が違ったんだ。兄上達の母親は、病気で早くに亡くなった。その後すぐに後妻として俺の母親が入り俺が生まれた。兄達としては面白くなかったのかもな。だからか小さい頃から兄達は俺に対して当りは悪かった。で、俺は距離を取るために13歳から軍に入ったというのもある」
「そんなに早くから軍に?」
「ああ。話は終わりだ。行くぞサクラ。部屋に案内しろ」
強制的に話を終了したナギは、門をくぐりズカズカと歩いて行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ。歩くの速いんだって!」
背が高く足が長いため、歩くのについて行けないサクラは小走りになり後を追う。そしてナギが通うクラスの前に来て言う。もう授業が始まっている時間のため廊下には誰もいない。
「ここよ。わかった? 魔法は使っちゃ駄目よ。それに極力大人しくするのよ」
「何回も言わなくても分かっている。おまえ、小姑みたいだな」
小指を耳に突っ込みながら言う。ここに来るまでに3回も聞かされたことだ。さすがに鬱陶しい。
「うるさいわね! しょうがないでしょ!」
元々情けないユウリをずっと相手にしてきたのだ。姉のような感じでユウリに接してきたため、ナギにもそういう態度になってしまう。
「まあいい。それも新鮮だ。俺に命令系で言うやつはいなかったからな」
そう言ってサクラの頭に手を置く。驚き見れば、初めて見る優しい笑顔があった。少し照れる。
「お前も自分のクラスに早く行くことだ。ご苦労だった」
ナギは手を離すと後ろのドアから中に入って行った。サクラは顔を赤らめ、ただその場に立ち尽くす。
「な、なんなのよ……」
朱が刺した顔をブルブル振ると、そのまま踵を返し自分のクラスに向かったのだった。
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