第3話 出会い②
「あなた、誰?」
すると男は、腰に手をあて、片方の口角をあげる。
「俺か? 俺はナギリア・リュウゼン・アルティールだ」
「ナ、ナギリア……?」
「ナギでいいぞ」
ナギと名乗った男は、首を巡らせ周りを見渡す。
「おい娘。ここはどんな世界だ?」
「は?」
「この世界はどんな世界だと聞いている」
「どんな世界って……」
「魔法が使える世界なのか、超能力が使える世界なのかと聞いている」
尊大な態度で言ってくるナギにムッとしながらサクラは応える。
「ここは
「魔力は?」
「魔力? そんなもの使えるわけないでしょ。そんなの架空の世界の話でしょ」
「魔力が使えないのか。失敗したか」
「?」
ナギは腕組みをし何やら考えている。そんなナギをサクラは眉を潜めながらじっと見てこの状況を考える。
――どういうこと? この人、どうやって現れた?
いきなり空に魔法陣が現れ、光ったと思ったらユウリがいなくなってナギという男性が現れた。それも今ユウリが着ていた学校の制服を着てだ。それに背が高い。180㎝はあるだろうか。
そして一段と目を引くのは顔だ。ショートボブの黒髪、キリッとした切れ長のアイアンブルー色の目に、鼻筋の通ったすっきりした端正な顔立ち。ユウリはどっちかというとかわいい系の顔だったが、ナギは少しきつめのかっこいい系の顔だ。
「魔法の世界じゃなければ、もう転移は出来ないな。仕方ない。ここで我慢するしかないか」
そこでじっと見てくるサクラへと視線を戻す。
「おい娘」
「ちょっと! 娘って呼ばないでよ!」
ナギはさも不思議な顔をして瞬きすると、
「ああ。ちょっと待て……サクラか」
と、なぜかサクラの名前を言ったので、サクラは目を見開き驚く。
「なぜ私の名前を……」
「幼なじみで許嫁……」
「!」
どういうことかと怪訝な表情をしていると、
「ああ。記憶をたどっただけだ。それにしてもお前は前の記憶が残っているのか。転移の瞬間を目の当たりにしたからか?」
「何を言ってるの? 分かるように説明してよ!」
「ああ。そうだな」
ナギは片方の口角を上げ、にぃっと笑う。
「説明してやろう。サクラ」
◇
「じゃあなに? あなたは自分がいた世界が嫌になって、この世界に来たってこと?」
「ああ。転移魔法でな」
「転移魔法……」
「そうだ。だが、この転移魔法にはある条件があった。それは、俺と同じように自分のいる世界が本当に嫌に思っているやつと入れ替わるというものだった。そして俺はこの世界に来て、今までここにいたお前の許嫁は俺の世界に行ったってわけだ」
「そんなこと……」
「信じられないか? でも現に俺はここにいて、今までいたやつはいない」
確かにそうだとサクラは眉根を寄せる。自分が知っているユウリはおらず、まったく知らないナギがここにいるのだ。否定する理由が見つからない。
「じゃあ、ユウリはどうなったの?」
「知らん」
「は?」
「俺の世界にいることは確かだ」
「そんないい加減なことって! 今すぐユウリを返して!」
「それは無理だ」
「もう一度やればいいでしょ!」
「あほ! この転移魔法は相当な魔力が必要だ。魔法の世界ならまだしも、魔法が存在しない世界では無理だ」
「そんな……」
項垂れるサクラに、ナギは問う。
「では1つ聞くが、ユウリというやつは、ここにまた戻って来て幸せなのか?」
「え?」
「この魔法は俺と同じくらいに自分がいた世界が嫌なやつとリンクする魔法だ。ならばそいつは、俺と同じくらいこの世界にいたくなかったってことだ」
「……」
「そんなやつがまたこの世界に戻ってきて、幸せだと思うのか?」
サクラは何も言えなくなる。ユウリと最後に交わした会話を思い出す。あの時ユウリは、相当嫌がっていた。死んだ方がマシだとまで言っていたのだ。そんなユウリがまたこの世界に戻ってきて嬉しいはずがない。
「確かにユウリは自分が置かれていた環境をすごく嫌がっていたわ」
「だろう? なら別にいいんじゃないか?」
そう笑うナギを見て、本当にいいのだろうかとサクラは思う。だがナギの言うことも一理ある。それにユウリをこちらに戻す手立てがないのであれば、これ以上言っても詮無いことだ。
何も話さなくなったサクラにナギは微笑む。
「納得したか?」
「納得はしてないわよ。急に言われて、はいそうですかなんて言えないわ」
「まあ確かにそうだな」
「それにこれからどうするのよ。いきなりユウリがあなたに変わったらみんな驚くわ」
「それは大丈夫だ」
「え?」
「俺とそいつが入れ替わった時点で、関わった人間すべての記憶は書き換えられている」
サクラはどういうことだと眉を潜める。
「まあ簡単に言えば、過去の出来事や記憶はそのままで、ユウリの顔はすべて俺に書き換えられ、名前も『一條ユウリ』からに『一條ナギ』変わっているということだ」
そんなことが可能なのかとサクラは口をポカンと開ける。やることが滅茶苦茶だ。
「そして今までのユウリというやつの記憶も俺が受け継いですべてここにある」
そう言ってナギは自分の頭を人差し指でトントンと叩く。
「ユウリというやつも、むこうの世界で俺の今までの記憶を把握しているはずだ」
だいたいのことは理解した。だが1つ疑問が残る。
「でも私は変わってないわ」
ナギの説明でいけば、サクラの記憶も書き換えられないといけないはずだ。ナギは腕組みをして唸る。
「そこなんだよなー。普通はお前の記憶も書き換えられているはずなんだ。だがなってない。転移の瞬間に居合わせちまったからかもしれん」
――元いた世界でも従者のディークがそうだが、ディークは記憶を書き換えられないようにしたから分かるが。こいつはなんでだ? 失敗したのか?
だが考えても仕方がないのでやめる。
「じゃあ、まずこいつがどんなやつか……」
ナギは目を閉じ、ユウリの今までの人生を垣間見る。そして顔をしかめ一言言う。
「こいつ、クズか」
「あはは……」
反論の余地なしとサクラは苦笑する。
「こいつ、俺と真逆な性格じゃねえか。なんだこの
「ごもっともです」
サクラは笑うしかない。
「よくお前、こんなやつの許嫁になったな」
「いや、それは私が決めたわけじゃないし……」
「まあそうだが――」
そこで2人は目を見開き、お互いを見て叫ぶ。
「ちょっと待て。俺はお前と?」
「私、あなたと?」
2人は固まる。入れ替わっただけで、今までのことはそのままだ。だとすれば許嫁ということも変わらない。
そこで2人は嘆息する。
「まあいいか」
「まあいいわ。今までと変わらないから」
そう、許嫁ということに2人はこだわりはなかった。サクラも別に何とも思わない。元々親同士が決めたことで自分の気持ちなど関係ないのだ。嫌だと言っても解消されるわけでもない。その辺の割り切りは小さい頃から出来ていた。
「さて。まあ幸い? ユウリっつうやつは軍事学校には入学式しか出ていない。そして親ともほとんど疎遠。まあ俺には好都合だな」
確かにそうだとサクラも思う。
ユウリは1人っ子で、父親とはもう何年も顔を合わせることも話すこともなく、母親も早くに亡くしている。家で働く従者の者ともほとんど顔を合わせていない。唯一話しているのがサクラだ。サクラはなぜかどんな鍵も開けることが出来たため、ユウリが部屋に鍵をかけても勝手に解除して入ってきては話していたのだ。
「でだ、サクラ」
「なに?」
「これから俺は学校へ行けばいいのか?」
「そうよ」
「わかった。行くぞ」
スタスタと歩き出したナギを、サクラは腕を掴み止める。
「ちょ、ちょっと待ってナギ! 本当に大丈夫なの?」
「別に何も問題ないだろう」
「ほんとかなー。急に性格変わったりしたら変に思われない?」
「今までユウリはお前以外話してない。軍事学校も初めてのやつばかりだ。なら心配ない。性格が変わったなんて誰も思わないだろう」
「だからってその横暴な態度はどうにかしなさいよ」
「だめか?」
「当たり前でしょ!」
「しかたない。善処する」
ナギは笑顔で応え、また歩き出した。サクラはナギの背中を見ながら口を尖らし呟く。
「絶対嘘よ」
そして急いで後を着いて行ったのだった。
――――――――――――――――――――――
こちらを見つけていただきありがとうございます。
魔法の世界からやってきたナギ。
これからどう
軍事学校でうまくやっていけるのか?
消えたユウリはどうなったのか?
ちょっと次が気になる~と思っていただけ、小説のフォローをしていただけたらと嬉しいです♪
少しでも面白いと思っていただけたなら、♡、コメント、☆評価やレビーをしていただけるともっと嬉しく、頑張るモチベーションになります(≧∀≦)
よろしくお願いします。
碧心☆あおしん☆
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