第27話 白エビのかき揚げ

 馬場家を出て、更に道を先に進むと、蔵があった。森家土蔵群と地図には書いてある。すごく長い。そして渋い。黒い屋根や白い壁は新しい感じだが、壁の下部の木の部分は、風雨にさらされた感じのする、濃さが所々違う茶系の色をしていた。

 更に先へ行くと、食事処を発見した。やはり非常にレトロな建物だ。外に貼ってある「白エビかき揚げと氷見うどんのセット」という文字が目に留まった。時刻は午後1時50分。食べたくなってきたぞ。元々、岩瀬浜駅の近くで食事をしようかなと思っていた。白エビのかき揚げはこの辺りの名物だから、食べようと思っていたのだ。駅まで行かずとも、ここでいい。いや、ここに入るべきだ。食べたいと思った時が一番の食べ時だ。

 中もすごくレトロだった。6畳間を3つ、間の扉を取っ払って一つの部屋にしてある。畳にちゃぶ台に座布団。障子に扇風機。すごい。懐かしいと言っていいのかどうなのか。もう、逆に新しい。とはいえ、うちはちゃぶ台に座布団だ。絨毯敷きだけれど。木の切り株をそのまま使って作られたちゃぶ台を、夫が気に入って結婚当初に購入し、それから23年使い続けている。テーブルと椅子を置くよりも部屋が広く使えていいと言えばいい。

 さて、好きなお席へどうぞと言われ、奥の方を選んで座った。他に女性客一人がいて、後から男性客が一人入って来た。つまり空いている。テーブルの上にメニューが置いてあった。かき揚げ丼もあるが、氷見うどんのセットにした。氷見はこの近くの地名だ。私は今まで知らなかったが、氷見うどんというのは有名なようだ。

 そう、知らなかったので、「氷見うどん」と書いてあっても読み方が分からなかった。だから、うどん、と言ったらお店の人が、

「ひみうどんのセットですね?」

と言ったので、読み方が分かったのだ。あちこち遠くへ出かけてみると、知る事がたくさんあるものだ。

 待っている間に写真撮影をしよう。横に床の間があったので、自撮りもしてみた。部屋の写真も数枚撮った。窓の外には石灯籠が見える。ほぼ障子が閉まっていて全体は見えないが、一部開けてあるのだ。ちらりと見える庭にも、建物同様風情がある。

そして、自分でお茶を持ってくるシステムだと気づき、端っこの台に乗っていた湯飲み茶碗に冷たい麦茶を注いで、自分の席に戻ってきた。すると、白エビのかき揚げと氷見うどんのセットが運ばれて来た。

 さあ、待ってました、白エビのかき揚げ!金沢にいた時から、ちょこちょこ目にして食べたいと思っていたこれ。丸く整えられた形。直径十数センチと言ったところだろうか。殻付きのままの白エビがびっしり寄せられている。いきなりかじりつくと火傷するかもしれない。まずは一緒に付いてきた、お総菜と漬け物をちょっと食べてから、満を持して白エビのかき揚げに箸を伸ばす。

 一口かじると「サクッ」と言った。とてもサクサクだ。香ばしくてとても美味しい。タマネギと白エビの甘みを感じる。やっぱりこれだよ。富山で食べられてよかった。あ、全部食べてはダメだね。次に氷見うどんを食べてみよう。

 氷見うどんはぶっかけうどんになっていて、刻み海苔と青ネギ、それにキュウリの薄切り1枚が乗っている。そのキュウリの上にはおろし生姜が乗っていた。

 つるつるっと一口すする。うどんの汁は薄味だ。やっぱり北陸の人は薄味好みなのだな。うどんはどちらかと言うと細めだった。腰は中くらいかな。つるつるっと入りやすい、気がする。夏にはさっぱりしていて食べやすい、かも?食欲のない時には、冷たいし食べやすい。あ、名前からして涼しいしね。

 そして、またかき揚げをかじる。あれ、かき揚げの真ん中が冷たいような気が……だが、もう周りも冷めている。扇風機の風が当たるからだろうか。扇風機がけっこう近くで回っていて、寒いくらいだ。後から冷めたのか、最初から冷たかったのかは分からないが、まあ、美味しいから大丈夫だろう。

 食べ終わって、支払いをしようと玄関のところへ行った。誰も居ないので厨房の方へ声を掛けると、お店のおばさんがやってきた。このおばさんが一人で切り盛りしているようだ。レジ回りにペイペイなどの表示がないから、

「クレジットカードで。」

と言ったら、

「すみません、現金のみなんです。」

と言われた。そうか、建物同様……そういう事か。料金2000円は現金で支払った。やはり、まだまだ現金を持たないのは危険だな。

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