第24話 ギャルリ・ミレー

 3年前に買った富山のガイドブックには載っていなかったが、今年買った北陸・金沢のガイドブックには載っていた「ギャルリ・ミレー」という美術館がある。アーケード街の中にある、小さい美術館のようだ。ミレーを中心としたフランス印象派の画家の、世界的名画があるらしい。今回、富山にも寄ろうと決めたのは、この美術館に行きたかったからだ。

 私は絵画鑑賞が好きだが、特にフランス印象派の絵が好きで、日本の浮世絵との関係なんかも学んでおり、けっこう詳しい。なかなか富山まで絵を見る為だけには来られないし、近くまで来た折りには、絶対に行っておきたい場所だった。

 休館日は月曜日と祝日の翌日だという事は調べがついている。そして、場所も何となく分かっている。とにかくアーケード街へ行けばいいのだ。というわけでギャルリ・ミレーを目指し、また路面電車に乗った。

 3年前のガイドブックに載っていなかったとは言え、それほど新しいわけではないらしい。けれども、私のスマートフォンの地図アプリにも載っていない。つまり、自分の位置を確認しながら目指す事が出来ないのが、難点なのである。

 恐らく最寄り駅と思われる駅で下り、アーケード街を探した。アーケード街は思った以上に大きかった。ガイドブックの地図とスマートフォンの地図を交互に見ながら、場所を探して彷徨った。アーケード街は碁盤の目のようになっており、道はまっすぐだから、何本目の通りだと数える事が出来るはずなのだが、地図上に目印がない。今どこにいて、向かうべき道がどれなのか、よく分からないのだ。2往復くらいしてしまった道路上で、音楽のかかっている店があった。昨日寝る前に聴いたBTSの曲だったので、テンションが上がる。足の疲れも一瞬和らぐ。その店の前も2~3回通ってしまったが。

 やっとギャルリ・ミレーの看板を見つけた。とても嬉しい。安心して進んで行った。とても楽しみだ。それにしても長いアーケードである。圧巻の一本道。遠近法を絵に描いたような写真が撮れた。

 そろそろ到着するはずだ。キョロキョロと辺りを見渡しながら歩いていると、見つけた。見つけたのだが、何だか変だ。暗いし、誰もいないし……おや?立派な木の扉に、札が掛けてある。そこには……

「休館日」

という札が!な、何だと?休館日?そんなはずはない。今日は金曜日だぞ。休館日は月曜日じゃないのか?

 隣のガラスに白い文字で、通常の休館日や開館時間が書かれていたが、そこに貼り紙がしてあった。そこには、

「8月のご案内」

と題し、1日、2日、4日、8日、18日、19日、22日、29日はお休みだと書いてある。19日!今日はその19日だった。

 なんと言うことだ。このために富山観光をしようと思ったのに。ここまで来るのにもかなり苦労したのに。酷いじゃないか。観光案内所のおじさんだって、ここに行くといいと言っていた。おじさんも今日が休みだとは知らなかったのだ。

 ショックでしばし呆然とした。こんなに遠くへ、また今度というわけにはいかない。だが、気持ちを切り替えないと。もう、ここはやってないのだから仕方がないのだ。どうしようもないのだ。とにかく、ウインドウに展示してあった、ミレーの絵の写真を撮った。ガラスに自分が映り込んでいるが、わざと自分の姿も撮影したのだ。何となく、腹いせに。意味不明だが。こういう時、一人じゃなければ愚痴も言えたのに。いや、でも逆に一人で良かった。もし人をここまで引っ張り回した後だったら、申し訳なくてたまらない。そうだ、一人で良かったのだ。

 来た道を戻るしかない。後ろ髪を引かれながら、トボトボと歩く。そして、改めて気づいた。このアーケード街、ほとんどの店が閉まっている!シャッター街みたいになっているではないか。こんなに大きいのに、開いている店がほとんどない。つまり、ここら辺一帯が休みなのだ。もっと早く気づけよ、私。いやいや、例えこの辺の店がみな休みだったとしても、ギャルリ・ミレーだけはやっていると、信じて疑わなかったに違いない。ガイドブックやホームページを信じて。それにしても休館日の多い事。8月はかき入れ時じゃないのか?でも、8月上旬はさておき、お盆を過ぎてやっと、商店街のお盆休みが来たのかもしれないな。まあ、何を言っても詮無い事だが。

 この辺には何もないので、次に行く事にした。

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