第23話 富山城

 富山城の近くで路面電車を降りた。すっかり晴れた。快晴だ。青空が広がり、そこに天守閣と石垣が映える。

 日傘を差して進み、道路を渡ると入り口である。私の前に、日傘を差した男性がいた。やはりその男性も富山城へ入っていった。緑色の水をたたえたお堀が見えてきた。お堀を渡る橋には松の木が連なっていて、松の木の下から覗くお堀の写真を撮った。とても風情がある。

 門をくぐると、変わった石垣があった。大きい石が所々に嵌め込まれた石垣の上に、立派な白い建物。黒い屋根。入館料210円を払ってお城の中に入った。中は郷土博物館になっている。

 2階が展示室だった。中は暗い。資料によると、富山城主は前田家。金沢城主の分家だそうだ。近いからね。なるほどね。展望台への入り口が見えた。階段しかないと書いてある。だが、これを素通りする事の出来ない性分で、疲れていようが足が痛かろうが、どうしても上ってしまう。2階分の階段を上って、展望台へ出た。

 天守閣の一番上だ。金網のフェンスが張り巡らされている。ああ、先ほどこの天守閣を目にした時に、何か網が掛けられているようで、工事中かなと思ったのだが、そうではなかったのだ。人が落ちないように常時こうなっているのだ。大阪城などもそうなっていたと思う。

 景色は上々。それほど高い所ではないが、周りに広い公園があるので、なかなか眺めが良い。お堀も綺麗だし、その向こうのビル群や、そのまた向こうに見える山々も。写真を撮ると、手前の屋根瓦が映り込むのがまたいい。

 それにしても、日本はどこの観光地に行っても、高い建物に上って展望台から外を眺めれば、必ず遠くに山が見えるよな。関東平野は広いのだが、それでも高いところからなら秩父連山などが見える。天気が良ければ富士山だって見えるのだから。その他、どの地域に行っても、やはり高いところからは山が見える。

 さて、この富山城、ぐるりと360度天守閣を回れるのだが、人と人がすれ違うのに十分な広さはない。今、70代くらいのご夫婦がいて、じっくりと景色を見ていた。追い抜こうかどうしようかと迷っていると、気がついてよけてくれた。ちょっと言葉を交わし、私は先に階段を降りた。

 途中で2階のトイレに寄ってから出てくると、先ほどのご夫婦が私の前にいて、階段をゆっくり降りていた。

 お城と向かい合わせになっている「佐藤記念美術館」にも行く事にした。屏風絵があるという事だ。私はけっこう屏風絵が好きなのだ。

 佐藤記念美術館に近づくと、池があった。水が澄んでいて、周りの木々や建物が映り込んでいる。石が綺麗に配置されていたり、植木がよく手入れされていたりして、綺麗な庭園になっている。池の左右、どちらにも道があって、池を迂回して建物に入るようになっていた。

 やはり、先ほどのご夫婦が前にいた。同じように美術館へ行くようだ。さっき少々言葉を交わしたので、何度も顔を合わせると、無視するべきか否か迷って、何となく気まずい。でも、あんまり気にしない。旅の恥はかき捨て。ん、使い方が違うかな。

 屏風絵も良かったけれど、それよりも茶室の展示の方が面白かった。抹茶もいただけると書いてある。本当は好きなのだが、抹茶もカフェインだから辞めておこう。残念だ。

 美術館を出て、そろそろこの富山城公園からも出ようと、美術館に近い門から出た。入ったのとは別の門だ。その門は赤茶色の瓦屋根で、道路側から見ると、門の向こうには天守閣がちらりと見え、写真に撮ると映える。青空と白い雲も一緒に撮れて、とても良い。そしてとても明るい。まぶしいくらいだ。門の外には立て札があった。その文字を読むと、とても面白い。

「御触書 

城下ニオイテ 

鳥(カラス)為ルモノニ 

餌ヲ与エル事ヲ禁ズ 

城主」

何て洒落た事を。今現在のお願い事を、こんな風に江戸時代風に書くなんて。だが、城主って誰だ?実際は市長とか?

 バス停へ向かうべく、降りたバス停の方へ富山城公園をぐるりと回っていくと、また赤茶屋根の門が見えてきた。これも風情があるなぁと思って近づいてみたら、これが何と駐車場の入り口だった。地下駐車場がお城の下にあるのだ。中は普通の近代的な駐車場なのだが、表面は至って古風。城との調和を大事にしていて、しかも遊び心を感じさせる。先ほどの立て札もそうだし。こういうお茶目なのが、私は大好きだ。

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