第22話 路面電車

 富山駅の中を、路面電車の線路が2本通っている。その線路を渡るのに、遮断機のない踏切を渡る。駅構内は人の往来も激しいのに、遮断機がないのだ。慣れない身からすると、非常に無防備に見える。普段は青信号になっていて、電車が近づくと、赤信号になって音が鳴る。前もって警報音が鳴るのではなく、電車が目の前に来たらいきなり音が鳴って、赤いランプが点灯する感じだ。信号の色の灯りは、信号機だけでなく地面でも光る。光る線が線路と平行に走っているのだ。渡っている最中に、急に赤になったらビックリしてしまいそうだ。でも、線路と線路の間にいたとしても、そこで立ち止まって、電車が通り過ぎるのをやり過ごせばいいらしい。こんな無防備な場所でも、スマートフォンを見ながら歩いていて、線路の真ん中に取り残される若者もいる。慣れているようで平気の平左衛門だ。

 さて、3番線からと言われたので、表示を見て3番と書いてあるホームに行った。ホームとは言わないのかな。乗り場か。おじさんもそう言っていた。3番乗り場には数人が並んでいる。私もその後ろに並んで待っていると、電車が到着した。前の扉が開き、人が降りてきた。後ろの扉は閉まったままだ。その時、私の後ろに並んでいた、腰の曲がったお婆さんが、

「もうすぐ開きますからね。」

と教えてくれた。親切だ。だから安心していたのだが、電車の後ろの扉が開く事はなく、電車はそのまま発車して、行ってしまった。びっくり。なんで?

 お婆さんも驚いたようで、

「あら?行っちゃったね。どうしてだろ。」

と言っている。

「前の扉まで行かないといけなかったんでしょうかね。」

私が言う。この人、地元民かと思ったらそうじゃないのか?そんな事を思っていると、私の前に並んでいた若い女性が、

「あれは富山大学行きなので。」

と言う。

「そうなの?」

お婆さんが言う。私は、フリー切符を開いて中を見た。フリー切符は厚紙が二つ折りなっていて、開くと左側にカレンダーのようなものが、右側には路線図が書いてあるのだ。私はその路線図を見てみた。だが、富山大学は見つけられなかった。観光客には優しくないぞ、この路線は。すると若い女性は、

「あれには乗らなくていいんです。次の電車が来て、ちゃんと乗れるので大丈夫です。」

と教えてくれた。私にではなく、お婆さんに教えてあげているようだった。もしや、まさか、私が地元民ではなく、このお婆さんが地元民だから、よそ者には話しかけず、地元民にだけ話しかけたとか?富山の人はよそ者に警戒心がある?いやいや、お婆さんはわざわざ私に話しかけてくれたし、そんな事はないと思うが……。そうだよな、私が路線図を見ている間に、お姉さんとお婆さんの二人の会話になってしまっただけなんだよな。そもそも、私はよそ者に見えるだろうか?あれ?お婆さんが最初にああやって声をかけてくれたのも、つまりは私がよそ者だと最初から分かっていたからという事なのか?不思議だ。観光客に見えるような格好をしているだろうか。それか、どう見ても富山県民の顔ではないとか?まあどのみち、路面電車の事が分かっていないから、今はよそ者にしか見えないだろうな。このお婆さんは地元民のように見えるが、実際どうなのか?よく分かっていないみたいだが、単にお年寄りだから?

 それにしても、よそ様のバスや路面電車は、そのルールが難しい。しばらく観察していれば分かってくるのだが、先頭に並んでしまったらどうしようもない。前の人に習って、同じようにやるのが一番だ。

 そして、次の電車がやってきた。ちゃんと後ろの扉も開いて、列の前の人から順番に電車に乗り込んだ。

 富山の路面電車は、おおよそバスのルールと同じだった。ここでは後ろの扉(と言っても車体の真ん中辺りにある)から入り、運転席横の前の扉から降りる。降りる時に料金を払う。フリー切符の場合はそれを見せるのだが、二つ折りの中を開いてカレンダーのような物を見せる。カレンダーのような物は、月と日と、それぞれの数字が羅列していて、その数字はスクラッチになっている。そのスクラッチの、今日の日付の数字を削っておき、その部分を運転手に見せて降りるのだ。私が持っているフリー切符のスクラッチは、観光案内所のおじさんが削ってくれていた。きちんと削れていないけれど、まあいいのだろう。

 さて、無事に電車に乗れた。初めての電車にソワソワする。座っていいんだよな?とキョロキョロし、ソワソワしつつ座席に座った。今まで、広島と長崎で路面電車に乗ったことがある。東京にもあるのに、東京の路面電車には乗ったことがない。

 外を眺めていると、ほぼバスに乗っている感じだ。車体の低いバスのよう。でも、揺れ方が違う。乗り心地はやっぱり電車だ。

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