第13話 長町武家屋敷跡地

 次は「長町武家屋敷跡地(ながまちぶけやしきあとち)」へ行こうと思う。地図によると、割とここ金沢城公園から近いらしい。歩いて行けるはずだ。GPSを使いながら、つまり自分の位置を地図上で確認しながら進む。

 金沢城を出て道路を渡ると、また木々に囲まれた庭園に出た。大きな池があり、その中程には小さな島がある。木が植えられ、岩もあって、さながら箱庭である。その島には太鼓橋が架けられていて、渡る事も出来そうだ。でも、誰もいない。あそこまで行かれるようには思えない。抹茶がいただけるらしい建物が、その池の前にある。その中には辛うじて人がいるようだ。

 母親と思われる女性が、10代くらいの息子の写真を撮っていた。息子はちょっと照れたりしている。微笑ましい。寂しくなんか、なってない。息子を思い出してなんか、いないんだから。

 それにしても、とても広い。調べてみると、ここはまだ金沢城公園の中で、「玉泉院丸庭園(ぎょくせんいんまるていえん)」という所だった。藩主の私的な庭だったとか。高低差が22メートルもある立体的な公園で、階段を下りて池の近くまで行き、また階段を上って外へ出る。木が青々と茂り、というか森のように茂り、その緑と芝生の黄緑との配色が美しい。それなのに、観光客がほとんどいないのは残念だ。金沢城へ来たならば、ここへも来ないと勿体ないと思う。

 玉泉院丸庭園を通り抜けると、そこには「尾山神社」があった。目的地へ行くには、この神社を通り抜けなければならない。ここは「前田利家」とその妻「まつ」が祀られている神社だそうだ。通り抜けさせてもらうので、お賽銭を投じてきた。けっこう広い神社で、参拝客も割と多くいた。通り抜けてから振り返ると、変わった門がある。鳥居としめ縄もあるのに、ステンドグラスの窓がある、塔のような門もある。ステンドグラスの窓があると言っても、西洋建築ではない。どちらかと言うと東洋建築っぽい物が門に乗っかっている感じだ。和漢洋を折衷した「神門」だとか。確かに、中国の建物のような雰囲気もある。珍しい物を見ることが出来て、ここにも来て良かった。

 道路に出た。雨が降ってきた。酷い風と共に。髪の毛がバリバリだ。ジャンプーが合わなかったのか、そうではなく天候のせいなのか。一度観光センターに入ってみたが、あまり役に立たないのですぐに出た。それにしても、やっぱり頭が痛い。斜めがけにしているボラバッグが重く感じる。肩が凝る。

 近道をしようとGPSに頼るのだが、何故かよく分からない。この道は歩ける道なのか?迷いながら進むと、どうやら違ったりする。そして、意外に遠い。道に迷い、風雨の中をだいぶ歩いて、やっと武家屋敷が点在するエリア、長町武家屋敷跡地にたどり着いた。まずは野村家へ入ろう。

 大きな石畳を歩いて入り、いかにも昔風の家に入った。「加賀藩千二百石野村家」という表札のような看板が掛かっている。玄関に入ると窓口があり、入場料550円を払った。今までの観光地に比べて、少々お高め。期待も高まる。だが、入ってみると、

「これだけ?」

と思ってしまった。昔の家に入っただけ、というか。私が昭和育ちだから、そう思うのだろうか。

 だがここは、庭が、ミシュラン2つ星だとか、アメリカの庭園専門誌の日本庭園部門で第3位だとかという高評価なのだそうだ。確かに、軒下まで続く池や、所狭しと並ぶ灯籠や松の木などは素晴らしい。ちょっと詰め込み過ぎな気もするが。けっこう多くの観光客がいて、縁側に腰かけて一眼レフなんかを構えている人が何人もいた。

私も縁側へ出てみた。すると、足下の池にでっかい鯉が何匹もいるのが見えた。特にでかい、金色の鯉を見つけてびっくり。写真を撮ろうと思ってスマートフォンを取り出したのだが、その金色の鯉は、二度とは姿を現してくれなかった。仕方なく、赤い鯉だけを写真に収めた。池の水がだいぶ濁っていて、その姿もあまりはっきり撮れなかったのだが。雨続きだったから仕方がないか。

 さて、次は旧加賀藩士「高田家」へ行こう。野村家の前で地図を確認し、向かった。近いので、ここは割とすぐに見つけられた。

 その高田家、入場料は無料だが、それもそのはず。ただ、馬小屋だったところがあり、庭があるだけだった。中に入るという感じではないのだ。庭があると言っても、先ほどの野村家とは大違い。管理する人もいないのだ。だが不思議ではない。野村家は、加賀藩の重役を歴任した家の武家屋敷跡で、この高田家は、中級藩士の家を再現した物なのだ。庭では二人の女性がしゃべっていて、別のもう一人の女性がベンチに座ってぼーっとしている。いや、ぼーっとしているかどうかは私の勝手な推測だが。私は入ってくるりと見回し、すぐに出た。そういえば写真も撮らなかった。

 道路脇には水路があるのだが、これがまた恐ろしく速く流れていて、抹茶色に濁っていた。ゴーゴーと音を立てて流れている。灰色の雲も垂れ込め、穏やかとは縁遠い景色。

 一人でひたすら歩いていたら、おじいさんに声を掛けられた。

「武家屋敷はあっちだよ。」

と。

「ありがとうございます。」

と、ニッコリしてお礼を言っておいた。しかし、武家屋敷って何だ?野村家の事か?

 もう武家屋敷には行ったので、それを探しているわけではない。だが、次なる場所へ向かうため、おじいさんが「あっちだ」と言った方へ歩いて行くと、人が多くいる場所が目に付いた。するとそこには「武家屋敷」という看板が出ている。ああ、おじいさんが言っていたのはこれか。それは、お土産屋さんだったみたいだ。団体客と思われる人たちがいた。

 そこを素通りして、更に進んで行くと、もっと風情のある場所にたどり着いた。石畳が続いており、黄色い壁に屋根瓦のついた塀が伸びている。瓦の乗った塀って、ただもんじゃないよな。けれども、入って楽しむような施設はなさそうで、いやそれどころか、お店もお土産屋もなかった。とはいえ、別に武家屋敷のお土産が欲しかったわけではないので、よしとしよう。さて、次だ。

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