第11話 二日目の朝
夜中に何度も目が覚めた。布団が厚いので暑いのだ。それで、手足を出して寝ると、弱くかけてあるとはいえ冷房の風が当たってちょっと寒い。それで手足を布団の中に入れる。すると、やっぱり暑くて手足を出し……という無限ループ。暑い、寒い、と思う度に目が覚めた。これは旅行あるあるだ。夏なのに、布団が冬物なのだ。冷房を強くかけ、厚い布団で寝るのがいいとか睡眠の専門家か何かが言っていたが、やっぱり電気の無駄遣いのような気がしてしまって納得出来ない。主婦根性が出てしまう。いや、SDG’s精神か?今はホテルだから、電気代が自腹ではないと言っても、慣れない事は出来なし、SDG’sが……。それに、布団に入っている時は部屋を冷やしていてもいいかもしれないが、布団から出たら寒いのでは困る。半袖Tシャツで寝ているのだから。
6時半に目覚ましをかけておいたが、その少し前に目が覚めた。昨夜は10時頃に寝たのだから、けっこう寝た。前述通り、あまり熟睡は出来ていないが。そして、ものすごく肩が凝っていた。頭も痛い。やっぱり枕が高かったのだろうか。それとも、冷房のせいで冷えたか、いやいや布団のせいで暑かったとか。つまり原因は特定できない。ともかく、温泉に浸かりに行こう。
家族で旅行する時にも、朝はいつも大浴場に行く。そうすれば、洗顔も着替えもお風呂場で済ませて来られる。家族と言っても息子が大きくなると、着替えるのにもちょっと気を遣うので。しかし、今は一人。部屋の中を自由に、真っ裸で歩いたっていいのだが、とにかく肩こりが酷いので、温かいお湯でほぐしたい。
大浴場に行く度に、女湯の入り口で暗証番号を入力する。この番号は、日によって変わるそうだ。確かに、女性客にだけこの暗証番号を教えておけば、男性客が入って行く事もなくてセキュリティ的にはいいのだろう。
朝のお風呂は空いていた。洗い場で顔を洗い、体はシャワーで流してから湯船に浸かった。だが、お風呂で温まっても頭痛はあまり治らなかった。とにかく着替えて部屋に戻ってきて、化粧をした。次は朝食だ。ビュッフェスタイルの朝食は、このホテルの売りの一つである。特に、焼きたてパンが売りだ。石川県のご当地メニューもあるとか。
楽しみにしていた朝食なのに、朝食会場に向かう為に部屋を出ようとした瞬間、いきなりズーンと寂しさがこみ上げてきた。いつもの旅行では、朝食のビュッフェに向かう時にはいつも家族が一緒だ。早くしろとか何とか言いながら、バタバタと4人で向かうあの感じ。あれを思い出してしまった。とはいえ、その寂しさはほんの一瞬だった。そういえば、前回の旅行では、長男がなかなかお風呂から帰ってこなくて置いていったのだった。
1階のビュッフェ会場へ降りて行くと、既にたくさんの人が列をなして食事を選び取っていた。ビュッフェ会場は、昨夜ウエルカムドリンクを飲んだ場所である。私は二人用のテーブルの一つに荷物を置き、食事を取りに行った。もうこうなると寂しくはない。いつも食事を取りに行くのは一人だし、何なら食べている時に家族が取りに行っていて、一人で食べている事もしばしば。もう子供が大きくなって、我が家はゆるーく繋がっているだけで、けっこうバラバラなのだ。
前回の長男を置いていった時の事だが、先に3人でビュッフェ会場に行き、長男にはLINEでその事を伝えておいた。ところが長男は、一人1枚持っていたカードキーを、スマートフォンケースに差し込んだままロッカーに入れてしまい、カードキーがないとロッカーが開かなくて困ったらしい。スマートフォンをロッカーから取り出すべく、カードキーを誰かに借りる為に部屋に戻ったが、既に我々がおらず、ビュッフェ会場まで探しに来たのだ。カードキーを貸してと言いに。LINEはもちろんまだ見ていない状況だった。今はスマートフォンがあるから安心、などと思っていると、こういう事がある。それでも、スマートフォンがなくても何とかなるように育てたので、何とかなったと言えよう。まだスリッパだった長男は、私からカードキーを借り、ロッカーから貴重品を出し、一度部屋に戻り、靴を履いてビュッフェ会場に来た。ほとんど食べ終わっていた我々は、長男を置いて先に部屋に戻ったのだった。
因みに、スマートフォンがなくても何とかなるように育てたというのは、高校生になるまで、スマートフォンはおろか携帯電話も持たせなかったという事だ。時代はどんどん移り変わるので、これからの子育てにはそのまま適用できないと思うが、うちはギリギリ何とかそれで鍛えた。中学生の時には、部活で電車に乗って知らない土地へ行く事も多かったが、その時に連絡も出来ず、調べる事も出来ず、前もって地図を印刷しておいたり、駅員さんに聞いたりして、鍛えたのだ。二人とも。
さて、私の朝食である。いつも、朝食を食べ過ぎてお昼になってもお腹がいっぱいで、夕飯まで響いて、という事が多かったが、今回は自由。朝食をたくさん食べ、その分お昼を食べなければいいのだ、という心づもりである。つまり、たくさん食べるのだ。
だが、ビュッフェのメニューはそれほど品数が多くなかった。というか、珍しい物があまりなかった。パンを3つほど取って、後はサラダとか、お総菜をいくつか。楽しみにしていた郷土料理は治部煮だった。治部煮は昨日食べたのになぁと思いつつ、取った。やっぱり横にわさびが置いてあるので、少し取って添えた。ヨーグルトも取って、どうしてもカレーが欲しいので、ご飯もほんの少し。金沢カレーというのも有名だそうだ。カレーの上にご飯を乗せたのは、単なる順番のミスである。
さて、こんなもんだろう。席に戻り、写真をパチリ。ああそうそう、飲み物も。ジュースを少し取ってきた。
いただきます。午前8時少し前。やっと朝食にありつけた。パンがサクサクでとても美味しい。トースターなどで温めずともこのサクサク感。焼きたてパンという「売り」は間違いなかった。カレーも美味しい。治部煮はやっぱり甘かった。
本当はコーヒーが飲みたい。自宅ではカフェインレスコーヒーを飲む私。ここにはカフェインレスのものはジュースと牛乳しかなかった。私はカフェインが効きすぎるので摂らないようにしているのだ。やっぱりカフェインレスコーヒーを持ってくればよかった。そうしたら、部屋に戻ってお湯を沸かして飲めたのに。
とはいえ、夏だからペットボトルの十六茶や麦茶でも良い。食べ終わると部屋へ戻った。一人ビュッフェは、多少顔を上げづらいというか、キョロキョロしにくい感じはするが、今は黙食が求められる時代だし、小さい子と親御さんの会話が耳に入って退屈しないし、一人で食事を取りに行く人は多いので、それほど落ち着かないものでもなかった。もう、ここまで色々一人でやってきているので、食事だけ独りぼっちを寂しいとは感じないというか。
さて、歯磨きをして、お化粧を直して、試供品の日焼け止め乳液を顔や腕に塗って、支度を調える。日焼け止め乳液は量が多すぎて、一瞬顔が真っ白になってしまった。でも、一度開けると残しておけないから仕方ない。
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