第6話 博物館

 これから金沢の中心地に向かう。金沢市街地の真ん中にでんと構えるのは、兼六園と金沢城公園だ。その周辺には美術館や博物館も密集している。バスに乗り、兼六園と金沢城公園の間にある、21世紀美術館の前でバスを降りた。

 今日は雨なので、外を巡るよりも室内の観光をした方がよさそうだ。なので、今日初日は、博物館巡りをしようと考えた。まずは国立工芸博物館へ。この工芸館は、東京にあった東京国立近代美術館工芸館をこちらへ移築したもので、日本海側初の国立美術館だそうだ。

 地図を見ただけでは分からないのが坂だ。高低差が分からない。実際にバス停に降り立ってみると、ここからぐんと急坂になっていて、その坂を上って行かなくてはならないらしい。

 坂を上り初めて、ふとボラバッグを見ると、なんとバッジが無くなっている。実は、新幹線の中でピンバッジを一度落してしまい、付け直したのだが、今度はマグネットバッジが無くなっている。ボラバッグには前ポケットに蓋がついていて、そこにピンバッジやマグネットバッジを付けていた。何も付けないと見た目が寂しいから、赤や青などのバッジがあれば少し華やかでいいと思って付けていたのだ。しかし、擦れたりするとバッジは取れてしまう。ピンバッジは出っ張っているから取れやすいが、マグネットバッジは平らだから大丈夫だと思っていたのに。このマグネットバッジは、オリンピック1周年のイベントに参加してもらったものだった。

 慌てて辺りを見回し、慎重にバス停まで引き返した。地面を見つめながら。しかし、バス停まで戻ってみても見つけられなかった。はっ、そういえばバスを降りる際に、私の前に降りた男性が、バスを降りてすぐのところで何かを一生懸命に拾おうとしていた。

「なんか落ちてる。」

と、お連れの女性に言いながら拾っていたのだ。チラッと見たら銀色の丸い物で、お金よりも少し小さい。どうしてあんな物を拾おうとしているのだろうと不思議に思ったのだが、もしかして、あれは私のマグネットバッジの裏側だったのでは?

 いやでも、私が降りる前に外へ落ちるというのは考えにくいか。じゃあ、やっぱりバスの中で落したのだろうか。残念だ。この先ピンバッジも落しそうだと思ったので、外した。バッグがグレー一色で寂しい感じになってしまったが。

 悲しい。大事なバッジを無くしてしまって悲しいが、仕方ない。気を取り直して前へ進もう。さて、工芸館はどこだろうか。

 坂を上って行くと、矢印看板が見えて、そこまで行くと急な階段が現れた。山の上に出られる感じに作られている。そう、木々の生い茂った山がここにはある。兼六園は山なのだ。今初めて知った。山というか、丘というか。その前にある工芸館に行くために、登るしかない。この階段でいいのだろう。

 階段を上ると、駐車場があって、その向こうにお目当ての博物館たちが並んで建っているようだ。近づいて行くと、建物の前が広場になっていて、まるでヨーロッパのお城の前に来たようだった。

 まずは国立工芸館へ。外観は白い壁に濃いグレーの屋根。よく見ると瓦屋根だ。ぱっと見洋館なのに、瓦屋根。中央に入り口があり、その右側は緑色の線で装飾してあり、左側は黒い線で装飾してある。ここは入館料が無料だった。移築する前は東京にあったという事だが、東京にある時には行かずに今行くとは、何とも。あれ、行った事あったかな。あったとしても相当昔だ。

 入って行くと、職員の女性に声を掛けられた。

「お荷物はロッカーに入れられますよ。100円を入れて鍵をかけるタイプですが、後で100円は戻ってきますから。」

と言われた。私がちょっと迷っていると、

「何だか重そうだったので。どちらでもいいですよ。」

と、更に言われた。私がボラバッグを斜めがけにし、エコバッグを2つも肩に掛けていたから言われたのだろう。荷物は大して重くはなかったが、せっかく親切に教えてくれたので、入れる事にした。

 ロッカーに荷物を入れ、改めて入場してみると、あまり展示室は広くないようだった。展示品も少ない。工芸品に混じって、理科室にありそうな人型模型があった。男の子のマネキンのようなもので、お腹に扉があって、それを開けて中を見せている感じ。中はもちろん内蔵だ。恍惚とした表情をしており、靴は履いているのに服は着ておらず、非常にシュールだ。写真を撮った。ここは、「写真NG」と書いてある作品がいくつかあったので、その他はOKという事だろう。だが、一応他の作品は撮らなかった。この人型模型だけは、子供達に見せたかったので撮ってしまった。ちょっと卑猥でもあるので、SNSには載せられない。

 作品は多岐にわたる。皿とか壺とか織物とか。綺麗で趣深く、面白かった。


 次に「石川県立歴史博物館」へ。すぐ隣である。同じく濃いグレーの瓦屋根だが、壁は全てレンガ色。いや、レンガで出来ているようだ。同じような建物が3棟並んでおり、その全てが歴史博物館で、屋根付きの渡り廊下で繋がっていた。入館料は300円だが、やはりバスの一日フリー乗車券を提示すると、団体料金の240円で入れた。それにしても、前もってバスのフリー切符の事を調べておいたお陰で、ずいぶんとお得に旅が出来る。事前に調べるのは大事だと思った。

 いやまあ、手間と時間を掛けるより、お金を多少余計に払った方がよいという考え方もある。タイパというのか?だから、普段忙しい人だったら、むしろ旅行には下調べなどせずに行き、余計な事(お得だとか損だとか)は考えず、ただその場を楽しむのもいいかもしれない。けれども私は、下調べなどをして、念入りに計画を立てる事も、旅行の楽しみの内だと思っているので、やっぱり下調べは大事なのだ。

 さて、歴史博物館は広い。先ほども述べたように、3棟の建物全てが歴史博物館なのだ。使われていないだだっ広いスペースもあったが。参勤交代の模型などがあって面白く、前田利家の事がよく分かるような展示になっていた。私は大河ドラマ「利家とまつ」は観ていなかったので、前田家については詳しくなかった。ここへ来てようやく知った。

 展示を見終わったところで、手近な椅子に座ってちょっと疲れを癒した。本当は、この辺でお茶でもしたいところなのだが、この博物館にはカフェがなかった。自動販売機はあったので、ジュースを買おうかどうしようか迷ったが、ペットボトルのお茶を持っているので、やっぱり辞めた。

 歴史博物館を出ると、雨はほとんど止んでいた。時々小雨が降る程度になっている。まだ午後2時半。今日は雨だから、兼六園に行くのは辞めておこうと思っていたのだが、どうせ晴れていても曇っていても日傘は差すのだ。つまり、どんな天気でも傘は差すのだ。先ほどスマートフォンで天気予報を見たところ、明日の天気も怪しくなってきたし、小雨ならば何も問題ないではないか。

 ということで、これから兼六園に行くことにした。すぐ近くにいるしね。

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