第9話:Double Imagination
〝適合合体〟
マギテラと地球が融合した際に、何万人と見つかった〝融合者〟。
二つの惑星が融合する際に、重なる場所に居た人物や生物がそれぞれ独立して現界せずに、存在を重ねた上に溶け合い、一個の存在として現れてしまう現象=それが〝融合者〟だった。
その後、さらに発見された現象が〝適合合体〟である。
これは二つの世界の別々な存在が、何千万分の一の確率で融合出来る相手と出会うと、〝サイン〟と呼ばれる現象が起こる。それは局地的な天変地異であったり、めったに見られない気象現象であったり、特異な視覚的現象であったりした。
しかしその〝サイン〟が出た時は、地球とマギテラ、二つの存在が一つの存在として融合合体し、融合後の世界のための存在として、ある種の進化を遂げることが出来るというサインでもあった
◇
元は地球の普通の女性だったが、二つの世界が融合した時に魔法使いとしての才能が開花したアイリーンは、第二次ヌルドジーレイド・ホッカイドー独立戦争に本土側の魔法使いとして参加した。
地球人もマギテラの民も参加したこの局地紛争では、魔法戦・肉弾戦・銃撃戦が入り乱れての熾烈を極めた戦闘が展開され、戦闘が終了したあとには焼け野原だけが残った。
そんな焼け野原で、アイリーンは雷獣〝イカヅチタイガー〟のメスの子供と出会った。
親は戦闘に参加して、すでに死んでいた。自分が直接手を下したかどうかなど判らなかった……それほど激しい戦闘だったからだ。
焼け焦げた半身を残した親にすがりついて泣く子供のイカヅチタイガーを見た時、アイリーンは自分でも驚くほどの憐憫の情に囚われたが、その憐憫の情を恐怖がかき消した。強くならなければ、もっと強くならなければ自分もこのイカヅチタイガーのように荒野に死体を晒すことになる。
だがその時、すがって泣いてくれる者は居るのだろうか?
彼は自分の死に涙してくれるだろうか?
ただ、自分の死体がそこに転がっているだけになりはしないだろうか?
『それだけはイヤだ』
ただ弱いだけの自分はイヤだ。彼を失って死んでもいいと思って、戦闘に参加したが、やっぱりイヤだ、ただ死ぬのはイヤだ。
彼に振り向いてもらいたい。
彼が一目置く存在になりたい。
彼を独り占め出来るくらいスゴイ自分になりたい。
『だから強くなりたい』
自分の想いに捉われて立ち尽くすアイリーンに、子供のイカヅチタイガーは気が付いた。警戒心も露わに、毛を逆立てる。怒りに震えるイカヅチタイガーの子供にアイリーンは話しかけた。通じないかもしれないのに、言葉で話しかけた。
「あんたの親が羨ましい……あんたみたいに泣いてくれる身内が居て……。だけどあたしが死んでもあの人は泣いてくれるかな? あんたはどう? 誰か泣いてくれる人はいる?」
怯えた子供のような顔で話しかけるアイリーンを見て、子供のイカヅチタイガーはハッとしたような顔をしてアイリーンを見た。
それを見たアイリーンはまるで自分に聞かせるように話を続けた。
「誰かに必要とされたい……誰かにとって大事な存在になりたい……そう、あの人が思わず振り向くような何かになりたい!」
子供のイカヅチタイガーは、初めこそアイリーンの様子に戸惑っていた素振りを見せていたが、やがてそっとアイリーンに近付くとじゃれるようにその足に寄り添った。
その時、〝サイン〟は現れた。
空はにわかにかき曇り、稲妻がほとばしる。
一人と一匹は驚くほど幅広い稲妻に包まれ、周囲に居た兵士や亜人、モンスターたちは一瞬その姿を見失った。再び開かれた目に映ったのは、焦土を走り去る一匹のイカヅチタイガーの姿だった。
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