第14話 証言

「ほら、妹も証言している。

 いいかげん、認めたらどうなんだ?」


ベッティル様が勝ち誇った顔しているけれど、やっぱり詰めが甘いとしか言えない。

何の証拠も出してこないとは思わなかった。

これなら魔石を出さなくてもいいかもしれない。


「ベッティル様側の証言はイザベラとブランカだけでよろしいのですね?

 では、私がしていないということを証言してもらおうと思います」


「なんだと!?いったい、誰にだ!」


くるりと後ろを向いて、学園の学生全員へ呼びかける。


「みなさま、私がイザベラに嫌がらせをしているのを見たという方!

 もし、そんな方がいるのであれば手をあげてください」


「ふっ。わざわざ自分に不利な真似をするとはな。

 ここにいる全員が手をあげるに決まってる」


まだベッティル様たちは自分の勝ちを確信している。

おそらく、一人でも手をあげたら十分だと思っているだろうから。


だが、誰も手をあげなかった。


「は?」


「な、なんで?どうして誰も手をあげないの?」


「何しているの!みんな、手をあげなさいよ!」


騒ぎ出した三人はそのまま、証言を続けさせてもらう。


「では、私はイザベラに何もしていないのに、

 イザベラが私に嫌がらせをされたと嘘を言っているのを見たことがある方、

 手をあげてもらえますか?」


ザっと音がして、ほぼ全員が手をあげた。

当然だ。最終的にはイザベラはA教室だけでなく、食堂や廊下でも騒いでいた。

そのことは他の学年にも噂になっていた。イザベラが私を陥れようとしていると。


「ほら、ベッティル様。

 私は何もしていないと証言してもらえましたけど?」


「……嘘だ!」


「そうよ、公爵家の力でも使ったんでしょう!!」


慌ててベッティル様とイザベラが騒いでいるけれど、学生たちの証言は覆せない。

これほどの証言者がいるのに、無かったことにはできない。



学生たちのそばで姿を消したままのアロルドが笑う。

これは、アロルドが学生たちに嘘がつけなくなる魔術をかけたおかげだ。

どうやら何人かはベッティル様の味方がいたようだけど、

反発しようとした学生のところにはアロルドが行って魔術で眠らせていた。

残りは、自分の知っている真実のままに手を上げてくれた。


「公爵家の力?そんなものは王家の権力に負けると思いますが?」


公爵家の力を使ったというのなら、そちらは王家の力を使ったのでしょう?

そうちらつかせてみれば、気まずそうな顔して黙った。


「実は、他にも証言してくださる方はいるのですが、どうしますか?

 食堂の個室の給仕や学園の使用人。

 そしてイザベラを攫おうとしたという公爵家の使用人も捕まえてあります」


「なんだと!?」


「食堂の個室の中でベッティル様がブランカと相談していた内容、

 階段を落ちたという時に周りに誰がいたのか、

 使用人にイザベラを攫えと命令したのが誰なのか、すべて証言させられますわ。

 この場で記録した魔石を見せましょうか?」


これらは証拠があると言われたら問答無用で見せるつもりだった。

だけど、ベッティル様のは二人が証言するだけのお粗末な罠だったため、

やりすぎるとこちらのせいにされかねない。

そう思って聞いてみたら、陛下に止められた。


「そこまでだ。お前たち、話は後でにしろ」


「父上……」


「後日、王宮に呼ぶ。エルヴィラもわかったな?」


まぁ、もともと卒業式典で話すようなことでは無い。

後日しっかり話してくれると言うのならそれでいい。

陛下の言葉を了承する意味を込め、礼をして二学年の席に戻った。


壇上にいたベッティル様とイザベラと、

前に出て来ていたブランカは宰相の指示でどこかに連れて行かれていた。


「……ここで終わらせられなかったな。残念だ」


悔しそうなアロルドのつぶやきに返事をすることはできず、少しだけうなずいた。

本当に残念だ。婚約破棄するだけなら、そのまま受け取って終わりだったのに。

でも、私を公爵家から追放しなくては三人の願いが叶わないのだろう。







結局、卒業式典から一週間後に王宮へと呼び出されることになった。

王宮からの呼び出し状を見ていると、アロルドが何かに気がついて「あ」と声をあげた。


「どうかした?」


「今、腕輪がカチリと鳴った気がした。

 見てみたら石が完全に黒になってる」


「本当だわ。……じゃあ、夜になったら精霊王に会いに行きましょう」


残っていたぬるいお茶を飲み干すと、渋さが舌に残る。

あと少し、もう少しだけ、そんな気持ちで今日まで延ばしていたけれど、

この生活を終わりにしなくてはいけない。


ソファで寄り添って座るのも、もう必要はないはずなのに、

それでもふれている腕を離せなかった。



精霊に案内されて湖まで行くと、そこにはもうすでに精霊王が待っていた。


「私たちを待っていたのですか?」


「あぁ、そろそろ来ると思っていた。

 黒になったのだろう?」


「はい」


あぁ、これで呪いが解ける。そして、アロルドは家に帰らなくてはいけない。

泣きそうになるのをこらえ、精霊王が呪いを解くのを待つ。


「あ、先に言っておく。

 呪いは解けん」


「「は?」」


「まだその呪いを解けない」


「え?どういうことですか?」


「……なんというか、まだ時が来ていない。

 その腕輪にたまった力を使えば一時的に姿を見せることはできるだろう。

 だが、完全に呪いを解くにはそれだけでは無理なんだ」


これだけではダメ?

呪いが解けないと聞いてがっかりしなきゃいけないのに、どうしてもほっとしてしまう。

だって、それならまだアロルドと離れなくて済む……。


「一時的にというのは、どのくらいですか?」


「そうだな。その力を使えば、今度は黒から色が薄くなっていく。

 白に戻るまで姿は見えるようになるが、完全に白になるまで力を使ってはいけない。

 まだアロルドは不安定な状態だからな。力を使いすぎないように。

 だいたい、三時間くらいまでなら問題ないだろう。

 ここぞという時に使いなさい」


「わかりました……」


「今ある問題を先に片付けたほうがいい。

 呪いはそれからでも大丈夫だ」


「そういうことであれば、わかりました」


今ある問題。それはきっとベッティル様のことか。

精霊王はもうすでにこの国に興味を失っている。

お父様の裏切りや、陛下たちの私への扱いの悪さ。

精霊たちから聞いているのかもしれない。


だからこそ、できるだけ私たちだけで解決したかった。

お父様の裏切りでこの国から祝福が消えた。次に何かあれば加護が消える。

そうなったらどれほどの被害が出るのかわからない。

それを背負う覚悟は、私にはまだ無かった。





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