第13話 婚約破棄作戦、決行の日

ベッティル様とイザベラの後ろにいるのが異母妹のブランカだということがわかり、

こちらも手を打つ必要が出てきた。

少なくとも向こうが何をするのかわかっていたほうがいいと、

アロルドは三人の行動を監視し魔石で記録するようになっていた。


ベッティル様たちは婚約破棄に向けて私の評判を落としていき、

最終的に卒業式典で私を追い詰める作戦のようだ。


新年を迎える長期休みが終わった直後、

学園内でイザベラが階段から突き落とされたと騒いでいた。

その一か月後には公爵家の本宅の男性使用人が三人ほど、

敷地内に入れなくなったと報告があった。


あと少しで卒業式典を迎える時期になって、

ようやくアロルドの腕輪の石は藍色から黒に変わっていた。

もう数日あれば完全に黒になるだろう。

この石が黒になったら、アロルドの呪いが解ける。


……この生活も終わりになってしまうのかしら。


アロルドと一緒の生活はもう二か月にもなっていた。

姿を取り戻したとしても、

それまでと同じように離れて過ごせるとは思えなかった。


ベッティル様と婚約解消することができたら、

その時はもう一度アロルドと一緒にいられるかもしれない。

それだけを希望にこの生活が終わることを覚悟する。


「ねぇ、アロルド。もう少しで石が黒に変わるわ。

 卒業式典が終わったら、精霊王に会いに行きましょうか」


「あぁ、そうだな。あいつらは卒業式典で決行するつもりらしいし、

 それが終わったら呪いを解いてもらうか……」


ベッティル様と婚約を解消することに文句はない。

むしろこちらからお願いしたいくらいだ。

だけど、きっとその時にはイザベラとブランカはただでは済まない。

王子をそそのかして、公爵家の当主を陥れようとしているのだから。


それでも、このまま公爵家を好き勝手にさせるわけにはいかない。

異母妹を見捨てることになっても、仕方ないと思った。





そうして迎えた卒業式典の日。

これは学園の三年生の卒業を祝う式典で、私たち在校生も出席する。

夕方から卒業パーティーが行われるため、式典自体は短時間で終わる。


卒業生全員の名を呼ばれ、学園長と陛下が挨拶をするだけ。

在校生は出席するだけで、前に出ることも挨拶することもない。


それなのに式典が始まってすぐ、壇上にあがったのはベッティル様だった。


「みんな!この場を借りて、大事な話をしたい」


「……あいつ、馬鹿なのか?」


姿が見えないまま隣にいたアロルドが思わずと言った感じでつぶやいた。

つぶやきたくなる気持ちはわかる。さすがにこれはない。

式典が終わった後で呼び出されるか、

陛下を交えて別室で話すとかするのだと思っていたのに。


「エルヴィラ。エルヴィラ・アーンフェ。今すぐ前に出てこい」


壇上から大声で呼ばれ、仕方なく前に出て行く。

整列していた学生たちが気の毒そうな顔して左右に避けてくれる。


前に行くとベッティル様と目があった。楽しそうにニヤリと笑う。

……もう自分たちが勝ったと思っているんだろうな。


「エルヴィラ、お前は幼いころに俺の婚約者として選ばれた。

 だが、それはこの場で破棄しよう。

 お前のような心が醜いものと結婚することはできない!

 お前は王子の婚約者であることを鼻にかけて傲慢になっている。

 俺の大事な恋人イザベラに嫉妬して嫌がらせを続けて来たな?」


「婚約を解消することには異存ありませんが、

 イザベラに嫌がらせをしたことはありません」


「なんだと?解消を認める?殊勝なふりして誤魔化そうとしているのか?

 まぁ、そうやって否定しても証拠がある。イザベラ、出てきてくれ」


いつのまにか壇上にあがったイザベラがベッティル様の隣に立つ。

少し高いところから私を見下ろしているが、その目は楽しげだ。

悲しそうな顔をしても本性を隠せていない。


「エルヴィラ様、私がベッティルの隣にいるのが気に入らないのはわかります。

 ですが、嫌がらせはひどくなる一方。

 にらまれたり、嫌味を言われるだけならともかく、

 階段の上から突き落としたり、公爵家の使用人を使って私を攫おうとするなんて!!

 そんな人はベッティルの婚約者としてふさわしくありません!」


「私がそんなことをしたことはありません」


言われることはあらかじめわかっていた。

なので、大した動揺もせずに否定する。

顔色一つ変えない私が面白くないのか、ベッティル様が舌打ちする。


壇上の端にいた陛下のもとに宰相が慌てて駆け付けたのが見えた。

陛下と宰相にとっては困った事態だろう。

無理やり婚約させた私にこんな難癖をつけているのだから。


「他にも証言するものはいる。

 出てきてくれ、ブランカ」


「はい!」


一学年の場所から、ブランカが前に出てくるのが見える。

前に出てきたと思ったら、私に向かってまくし立てた。


「お姉様!もうこんなことはおやめください!

 公爵家の使用人を使って、イザベラ様を攫おうとしたことはわかっています!」


「ブランカ、よく考えたの?

 こんな場で嘘を言うと後で大変なことになるのよ?」


「嘘なんかじゃありません!

 いつもお姉様はそうやって、私やお父様とお母様をいじめて!

 家族を虐げて楽しんでいる性悪なお姉様に、

 公爵家を継ぐ資格なんてありません!」


「ほら、妹も証言している。

 いいかげん、認めたらどうなんだ?」


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