第12話 意地悪なお姉様(ブランカ)
「……ひとりぼっち。かわいそう、お姉様。
わかったわ!私、お姉様に会ってくる!」
「ええ、それがいいわ」
うれしそうなお母様に見送られて部屋を出た。
お姉様はこの屋敷にはいないって使用人が言ってた。
どこにいるんだろう。
庭に出て探しに行こうとしたら、庭師に止められた。
庭師のくせにお嬢様に話しかけるんなんてしつけがなってないわ!
腹が立ったけど、庭師はお姉様のいる場所を教えてくれた。
「ここから先は行っちゃダメだ。
お前はエルヴィラ様が住む離れに近づくのを許されていないだろう。
早く本宅に戻りなさい」
「うるさいわね!庭師のくせに話しかけないでよ!」
「いいから戻れ!」
頭に来て言い返したら庭師に怒鳴られ、怖くなって本宅に戻った。
身体の大きい男に怒鳴られたらさすがに怖い。
なんてこの屋敷の使用人たちは生意気なんだろう。
お父様はどうして新しい使用人に変えてくれないのかな。
言うことを聞かない使用人なんて鞭で打って追い出せばいいのに。
その時はあきらめて部屋に戻ったけれど、
次の日に庭師がいないのを確認してお姉様がいるという離れを探した。
屋敷の奥はものすごく広い庭で、迷子になりそうだった。
うろうろしていると遠くに建物があるのが見えたから歩き出す。
そこでまた知らない使用人の女に声をかけられる。
お母様と同じくらいの年齢の使用人は、いつも見る使用人と違う服を着てた。
「これ以上こちらに来てはいけません。
本宅に戻りなさい」
にこりともしないで私に命令されてイラついた。
なんなの?使用人のくせにえらそう。
なんで庭師や使用人が私の行動を邪魔するんだろう。
「離れにいるお姉様に会いに行くだけよ。邪魔しないで」
「エルヴィラ様は誰にもお会いしません」
「なんでよ。お姉様はひとりぼっちなんでしょう?
かわいそうじゃない!」
「……ええ、そうですね。かわいそうかもしれません」
「だったら!」
「だからこそ、あなたを近づけることはできません」
「は?」
意味がわからない。
聞き返そうと思ったら、その使用人に抱えあげられて本宅に連れ戻された。
暴れても叫んでも止めてくれず、本宅に着いたら違う使用人に引き渡された。
「エルヴィラ様に近づこうとしていたわ。ちゃんと見張るように言って」
「申し訳ありません」
どうやら使用人の中でも立場が上だったのか、本宅の使用人に指示を出すと戻っていった。
あとちょっとで離れに行けたのに!
どうしてお姉様に会いに行くのを邪魔するんだろう。
こうして何度も離れに行こうとして、使用人に止められる。
ある日、ついに離れの建物に近づくところまで行けたら、何かに弾き飛ばされた。
バチン!!
「…!? いったぁい!」
何が起きたのかわからなかった。何もない場所なのに、何かに弾き飛ばされた。
転がった時のおしりと手が痛い。手を見たら擦りむけて血がにじんでいた。
「……またあなたですか。この離れに近づくことはできません。
次にここに近づいたら、もっと痛い目にあいますよ。
もう二度と近づかないように」
あの使用人が離れから出てきたと思ったら、それだけ言って離れに戻っていった。
座り込んでいる私を助けもせず、そのまま。
腹が立って離れに向かって行こうとしたら、もう一度弾き飛ばされた。
バチーン!!
あ、飛ばされた。そう思ったらもうわけがわからなくなった。
気がついたら包帯だらけになって本宅の部屋に寝かされていた。
その後もなんとかお姉様に会おうと手紙を送ったり、
敷地の出入り口で待ち伏せて声をかけたりしたが、お姉様の返事はいつも冷たかった。
お姉様は私を見るといつも困った顔になる。本当に私のこと嫌いなの?
姉妹なんだから、仲良くすればいいのに。
そんな生活が二年過ぎた頃、久しぶりに商会のミラちゃんと会った。
お母様が買い物をしている間は遊んでなさいと言われて、
いつものようにミラちゃんの部屋にいく。
しばらくは人形遊びしていたけれど、
またミラちゃんにお姉様の自慢をされて、思わず言ってしまった。
「私にもお姉様ができたのよ!とっても綺麗なんだから!」
「え?ブランカちゃんにお姉様なんていないでしょ?」
「いるの。エルヴィラっていう名なのよ」
「は?それって、公爵家のエルヴィラ様のこと?
ブランカのお姉様じゃないわ。母親が違うし身分も違うんだから。
そんな失礼なこと言っちゃいけないのよ?」
「母親が違う……?身分がって、どういうこと?」
そこで初めてお姉様と母親が違うことを知った。
お姉様が頑なに私たちと仲良くなってくれない理由も。
だけど、もう家族になって二年も過ぎているのよ?
いい加減すねるのをやめて、仲良くなってくれてもいいと思うの。
いつまでも一人でいるから意地悪なままなんだから。
思いつくことは全部試した。
なんとかお姉様の性格を良くしようと頑張った。
でも、よっぽど性格が悪いのか、まったくうまくいかなかった。
そのうち、お姉様のせいでお父様とお母様がケンカするようになってしまった。
お姉様が学園を卒業したらお姉様が公爵になる。
そうしたら私たちはこの屋敷から出て行かなくてはいけない。
お母様はそれが近づくにつれてイラつくようになって、
お父様を責めるようになっていた。
「まだ認めてもらえないんですか!?」
「仕方ないだろう。エルヴィラが認めない限り、お前たちは家族になれない」
「いつまで我慢しなきゃいけないんですか!
あなたは公爵家の当主なのに、どうしてエルヴィラ様に逆らえないのですか!
娘なら父親の言うことに従うのが当然でしょう!」
理由はわからないけれど、お姉様はお父様にも意地悪をしているようだ。
お父様が当主なら、お姉様に従う必要はないのに、どうしてなんだろう。
「お父様!」
「なんだ、ブランカ」
「お父様が公爵なんでしょう?」
「あぁ、そうだよ」
「じゃあ、お父様の次は私が公爵を継げばいいのよ!
お姉様が継いだら私たちは追い出されてしまうんでしょう?
私だってお父様の娘なんだから、私が継いでも問題ないはずよ」
「だが、エルヴィラは王子と婚約している。
さすがに陛下だって認めてくれないだろう……」
「それって、ベッティル様のことでしょう?
学園でいつも違う女の人を連れているって有名よ?
エルヴィラとなんて結婚したくないって言ってるって」
「何、それは本当か?」
「本当よ。そうよ、ベッティル様にもお願いして、
一緒にお姉様を公爵家から追い出してしまえばいいのよ!」
その次の日からベッティル様とイザベラ様に近づいて、お姉様のことを相談した。
お姉様と仲良くするのはもうあきらめた。仕方ないもん。
私があんなに頑張ったのに、お姉様の性格が悪すぎた。
あんな性格の悪いお姉様が公爵家を継いだら、私たち家族は追い出されてしまう。
幸いベッティル様とイザベラ様は私たち家族の味方になってくれた。
そうして、お姉様が卒業する前に婚約破棄をし、公爵家から追い出す作戦が始まった。
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